第4章 対決、人身売買ブローカー
私はナツを心配していなかった。なぜなら、ナツは私と互角くらいの強さなのだ。
まずスキンヘッド男の右手がナツの胸倉を掴む。そして、右腕だけでナツを持ち上げると、華奢な体が宙ぶらりんになる。
スキンヘッド男が笑う。勝ちを確信しているのだ。
「ハハハ、スゲー筋肉だろ。お前なんて、片手で持ち上げる事が出来るぞ。抵抗するなら殺すぜ?」
だが、ナツは余裕をかましながら、スキンヘッドの男をおちょくる。
「フフフ、早く離せよ。ハゲ男。ハゲハゲハゲハゲ……」
スキンヘッドの男の顔が真っ赤になっていた。ハゲというキーワードがNGのようだ。
スキンヘッド男は声を荒げる。
「ちょっと可愛いからって、殺すぞ。土下座して謝れや」
「バーカ、てめえが土下座しろや。死ね」
そう言うと、ナツはバク宙の要領で後ろへ回転して、鉄板入りのブーツをスキンヘッド男の顎に叩き込んだ。つまり、サマーソルトキックを放ったのであった。
ブーツが男の顎にめり込んで、バキッという鈍い音と共に顎骨を叩き割った。すると、スキンヘッドの男が車にはねられたように宙に飛んだ。
ナツは体操選手のように、1回転しながら素早く地面に着地した。サイボーグブーツと足技のカポエラ、ナツのが最大の武器であった。
他にも格闘技が好きで、最近はプロレス技の挑戦しているようだった。
スキンヘッド男は、膝をついて前のめりに倒れており、土下座しているようにも見えた。
また、口からは泡を吹きながら痙攣をしていた。おそらく、顎が割れて口が閉じられないのだ。すごく、痛そうに見えた。ナツは酷い事をしやがるな。
ナツはスキンヘッドの男を見下ろしながら言った。
「スゲー、スゲー弱いな、ハゲ男。いや、俺が強すぎるだけか……」
そして、ナツは金髪の男を指さした。
「次はテメーだよ、金髪男。歯を全部叩き割って、入れ歯の状態にしてやるぜ」
ナツの奴、どっちが悪党だが分からないセリフだな。
恐怖を感じた金髪の男が叫ぶ。
「テメー、俺の相方に何しやがる? こっ、殺すぞ、このガキ!」
ナツが目を見開いて煽る。
「俺を殺す? 面白い。やってみろよ、金髪男」
その瞬間、金髪の男はズボンから拳銃を取り出したのであった。ナツを撃ち殺すつもりだ。
だが、遅い。私も拳銃を素早く抜いて、男より早く引き金を絞ったのである。
狙いは金髪の男の拳銃を弾く事である。一発の乾いた銃声が鳴り響き、金髪の男の銃が地面に転がった。拳銃はベレッタの新型だ。こいつら、金持ちだな。うらやましいな。しかし、金髪男の拳銃を抜くスピードが遅くてビックリした。よくこんな腕で裏社会を生きようと思ったな。正直、素人以下だ。
私はナツに注意する。
「ナツ、面倒事を起こすなよ。まったく、今は時間がないんだぞ。こんなザコを相手にしても金にならんぞ」
「さすが、冬子ちゃん。射撃は最強だぜ。でも、俺一人で十分だったぜ。余計な事をすんなよ」
「はい、はい……。悪かったですね」
この状況に金髪の男は震えながら喋る。
「なっ……なんだよ。本当に賞金稼ぎなのかよ? 拳銃を抜いたのが見えなかったぞ?
おっ、お前ら、マジの賞金稼ぎなのかよ?」
「うん、マジだよ。さっき言っただろ? 冬子、とどめは任せるわ」
「はいよ」
私は金髪の男に向かってスタスタと歩く。
ゆっくりと拳銃の銃口を金髪の男の額に当てると、ズボンから小便を垂れ流した。土の地面に水が染み込んでいく。コイツ、かなりビビっているな。
金髪男は命乞いをする。
「ちょ、ちょっと、待ってくれよ……。タンマ、タンマだって!」
「おい、免許と携帯を出せ。早くしろ」
「はい、はい出します」
すると、金髪男はポケットから、免許証と携帯電話を出して渡してくれた。
私は渡された携帯電話で警察に電話した。
「もしもし、強盗を2人捕まえましたので、すぐ来てください。犯人は……」
私は免許証に記載されていた金髪の男の名前を伝えた。後はハンバーガーショップの住所と、人身売買に関わっている事を警察に伝えた。
そして、金髪の男の額から拳銃を下した。すると、男はホッとした顔になった。私はニッコリと笑った後に、拳銃のグリップで金髪の男の頭をたたき割った。
すると、男は膝から崩れ落ちて、地面に倒れて気絶した。別に殺す価値もないし、警察に人身売買ルートを捜査してもらった方が世の中の為だ。それで、どこかの子供が助かるかもしれない。私だって、そういう情けくらいは持っているのだ。
ナツはケラケラと笑っていた。
「フフフ、痛そうだぜ。冬子は酷い女だなあ」
「いや、ナツの方が酷いぞ。顎が割れていたし、金髪男は気絶しているだけだよ。
それより、警察が来ると面倒になる。さっさと、ずらかるよ」
「たしかに、事情聴取は面倒だぜ。俺達に時間はないもんな」
「うん、そういう事だ。これ以上、依頼主を待たせられないよ」
私達は車に乗りこんだ。
私はエンジンをかけて車を走らせた。どんどん、ギアチェンジをしてスピードをあげた。ナツは車内で呟く。
「あっ、ハンバーガー買うのを忘れていたわ。アイツら2人のせいだわ。スゲームカつくんですけど……」
「でも、仕方ないよ。先に教会の依頼主に会ってから食事にしよう。それまで我慢してくれよ。私が奢るしね」
「んっ、ならいいよ。じゃあ、俺は寝るわ。運転よろ」
安心したのか、ナツはシートを倒して寝てしまった。本当に単純な奴だな。私は溜息をしながら、アクセルを強く踏んだ。車は教会に向かって走り出した。