プロローグ 八族会議
拙い文章ですが楽しんでいただけるように書いたつもりですのでよろしくお願いします。
ここは日本のどこにあるかもわからない部屋の一室。
窓はなく、部屋の中心には円のように並んだ8つの柱があるだけである。この部屋には誰もいなかった。
「これより、我ら日本神魔協会による裏会議を開始する。」
そんな中で、一つの柱に光がついたと思えば、いきなり声がした。冷たい石の塊に見えるモノリスから声が空間の中に響く。
声がした途端、6つのモノリスにも光がつく。モノリスは円を描くように8つ置かれているが、その内の1つは光がついていなかった。
そんなことは誰も気にせずに会議は始まりを告げた。
「先日に『神』の若造が失敗したそうだな。」
「そればかりではなく、我らの邪魔をしたそうだな。」
「申し開きはあるかな。『神』の代表よ。」
「いえ、何もございません。直ちに処分致します。」
「『遠』よ。立ち合いを頼めるか。」
「はい。おまかせを。」
「『神』がしくじった時の処分はお前に一任しよう。」
「わかりました。」
今日の会議は先日に問題を起こした『神』の処罰に関することだったが、始めから処分は決まっていたのか。
誰も処分に反対の声を上げない。始めからみんなわかりきっていたのだ。この協会に逆らう者にはただ死あるのみだと。
同じ一族である『神』にしても、始めから擁護するつもりなどない。ただの慣例みたいな会議でしかない。
「今日みんなに集まってもらったのはそれだけではない。」
この会議で議長を務めているのは『王』だ。そのモノリスからの以外な声に他のモノリスからも疑問の声があがる。
当然だろう。今日集まるように聞いたのはあくまでも、『神』の処罰のためだと聞いていた。
どこのモノリスにも緊張が高まる。
「楽にしたまえ。我らに関することだが、どこかの処罰ではなく、例の組織についての問題だ。」
「例の組織と言いますと、やはり。」
「みなも知っておる。魔法至上主義どものことだ。」
全員の空気が弛緩すると、同時に嘲り声が響く。
魔法至上主義・・・魔法使いのための世の中を作ろうとする一組織だ。表面はただの組合みたいに社会的に魔法使いはその才能を世の中に貢献すべきという風潮に逆らうべく、うまれた組織となっている。
だからといって、魔法使い全てがそういうわけではなかった。一部の魔法使いたちは政治家や警察などに強いパイプを持って、特権を認めさせている。
そのため、組織を構成しているのは主に社会に認められなかった魔法使いということになっている。
しかし、その裏面は完全なテロ組織である。魔法使いとは人間を超えた存在として、魔法使いという職業にされることに不満を持った魔法使いも属しており、これらを主導としてテロ行為は行われている。
魔法排他主義の議員の暗殺や魔法使いの地位が低い国で道路での爆破など、手が荒いことで一部では有名である。
一部しか知らない理由は警察や政治家にパイプを持つ魔法使いが自らの地位を守るために、正式な公表を止めているためである。しかし、排他主義により噂は流されて魔法への不信感が高まっている国もあるという。
「愚かな。今の国の発展は我ら魔法使いによるものだということを忘れたのか。」
「愚かなのはあやつらもよ。我らは表と繋がることで発展したというのに。」
「思っていても口には出さなければいい。ただの人間を屑だと思うのは我らも同じだ。違うのは利用するか否かだけ。」
「だが、最近は学生にも魔法至上主義に入る者が増えているという。」
そう近年さらに問題視されているのは、学生の参加。簡単な思い込みなどで流さてしまう学生は組織にとっていい捨て駒扱いされ、自爆テロの増加につながっている。
こういう事態を警察などでも止められず、表面では別のテロ組織による洗脳だと公表されている。
「最近は面倒事しかありませんな。若造は世の中のことを知ったふうに口をきく。」
「我ら魔法使いの繁栄に愚民の犠牲が必要なのだ。そのことがわかっていない。」
「おっと、失礼した。『天』の御当主もまだお若いのでしたな。」
「学生生活ではないですが、くれぐれも愚かなことをなさらないことですよ。」
そんなことを考えている内にも、自分たちの利権しか考えていないような連中による雑談はまだ続いていた。
そろそろ回線を切りたいのだが、この中で一番下である俺から抜けることはできない。
ただ黙って、雑談が終わるのを待っているしかなかった。
『神』も先ほどから黙ったままであり、『遠』と『王』はそれらを聞いてはいるが話には参加していない。残った三家が話しているだけである。
「『天』よ。3年ほど前の会議で、お前は『天』の正式な当主として、ここに並ぶことを許された。しかし、お前はまだ若い。」
いきなりの『王』の声に周りが一気に静かになる。それは俺も同じだった。会議がいつ終わるのか待っていた時に、いきなり言われたのだ。
誰もいきなり発言した『王』の真意がわからず、黙って『王』の言葉を待つ。
「お前は中学もろくに通わないで過ごしてきたはずだったな。学力などに問題はないが、将来にここを代表する一家として立つための経歴が必要だ。そのためにも次の月曜日より、国立魔法学園たる神龍高校への入学を勧める。どうだ受けるつもりはあるか。」
確かに俺は中学にはほとんど通っていなかった。遠方の中学に入学する一歩手前で、この協会に入ることになり、近くの公立の中学に切り替えたのだが、結局通ったのは三年間で百日にも満たない日数だった。
「ありがたい申し出ですが、今『天』の者でまともに動けるのは私一人です。私が動かないと、『天』は仕事に差し支えがあると思いますが。」
「構わん。少しは社会勉強のつもりで、休んでみてはどうか。お前は確かに良く動いてくれている。これはそんなお前に対する我らからの褒美みたいなモノだ。」
「しかし、それでは『天』の仕事は誰がすれば、する者がいないわけには。」
「せっかくの『王』よりの勧めなのですから受けてはどうですか。ここでの仕事が全てではないでしょう。」
「あなたはまだ若い。重要な仕事を任されるような立場でもないのだから、受ければいい。仕事は我らが分担して終わらせますぞ。」
「高校すら出ていない当主など、周りに笑われるだけですぞ。遠慮していないで、『王』の当主の好意をお受けなさい。」
よくもそんなことが言えるな。これは左遷だ。力を無くして、滅びる一歩前だった『天』が復活したのが、面白くないだけだ。
『天』の後釜を狙っていた連中は俺がこの地位についたことで、機会を失ってしまった。再び力をなくすために、俺を席から離れさせようとしているのだろうが。
まだまだ発言権がほとんどない俺がここから離れるのも危険だが、『王』を怒らせるのは避けたい。
今の地位がいられるのも採決の前に『神』と『王』が味方になってくれたおかげだ。できれば怒らせたくなかったのだが。
「それはどうしてもですか。」
後少しだけ粘らせてもらう。すると、『王』は不機嫌そうになり、
「気に入らなかったか。学生としての生活をさせてやろうと思っただけなのだが。」
「いえ、受けさせてもらいます。資料を送ってもらえますか。」
こちらが折れるしかない。重要な味方を失うのだけは避けたかった。
「そうか。詳しい資料は後で送らせてもらう。次の月曜日からだからだ。」
「学生生活を楽しまれたらいい。」
「少しは年相応のことをするべきだな。」
完全な嫌味だな。俺がこの地位にいることがそんなに気に入らないか。
議長である『王』によって、会議の終了が告げられる。
「これにより、日本神魔協会の裏会議を終了とする。
我らの栄華のために。」
「我らの栄華ために。」
すぐに全てのモノリスの光は消え去っていった。
自室で使っていた機械から離れる。
先ほどまでこれを使ってモノリスで話していた。あのモノリスへの接続用であり、それ以外は外部の繋がりはない。
俺は伸びをするとキッチンに行って、紅茶をいれた。この家は俺一人で住んでいる。両親は二人とも仕事で海外や国内を飛び回っており、数年も前から帰っていない。
一休みした後にパソコンのスイッチを入れると、メールが届いていた。
「これが入学する学校についての資料だ。後、先ほどの会議中では伝えなかったが、この辺りは魔法学校が乱立しており、日本唯一の魔法学園都市となっている。これが意味することがわかるかね。つまり、未熟な学生が多いということだ。
そのために、君には学校を監視してもらい、不穏分子を取り除く仕事をしてもらう。あそこは我らでも権力が及ばない数少ない場所だ。警察や政治家もあそこに触れたがらない。
それはあの学園都市を作り上げたのが、例の組織に関係のある連中だからだ。魔法使いのための都市を作ることで徐々に乗っとるという算段なのだ。それを阻止するためにも君には頑張ってもらう必要がある。
我らが使える権力を総動員して、最優秀校とされている神龍高校に入学できるようにした。さらに高校内を自由に歩き回るために風紀委員か生徒会のどちらかに入れるようにした。
我らができる協力はここまでだ。一応仕事の終了は高校卒業までだ。都市内の組織をいくら潰しても新しいのがすぐに入ってくるだろう。そちらの正体がばれないように気をつけること。
P.S.
これは周りの家を牽制させるための仕事だ。学生生活を楽しみ、この仕事は暇なときにでもしてくれたら構わん。」
長いメールを読み終えると、すぐに削除する。きちんと欠片もデータが残らないようにしておくことも忘れない。
何故、ここまで『王』が俺に肩入れしてくれるのかわからない。接点など今までの仕事にもない。それ以前はこんな協会があることだって知らなかったのだ。
下に行くと、資料が家のポストに入れられていた。始めから『王』の狙い通りというわけか。
◆魔法都市について
数十年前より始まった魔法使いのエリートを育てるのに、学生たちを競争させるために一ヶ所に集める計画から始まった。それは湾を埋め立てて、土地を作って都市を建てるモノであった。
同時に魔法至上主義による侵攻も始まったのである。学校は大きく分けて五校あり、いずれもエスカレーター式であり、広大な敷地を持つ。
他の学校はその5つのどれかに属している。どの学校も風紀委員や生徒会の力が強く、先生たちは授業以外ではほとんど何もしていない。
まだできてから十数年しかたっていないが、ここを出た者とそれ以外の者の実力差は歴然だった。
今では魔法を学ぶ者はここへと入学しないと、魔法関係には最低限の就職すらできない可能性があるとも言われている。
次に高校についてだが、神龍高校は様々な選択肢がある高校であり、将来が決まっていない者はここでなりたいモノを探す。他には魔法工学や魔法の研究をしているなど、それぞれ専門分野を持っているなど高校ごとに特色がある。
唯一、繋がりがあるのは警察へとなる者が通う実戦を重視した高校だが、最近は警察内にも不穏な空気があるため、我らとたまたま知り合った神龍高校の理事に今回の件を頼んだ。
詳しい資料を見た感じだと、都市まではここから車で一時間ぐらいかかる。この家から通うのは不可能か。できればモノリスへの接続ぐらいはしたかったが。
上に戻ると、もう一通メールが届いていることがわかった。
「言い忘れてあったが、荷物なら心配はいらない。君の家ごと向こうに移すつもりだ。モノリスについてもなんとかしよう。」
家ごと向こうに移すと言うが、どうするつもりだ。
それにモノリスへの接続は可能だということか。本当に『王』の考えが読めないな。俺にこうも肩入れしてくれるとは。しかし、とりあえずはこの話に乗るしかない。
こうして、『天』の代表である俺の学生生活がスタートを告げることになるのだが、これから起こる事件について俺は何も知らなかったのだ。