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第2章 ナツという少女

車が教会に向かって走っていた。

俺は助手席でリラックスしながら、ボンヤリと外の風景を眺めていた。おっと、自己紹介が遅れたが、俺はナツという根無し草の賞金稼ぎだ。


一人称がおかしいと言われる事もあるが、正真正銘の10代のピチピチギャルだ。しかも、ぶっちゃけ可愛いぞ。街を歩くと、ナンパされた事もあるぜ。今は冬子というお人好しの日本人の相棒と旅をしている。今回はメキシコが舞台だ。ここは景色が最高な国である。


荒野の一本道にサボテンと夕焼けはロマンを感じる人も多いはず。俺は窓の外を見ると夕焼けが綺麗だった。しばらくしたら、夕日は落ちるだろう。


運転席にはショートカットの美人が運転していた。黒髪にはっきりとしていた目が印象的である。俺の相棒である冬子だ。

その冬子が話しかけてきた。

「ナツ、依頼主は急いでいるみたいだ。飛ばすよ」

「へいへい」

冬子は日本人なので時間にうるさい。

日本は電車も正確な時間に来るという話だ。なんか真面目過ぎて嫌だなあ。俺のように適当に生きてほしいぜ。どうせ、人間はいつか死ぬんだし、人生は楽しまないともったいない。そうしないと、あっという間にババアになって死ぬだけだ。


それにしても、暑くて喉が渇く。

「冬子、喉が乾いたぜ。コンビニでも……」

「おい、時間ないって言っているだろ。いいかげんにしろよ」

「でも、5分くらいなら……」

「そう言って、前もコンビニでマンガを立ち読みして、大遅刻したのは誰だっけ?

もう、忘れちゃったの? 本当に反省したの? おい、聞いてんのか、オラッ!」

冬子の質問の攻撃が始まり、不機嫌オーラを発していた。しかも、やたら早口でキモイぜ。


だけど、まだ覚えているのかよ……。あれは2か月前だった。

仕事で依頼主に会うまでに暇な時間があった。

冬子はガソリンを入れにスタンドまで行っていた。終わったら、コンビニで待ち合わせをする予定であった。俺はコンビニで漫画雑誌を立ち読みして、時間を潰そうとしていた。雑誌コーナーの人気漫画雑誌は残り1冊であった。俺は最後の1冊を立ち読みしていた。


そこに1人の客が入ってきて、雑誌コーナーの近くまで近づいてきた。そして、俺の方をじっと睨んできて、さっさと立ち去れアピールをしてきやがった。おそらく、漫画雑誌を買いたいのであろう。

しかし、俺は知らんふりをしていた為に、その客が店員を呼んだのであった。なあ、酷くないか? 別に法律に触れているわけでもないのにさ。


店員が声をかけてきた。

「お客様、長時間の立ち読みは控えていただけませんか?」

「まだ、20分しか読んでないよ」

「しかし、他のお客様にもご迷惑になっていますので」

「チッ、うるせーな」


俺は立ち読みを注意されて店員とトラブルになった。そして、警察が来るまでの騒ぎまでに発展してしまったのである。俺は警察に囲まれながら口喧嘩をしていた。まあ、俺が80パーセントは悪いな。

そしたら、大騒ぎになって、簡単には帰れそうもない状態になってしまった。そこに冬子が車でコンビニに戻って来たのである。


すぐに冬子は状況を理解したのか、こちらをジッと睨んでいた。ひたすらに、冷たい目で……。確実に起こっていやがる。それも、当たり前だった。依頼主との待ち合わせ時間に、間に合わないと判断されたからだ。俺は警察で事情聴取をする羽目になり、かなりの時間を費やしてしまった。


9時間遅れで依頼主に会う事になった。冬子は鬼みたいな形相をしていた。俺の胸倉を掴んで、依頼主の前で土下座させたのである。この業界は、信用と時間厳守が第一であるから仕方ないのだけど……。まあ、どの仕事でも時間と約束を守らない奴は干される。


冬子は大声で叫んだ。

「ウチのバカがすいません。お前もあやまれぇえよぉおおーー」

俺は土下座して謝った。

「サーセン、サーセン。反省していますぅー」

もちろん反省などしてない、心の中では舌を出していた。依頼主は冬子が大声を出してビックリしているようだった。しかし、依頼主は温厚な人物で許してくれたのである。


依頼主の紳士の爺さんは声を出す。

「ナツさんも反省していますし、冬子さんも、そんな大声で怒らなくても……」

俺は依頼主の意見に便乗するように言った。

「ええ、すいませんね。お客様の前で大声出すなんてね。ビックリされたでしょう?

きっと、女の子の日でイライラしているんです。どうか、ご理解の程よろしくお願いしたします」

俺は冬子を悪者に仕立てあがる印象操作をした。そう笑いながら伝えると、冬子が俺の耳に近づいて呟いた。

「あとで、覚えておけよ……ナツ」


その後は、冬子に説教を1時間ほど食らってしまった。狭い車の中での説教は逃げ場がなく、辛くて悲しいものであった。それよりも、1時間も話すことがあるのがビックリだ。普通は長くて説教なんて、5分くらいのものだろう。でも、日本人はパワハラ大好きだから仕方ないのかも……。


俺は時間の無駄だと思って助言することにした。

「説教は時間の無駄だから、賞金首を探す時間に使った方が有効だぜ。俺は凄く反省したから大丈ブイ」

そう言って、冬子にピースサインをした。この行動が火に油をそそいでしまった。冬子は顔を真っ赤にして、説教を延長させてきた。その結果、合計3時間の説教が続いたのであった。まあ、ちょっとした戦争映画並みの時間だ。俺は後半の説教タイムは、もう涙ぐんでしまっていた。


でも、何もそんなに怒らなくていいだろう思っていた。人生なんて、ジョークみたいなもんだろ。でも、それ以降は冬子が怖いので怒らせないようにしている。真面目で融通が利かない所を除けば、相棒としては最高に気が合うからである。


それに、料理もうまいし、掃除も得意だし、金の勘定も出来る。しばらくはコンビを組んで金を稼ぎたい関係である。だからって、喉の渇きは変わらないけどな。本当はコーラを飲みたいけど仕方ない。今回は我慢しよう。


冬子を怒らせるとのは面倒だし、説教が長くなる可能性が高い。教会に着くまでヒマだから寝てしまおう。俺は助手席の背もたれを少し倒して、寄りかかって寝ようとした。しかし、今度は腹が減って目が覚めてしまう。


外の風景を見ていると、壮大な雲がソフトクリームに見えてきた。サイドミラーを見ると、大量のヨダレを垂らしている女がいた。それは俺の顔だった。なんてマヌケな顔だよ。とりあえず、外の風景を見てれば寝落ちするだろう。


しかし、窓の外は荒野ばかりで、サボテン位しか目に入らない。正直、同じ風景で飽きるぜ。だが、ずっと荒野が続く中で、風景に変化が見えて来た。


俺は風景の中にハンバーガーのポップな看板を見つけた。ハンバーガーには顔が描かれており、幼児アニメに出てきそうなキャラクターだ。僕を食べてくれと言っている気がした。早くこっち来なよ。ナツちゃんに食べてもらいたいなあ。どうせ食べないと動けないで、仕事が出来ない状態だ。いいや、冬子の機嫌なんか取る必要なんかないぜ。俺達は五分五分の関係なのだから……。


とにかく、腹が減ったので教会に着く前に何か食べたい。無理だ、我慢できない。ハンバーガーショップを通りすぎる前に、冬子を説得すればいいだけの話だ。しかし、冬子から食べたいと言わせないと、恐ろしい説教を食らってしまう。あと不自然な演技は禁物なので、怪しくないように気軽な感じで騙すとするか。


俺は冬子に聞こえるように呟いた。

「あっ、ハンバーガーショップだぜ。凄く、旨そうだね……」

「ん? そうだな。なんか看板があるな」

まったく興味なさそうな反応である。くそっ、ハンバーガーショップに寄りたいオーラを、もっと出さないとダメだな。


俺は両手を上に上げて、ワザとらしく大声をあげた。

「あー、あー、腹減ったなあ」

「………」

ふざけんなや、冬子シカトかよ。無常にも車は止まる事なく走り続ける。ああ、ハンバーガーショップを通り過ぎていく。クソ、何とか止めてみせるぞ。そうだ、店に寄らないと仕事で手を抜くアピール作戦で行こう。そうすれば、仕事に真面目な冬子だから、ハンバーガーを食べさしてくれるはずだ。

俺は小声で呟くようにボソボソと喋った。

「ふう、ふう、腹が減っていたら、仕事で半分の力も出せないかも……。あっ、不安だな。あっ、大丈夫かな……」

「………」


冬子が車を路肩に寄せて停めた。急ブレーキで、キッキキーという音がした。停まった瞬間に体がガクンと前に揺れた。ブレーキの操作に怒りの感情が伺えた。

冬子は顔を近づけて来て、ヤクザのように絡んでくる。

「ナツ、何?」

やば、目が怖いよ。そこまで顔に近づけんなや。でも、怖いので声がうわずる。

「いや、別に何も……。それよりさぁ、まだ目的地じゃないよね。何で止まったのさ? 早く、教会に行かなくちゃ……」


冬子は言葉を遮る。

「ちげーよ、なんか言いたいことあるんだろ?」

「いや、別に……。冬子が腹を減ってないかと心配をしたのだけどさ。この先に食事する所ない感じだし……」

「ふん、私は減っていないよ」

「それは、良かった……良かった……」

冬子はイライラしているようだ。クソ、車内の雰囲気がクソになった。やっぱり、声をかけなければと良かったと後悔がこみあげてくる。冬子はエンジンをかけて、ハンドルを握って車を出発させようとする。

俺は腕に抱きついて引き留める。

「待って、待ってよ」

「何か?」

「あのー、俺が腹減っているのでハンバーガーを食べさせてください。ちゃんと、仕事をしますので、頼みます。相棒の冬子様」

「じゃあ、最初から素直に言えよ。私が食べたいように誘導させるのは腹立つよ。ナツはいつもずるいんだよ」


俺の思惑はバレていたようだった。

ふてくされながらも、ハンドルを握ってUターンしてくれた。通り過ぎたハンバーガーショップの方へ走り出す。冬子ちゃん、ありがとう、ありがとう。


冬子はハンドルを握りながら話す。

「まあ、私も正直なところ腹が減っていたからね。依頼主に遅れるってメールしておくよ。

ハンバーガーショップなら金も足りるだろう。じゃあ、行こうか」

「冬子様、ありがとうございます。美人で優しくて、車の運転もうまいし、人類の最高の女だよ。本当に魅力的でありまし……」


すると、冬子がクラクション2回ほど叩く。

「おい、お世辞を言うのはやめろ。ナツが人を褒めると全部嘘に聞こえるんだよ。詐欺師だ、詐欺師だよ」

「あっ、はい。すいません」

俺って信用されていないのね。まあ、嘘ばっかり言っているのでしょうがないか。とりあえず、メシが食える。良かった。良かった。なんだかんだ言っても、冬子は優しい女なのである。俺達はハンバーガーショップに向かったのである。


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