第6章 2人の出会い(イタリア編)その2
それから、3カ月の日々が経った。ある日、私はマロンに呼び出された。
場所はいつもの応接室であり、マロンは頭を抱えてソファに座っていた。
私はマロンに聞いた。
「ボス、何かありましたか?」
震える声で、言葉を切り出す。
「俺は賞金首にされた」
「本当ですか?」
「ああ、ワイルドバンチに登録されているみたいだ」
「私が調べてみましょう」
まあ、マフィアなので賞金首になるのは時間の問題だと思っていた。こんな時の為に、ワイルドバンチの不正IDを裏ルートで入手していた。
私はワイルドバンチのサイトに不正ログインした。
スマホでマロンの名前を検索すると、画面に沢山の情報が出てきた。
マロン=コルオネ(54歳)
賞金額(500万ギル)
仕事は武器の密売。他にも、飲食店のみかじめ料の搾取をシノギとしている。
生け捕りで500万ドル、死体で250万ドル
他にも、マロンの細かい情報が載っている。
大体の賞金稼ぎは殺す事が多い。生け捕りで捕まえるのは、殺すよりも何倍も大変だからである。だから、死体の場合も金額も表示される。ワイルドバンチが出来た頃に、人権団体が反していた。賞金稼ぎと名ばかりの殺人鬼ではないかという意見が出た。
そこで、表向きでは生け捕りを前提するルールになっている。しかし、正当防衛という名目なら、殺す事は罪にならない法律が改正された。
なので、生け捕りのルールを守っている奴は少ない。各国では賞金稼ぎのやる事は認知しないのが暗黙のルールになっている。
元々は治外法権の移民犯罪者を取り締りから始まった職業であるからだ。国の治安を守る為に、多少のルール破りには目をつぶっている。どこの警察も治安維持が目的だ。だから、悪人を潰すのは警察ではなく、賞金稼ぎがやる時代になっていたのだ。
今回の賞金稼ぎも、マロンを殺す可能性が高いはず。なぜなら、依頼主はマフィアの抗争に巻き込まれて死んだ遺族だからだ。金よりも敵討ちの目的の可能性が高いであろう。
だけど、私もプロであるので私情は挟まないつもりだ。何があってもマロンを守るのが仕事である。私は
マロンを安心させるように優しく声をかける。
「ボス、大丈夫ですよ。私が命に代えて守りますよ。安心してください」
「ああ、頼むぞ。ミス冬子」
ワイルドバンチのサイトは賞金首を探すサイトだ。
依頼主が採用した賞金稼ぎに、賞金が支払われるシステムである。しかし、当然ながら問題点もある。不正IDを手に入れて、情報を閲覧する者が多いのだ。
採用人数は依頼主が決められて、採用された賞金稼ぎの人数はサイトに表示される。
これが問題点である。順番を追って説明しよう。私が不正ログインのIDをどうやって手に入れたか?
答えは、悪い賞金稼ぎから売ってもらったIDである。IDや情報を売って稼いでいる賞金稼ぎも多いのだ。しかし、狙われる側にとっては助かるシステムだ。なぜなら、採用人数はゼロの時は安心して生活が出来るのだ。
私はマロンが、現在は何人に狙われているか確認した。すると、2人の賞金稼ぎが採用されていた。マロンを狙っている賞金稼ぎは33歳の男と10代の少女だ。腕のある賞金稼ぎはプロフィールを公開できるシステムになっていた。それでも、匿名は性別と年齢層までは表示しなければならない。
1人はプロフィールを公開しており、マイケルという33歳の男だった。写真を見ると、強面の男でオールバッグに髪を緑に染めていた。ナイフ使いの達人と記載されている。自己アピールの文章が痛い。
俺のナイフに切れない者はない、あるとしたら女性の縁だけさ……。
こんなクソみたいなコメントをアピール文に記載していた。他にも、5万ギルの賞金首を捕まえた事を自慢していた。しかも、万引きの常習犯で77歳の賞金首だった。どうやら、万引き犯のジジイをボコボコにして捕まえたらしい。
正直、自慢できるレベルの賞金首ではない。面が割れるし、デメリットの方が多すぎる。情報を公開している奴は、1億ギル以上の賞金首を捕まえている化物クラスの奴らだ。
それだけの実績があれば、依頼主は安心して採用する可能性が高いからだ。他には、目立ちたがりでSNSの感覚で公開しているバカな賞金稼ぎだ。いつの時代にもSNSで炎上させてしまう若者が後を絶たないのだ。
マイケルって男は後者のタイプだ。いかにも、自己顕示欲が高い見た目をしている。そんな脅威を感じる事もないだろう。
残りの10代の少女は情報がなく分からないので、常に警戒しなければならないのが大変である。しかし、10代の少女が強いとも思えなかった。目立ちたくて、賞金稼ぎになる若い女も多い。どの世界もそうだが、若い女性はチヤホヤされるものだ。おそらく、特に問題はない。この女もそういうタイプに違いない。
それに大体は採用されてから、1ヵ月以内に襲ってくるパターンが9割だ。賞金稼ぎも、ライバルに獲られないように仕事が早い奴が多いのだ。まあ、こういう世界で仕事が遅い奴は死ぬだけだ。この1ヵ月を警戒すれば問題ないはずだ。
私はマロンに2人の賞金稼ぎの情報を伝える。
「ボス、心配ないです。2人とも素人に毛が生えたレベルです。安心してください。私が逆に捕まえてやりますよ」
「分かった。頼むぞ……ミス冬子」
10代の少女は年齢からして、経験も浅い可能性が高い。マイケルって男だけ警戒すれば問題ないだろうと判断した。しかし、この時の判断を誤っていたのであった。
それを実感したのが、10代の少女の賞金稼ぎと戦った時だった。それがナツだと知るのは後の話である。