いつも通りの朝だった。
いつも通りの朝だった。
枕元に置いたスマートフォンの液晶には、六と三十の数字があった。僕は毎日その時間に起きて、それはここ数年変わっていない。
重たい頭をどうにか支えて、朧げな感覚を抱えたままベッドから降りた。
リビングにたどり着くと僕はまずテレビを点けた。
いつものチャンネル。いつものニュース番組。そこに映し出されるアナウンサーの名前だってそらで言える。
女性特有のやや高く、よく通る声で僕に向かって語っている。
併設されたキッチンの冷蔵庫には僕の覚えのない物ばかりが入っていた。どれもこれも僕が買った記憶がないもの。それもいつものことだ。
今日の朝の食糧…、もとい昨日の晩の残りを温め直す。肉じゃがに、魚の塩焼き、そして味噌汁。魚はなんて言ったか、何しろ、これを作ったのは僕ではないから…。
いつのまにかテレビの画面は切り替わり、映されているのは何処かの交差点。
車を導くべき信号機は折れ曲り光を失い、その機能も失っている。近くの建物は倒壊し、遠くで誰かが叫んでいる。煙は空へ膨らみ、微かに見える影が二つ動いていた。
現地のリポーターがなにかを言った。
テレビから少し離れているせいか、何を言ったのかは上手く聞き取れない。しかしこの光景が決して交通事故のせいではないことは十分に知っていた。
煙が薄れていく、激しい音を撒き散らしていた二つの影の容貌が露わになる。
一つは人だった。僕と同じ人間で、僕と同じ言葉を発し、そして僕と違って刀を一振り持っていた。
もう一つは人ではなかった。僕と同じ人間のようで、僕と同じ言葉を発しているようで、僕と違って身体に角が、翼が、尻尾が、生えている。
僕は画面越しにその情景を見つめ、頬を緩めた。
……ああ、いつもと同じだ。
変わらない朝、変わらないニュース、変わらない、僕。
変わらないって、素晴らしい。
ヒーローがいた。
彼らは世界を守るために、力を手に入れた。
魔人がいた。
彼らは自らの欲望のために、力を手に入れた。
いつからだったか、世界は彼らを中心にして回り始め、当たり前のように人々は彼らの存在を許容し、日常の一部分に当てはめた。
僕が生まれるよりずっと前から彼らはいたし、物心ついた時から慣れっこだったから気にしたことはなかったが、もし僕が彼らが誕生する時代に立ち会っていたらどうだったのだろう。キチンと適応できたのだろうか。
いずれにせよ、ヒーローと魔人の争いなんて僕にとってはバラエティ番組よりも見慣れたものだった。
死者一名の文字と、続くように書かれた巻き込まれた人の名前。それを僕はまるで交通事故の死傷者を見るようにチラリと一瞥して、すぐに興味を失った。僕だけじゃない。きっと他のみんなもそうだ。
ああ、可哀想に。それだけ思って僕の意識はもう、ポップなアニメーションで発表される星座占いに向いていた。