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第3章 冬子という少女

私は駐車場の前に車を止めた。

ちなみに、この視点はナツじゃなく、天王洲冬子という女の視点だ。そう、ナツの相棒だ。私は日本人で拳銃と旧車が大好きな賞金稼ぎだ。


まあ、見てわかるように相棒のナツには振りまわされてばっかりだ。子供もいないのに育児をしている気分になる日々を送っている。でも、何故かワガママを許してしまうのだ。私は窓の外を見ると、ナツの言っていたハンバーガーショップが見えた。他にも、お土産の店など数件が並んでいて、ちょっとしたドライブインだ。


ナツは子供のように助手席から飛び出した。そして、両手を上に伸ばしながら喋る。

「おおっ、色々な店があるじゃん。さすが、観光地って感じじゃん」

「あんま、はしゃぐなよ。子供じゃあるまいし……」

ナツと一緒にいると恥ずかしい時が多い。


いわゆる、共感性羞恥心って奴だ。日本人は結構多くいるらしい。まあ、私もその一人だけどね。ナツは外国人なので、そういうのは分からないのかもしれない。そもそも、ナツが何処の外国の人かも知らないのだ。赤毛なので、スコットランド人かアイルランド人だと思うのだが、ナツがあまり過去を語らないので分からない。まあ、過去なんてどうでもいいか。


私は愛車のハコスカにしっかり鍵をかける。プレミア品で盗まれたら嫌だからね。最近のメキシコは窃盗も多いのである。さて、ハンバーガーを食べて仕事に行こうとしよう。

私達はハンバーガーショップの前まで歩く。外見はよくあるドライブスルーみたいな感じだ。外にあるメニューを見ると、色々なメニューが記載されていた。


ナツがはしゃぎまくる。

「おいおい、ここの店って、テレビで放映された店みたいだぜ」

「そうなんだ」

確かにメニューを見ると、芸能人が訪れた時の写真が飾ってあった。

「結構、有名な店みたいだね。写真を見ると美味しそうだね」

「当たり前だ。この俺が見つけたんだぞ」


ナツは一人称がおかしい。女の子なのに、『俺』という一人称を使うのだ。

言葉使いも不良少年のような言葉使いだ。服もチンピラが着るようなスカジャンを着ているし、私から見ても相当な変わり者だ。確かストリートチルドレン出身だから、育ちが良くないのかもしれない。そういえば、貧しい子供時代だったのは聞いたな。せっかく可愛い顔はしているのに、色々と損しているなと思う。


ナツが肩に手をまわしてきた。

「感謝しろよ。冬子」

「はっ?」

「だって、俺が腹減らなかったら、冬子は一生食えなかったと思うぜ」

「………」

ドヤ顔で言うので腹が立った。しかし、性格はまったく可愛くないな。

この間、説教したばかりなのに成長がないな。コンビニの立ち読み事件の事を、もう忘れているのだろうな。さっきまで、ヘコヘコしていたのに、すぐに態度がコロコロ変えやがってよ。でも、私はナツより、年齢が上なので我慢することが多い。


なので、大人の対応で返事をする。

「はいはい。ナツさんのおかげです。これでいいか?」

ナツは私の頬を突っつきながら喋る。

「いや、そこは感謝の言葉だろ。キミは出世できないぞ。常識を勉強した方がいいぜ」

そう言って、ナツは頬を指で連打してきやがった。このガキ、調子乗りやがって。


私は歯を食いしばりながら言う。

「あ・り・が・と・う」

私の態度を察知したのか、ナツは顔が引きつっていた。


ナツは震えた声を出す。

「わっ、分かれば……いいよ。ハハハ……。あっ、ジョークだからさぁ」

ナツは怒られるのが嫌なのか、地面をガン見している。アリでも探しているのかよ。テンションが高くなったり、低くなったりと忙しい奴だな。出来の悪い妹を持った気分だ。


私は外のメニューを見ると驚愕した。

「一番安いセットで1200ギルかよ。ふう、結構高いな。いや、かなり高いぞ。観光地価格ってやつだな。ナツ、ここは節約で一番安いセッ……」

私の提案はナツの大声によって遮られた。

「俺は贅沢セットに決めたぜ。冬子は何する?」


私は贅沢セットの値段を見た。

4800ギル‼ いやいや、高すぎるだろ。僻地だからってボッタクリ過ぎだろうよ。私達の全財産は6400ギルしかない状態だ。ガソリンを入れたら、破産して終わってしまう。旅の打ち切りだ。


私はナツに声をかけた。

「金がないから、一番安いセットだ。っていうか破産しちゃうからね……。貧乏人に選択肢はないよ」

「おいおい、冬子先生よ。ここはパッーと行こうじゃねえか。これから大きいヤマを踏むんだからよ」

だが、私は厳しく言う。

「ナツ、食えるだけ感謝しなよ。頼むから我慢してくれよ。また、食べに来ればいいだろ?」


ショボーンとした顔をしながらナツは答えた。

「分かった、分かった……。仕方ないな。我慢してやるぜ」

よし、よし、ナツも我慢を覚えてきてくれて嬉しいよ。金がある分だけ使うタイプだからな。その時、2人組の男が声をかけて来た。

「ねえ、姉ちゃん達に何しているの?」


いかにも頭が悪そうな男達に見えた。

声をかけて来たのはレザーのベストを着ている金髪の男であった。腕からは蛇の刺青が見えていた。腕から手首にかけて彫られている。その後ろには、スキンヘッドで180センチを超えている格闘家風の男だ。


金髪の男が唾を飛ばしながら喋る。

「おっおおー。二人ともスゲー可愛いじゃん」

ナツが素直に答える。

「よく言われるぜ、まあ、俺は実際に可愛いからな」

ナツは右手を頭の後ろにあてながら、ちょっと照れた顔をしていた。おいおい、照れるシーンじゃないぞ。見た目から悪党だろうが……。


金髪男が話しを続ける。

「ふーん、赤毛って珍しいな。ヨーロッパ系かな? そっちの黒髪の姉ちゃんは日本人か?」

私はぶっきらぼうに答える。

「そうだけど、何か用か?」

スキンヘッドの男が答える。

「すげー。日本人の女か。初めて見たわ」


私の母国である日本は少子化により、首都の東京では移民が4割を占めていた。コンビニ、スーパー、アパレルの店員などで日本人を見る事はほとんどない。純粋な日本人は年々減っているので、特に若い女が珍しいのだろう。


スキンヘッド男は馴れ馴れしく喋りはじめた。

「俺達はボランティア団体だよ。メシでも奢るよ、遊びに行こうぜ」

ボランティア団体の人は刺青なんかしないだろう。スキンヘッドの男が、私の肩に手を置いてきたのでイラつく。知らない男に触られるのは嫌な気分になる。


それより、男達から硝煙の匂いがした。おそらく、ナツも気づいたはずだ。こいつらは堅気の人間ではない事を……。まあ、見た目でチンピラであることは普通の人でも分かる。もしかしたら、賞金がかかっているかもしれない。


私は疑惑をぶつけた。

「ねえ、最近のボランティア団体は、拳銃なんか持っているの? 硝煙の匂いがするぞ。

お前ら、堅気の人間じゃないだろう?」

男達は唖然とする。すると、金髪の男が驚く。

「おまえら、何者だよ?」

ナツが会話に入ってくる。

「ふっふふ。俺達は伝説の賞金稼ぎコンビだぜ」

いや、まだ1年しかたってないのに伝説もクソもないだろう。ナツは話を盛る癖があるのだ。まあ、子供っぽい性格なので仕方ない。自分から伝説っていう奴はロクな人間ではないのだ。


だが、金髪は賞金稼ぎって言葉に動揺した。

「はっ、ハッタリだろ。2人とも細いし、強そうに見えないぜ」

「女だからって、甘く見ない方がいいよ。ところで、お前らは何者なんだよ?」

私がそう言うと、あっけなく正体を明かした。

「俺達はブローカーさ……。人身売買のさ」

「なるほど、クズって事は分かったよ」

「姉ちゃん、言うねえ。まあ、その通りなんだけどな」


金髪男はスキンヘッド男に聞いた。

「おい、この2人なら高く売れるだろう?」

「ああ、赤毛はレアだな……。それに日本人の女なら、高く買ってくれる金持ちは腐る程いるぜ。まあ、2人とも美人だしな」

「じゃあ、お前が捕まえてくれよ」

「オッケー、オッケー。俺の腕力を見せてやるぜ」

そう言って、スキンヘッド男は筋肉を見せつけなら威圧してくる。ムキムキの腕が自慢なのだろう。


私は金髪男に声を荒げる。

「おまえら、今回が初めてじゃないな。かなり、手慣れてやがるもんな」

「正解、この仕事は儲かるのよ。最近は子供の臓器が高く売れるって感じかな。でも、やっぱり若い女の売買は気楽にできるのよ。さて、お前らも怪我をしたくないだろ? 抵抗しなければ傷をつける事はしないぜ」

もちろんナツは断る。

「いや、行かないけどな……。さっさと消えろ、殺すぜ?」


すると、金髪の男はスキンヘッドの男に合図をしながら言った。

「ハハハ、顔に似合わず口の悪い子だな。じゃあ、力ずくで付いてきてもらうわ。お前らに拒否権はねえぞ」

そう言うと、スキンヘッドの男がナツを襲った。


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