謎リスク
nazoliscus
証拠などない
正解なんてないのだ
「やっぱよう、人間リスクを取らねえといけねえな」
ヒデは帽子が嫌いだった。強い日差しの中であろうがが、頭の蒸れる感覚や、何かが頭ににあること自体が嫌なのだ。だが日差しはヒデの顔を焼き、頭皮を焦がしている。少し休もうと歩道の木陰で立ち止まる、と足元の石畳がカタカタ揺れていることに気づいた。
木漏れ日が照らすブロックの一つが剥がれ浮いておりカタカタ揺れている。と、それを吹き飛ばし、何かが飛び出した。大蛇だ。歩道の地下に潜んでいた蛇が突然飛び出したのだ。
その蛇の色合いや存在感は背後ののどかな夏の景色にとって異物だった。ヒデは、謎を出す蛇こと謎リスクと対峙していた。
額がひんやりする。これが冷や汗なのだろうか?
ゆっくり距離を取ろうとするヒデに蛇は言った。
「アジサイの花が似合わない夜は?」
質問がわからなかった。白夜や白昼夢、満月などの単語がよぎる。答えかかったが状況を悪化させたくない。15秒ほどたったとき
瞬間、蛇の頭が消えたかと思うと、
ヒデの右手から薬指が噛みちぎられた。
「ぐあぁ!」
うずくまるヒデを横目に、謎リスクは鋭い毒牙で悠々と薬指を食んでいる。
「みんなが勝てるものなーんだ?!」
「ううぅ、株、?」
ヒデの右耳が強烈に引っ張られ、ぶらりとぶら下がった。視界が赤く染まり痛みに頭痛を覚える。
ヒデは跳ね上がり、一気に謎リスクを思い切り蹴り上げた。
不意を突かれた蛇は空中へ浮かぶ。暴れるホースのようにしなった後ドサリと落ちるのを横目に確認し、ヒデは駆け出した。
汗でメガネが滑る。滑り止めのないものにしなければよかった。頭が痛いのは熱中症か出血か動揺か。
一羽の鳩が日なたの水たまりを啄んでる。ガソリンスタンドの地面は車が通る辺りだけコンクリートが凹んでおり、雨水が溜まっているのだ。
刹那、水たまりがゆらりと揺れる。白い蛇の頭が水面に映ったかと思うと勢いよく水たまりが弾け、鳩を噛み砕きながら謎リスクが出現する。
「おういけねえやな、リスクを負わねえとさぁ。暑くて寒いものなーんだ!?」
「あ、油揚げアイス?、!」
蛇はため息をつくと言い放った。
「もういいよ、終わりだよお前」
その言葉にヒデは、せかいのおわりを想像した。
火を放つ 水の都の護り神
歴史ある寺や神社を焼き払い、吹き飛んだ瓦がコンクリートの塀に当たり粉々に砕ける。
山を切り崩していた、作業中のショベルカーがビルほどもある高さから転がり落ち小学校の体育館の屋根をぶち抜いた。
自転車の車輪に巻き込まれた傘はぐしゃぐしゃに折れ曲がった。
もりもりに盛られたブロッコリーのような森は秋のせいか少し黄ばんでいた。
そんな光景をヒデは想像した。
だが蛇は何もしてこなかった。いや、何もできなかったのだ。蛇は突然嘔吐を始めた。純白の体皮は赤い虹色に変色し、やがてパリパリと剥がれ出した。
のたうつ蛇は毒牙を剥き出しにし、何かを睨んでいるようだったが、やがて口から血を流し事切れた。
青い血は毒液でもあるようだ。コンクリートを這っていた不幸な蟻が数匹、血だまりの中に浮かんでいて、
落ちかけた夕陽が田んぼを染めていた。