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第78章 ヴィンヤード公国の王宮事情

その頃、ヴィンヤード公国では……。ヴィンヤード公国とは、ユーラシア大陸にあり、中世の建物が多い小国であった。


主な産業は観光と宝石発掘である。観光産業では、500年前の建物が多く、RPGの世界のようであり、日本人観光客にも人気があった。他にも、歴代の女王は美女が多く、それを目当てで、観光に来る人も多くいた。


だが、裏ではウラン鉱物の取引をしており、ロシアと中国にそれぞれ売買していた。もちろん、それは核兵器の一部になっていた。全てはラヴィーナという悪女が取引を仕切っていた。その娘であるエレナはフランスの宮殿のような建物にいた。


エレナはナツそっくりの美少女であり、白いドレスを優雅に着こなしていた。しかし、運動神経は悪く、暴力的な事には向かず、花や動物を愛する心優しい少女だった。つまり、ナツとは正反対の人間であった。


そのエレナは絵画のある部屋にいた。絵画室は大きな部屋であり、ヴィンヤード公国に関する絵画が飾ってあった。そして、エレナの近くには1人のメイドがいた。


エレナは、そのメイドに質問をしていた。

「ねえ、マチルダ聞いていい?」

「エレナ様、なんでしょうか?」


マチルダと呼ばれる人物は、黒いメイド服を着ていた。彼女は金髪に青い瞳をしており、ソバカスがチャームポイントの女性であった。年齢は20代半、中肉中背であり、笑うと少女のような顔をしていた。


表向きはエレナの世話係であるが、裏では暗殺部隊『亡霊』のリーダーであった。しかし、エレナはその事を知らずに、無邪気な顔で一枚の絵画を指さした。それは第二皇女ナツミの絵画、つまりナツの自画像であった。


エレナはマチルダの方へ振り向く。

「ねえ、ナツミお姉様は生きているの?」

「10年前に死んだとされていますが、まだ死体が発見できずにおります。しかし、10年近くも音沙汰ないので、亡くなっていると思われます。なぜ、そのような事を聞くのですか?」

「もし、生きているなら会ってみたい。わらわには姉妹がいなくて寂しいのだ」

「私がいるではないですか? それでは御不満ですか?」


エレナはニッコリとした表情を見せた。

「ふふふ、マチルダが優しいのは分かっておる。それとは別に家族と話をしたいのだ。もし、ナツミ姉様が生きておられたら、わらわは王位継承を断るつもりだ」

「あまり、お母様をお困りにさせないでください。母であるラヴィーナ様も国民も、みんなエレナ様に女王陛下になってほしいのです。もう少し、自信をもってください」


エレナは悲しそうな顔をする。

「ふっ、そうだな。ところで、ナタリー女王陛下の様子はどうだ?」

「残念ながら、長くはないと思われます。相変わらず、ハルミ様とナツミ様の名前を口にしております。2人が生きていらっしゃる頃と記憶を混合されています」

「ならば、ナツミ姉様の捜索は進んでいるのか? もう、時間がないぞ」


マチルダは頭を深くさげる。

「ええ、全力でやっておりますが、今のところは偽物ばかりです」

「もし、ナツミ姉様が生きていれば、ナタリー女王陛下も目を覚ますかもしれない。あれでは、女王陛下があまりにも可哀相だ」


エレナはマチルダを真っすぐに見つめる。

「わらわは、全ての国民が幸せになれる世界が作りたい。階級など関係なく、差別がなく、殺し合いがない国だ。もちろん、マチルダにも幸せになってもらいたい」

「はい、ありがとうございます」


エレナは心から、国民が幸せになれる事を祈っていた。第三次世界大戦で死んだ人々の犠牲を無駄にしたくなかったのだ。


そして、マチルダはそういう心を持ったエレナを崇拝していた。優しく、慈悲深く、人の痛みが分かる少女だったからだ。マチルダはエレナに女王になってほしかったのだ。


そこに、エレナの母親であるラヴィーナが部屋に入ってきた。

「エレナ、ちょっと席を外しなさい。私はマチルダと話があるの」

「はい、お母様。では、失礼します」

そう言って、エレナは絵画室から出ていき、自分の部屋へと戻った。



絵画室にはマチルダとラヴィーナだけになり、しばらく沈黙が続いた。ラヴィーナは派手なドレスを着ており、首や腕には豪華な宝石を身につけていた。それはマリーアントワネットの身に着けている宝石に匹敵するものだった。


ラヴィーナは重い口を開いた。

「マチルダ、エレナの様子はどうなっている?」

「やはり、女王になる事に不安があると思われます。ナツミ様の偽物騒ぎのニュースを聞いて、どこか迷いがあるのでしょう。もし、本物が出たら、自分は王位継承を辞退すると言っていました」

「ナツミに様などいらぬ。私とお前が共謀して、日本人の天王洲アキを使って、暗殺したのだからな」

そう言う、ラヴィーナは悪びいている様子はなかった。自分の目的のためなら、手段を択ばない女なのだ。


マチルダは小声で喋りだす。

「ラヴィーナ様、声が大きいです。誰かに聞かれたら大変に事になります」

「お前も、気が小さい。まあ、王位継承さえしてしまえば、もはや後戻りは出来ない。お前はナツミを探して、見つけ次第に確実に殺せ。あの6歳の少女が1人で逃げられるとは思えない。きっと誰かが手を貸して、生きているにちがいないのだ。さあ、もう行け」

「はい、失礼します」

そう言うと、マチルダは忍者のように消えた。


ヴィンヤード公国内の暗殺技術については、マチルダはトップレベルであった。マチルダには親がおらず、幼いから人を殺して生計を立てており、餓死寸前のところをラヴィーナに拾われた。確かに、ラヴィーナに恩を感じていたが、人間的には好きにはなれなかった。


マチルダは心の底では軽蔑しており、女の嫌な部分を詰め合わせたような女だと思っていた。例えば、自分の子供は弱愛して、他人の子供はゴミ以下の扱いをする部分などだ。本音を言えば、ハルミとナツを殺す計画を聞いた時も、本当は乗り気ではなかった。


しかし、娘であるエレナに対しては、心から尊敬をしていた。ラヴィーナは子育てに熱心な母親ではなく、全ての世話をマチルダにさせた。こうして、マチルダはエレナの世話をする内に、本当の妹だと思うようになった。


悪い母親とは違い、本当に優しく、差別もせずに、一緒にいるだけで人間の心が取り戻せた。だから、マチルダはエレナに害を及ぼす人間には、絶対に容赦しなかったのだ。これまでに、大勢の反逆者をひそかに暗殺していた。もちろん、ナツもターゲットに入っている。


マチルダの願いはただ一つ。エレナに女王陛下にする事だ。そして、自分のように、人を殺すか、又は売春しか、選択肢のない子供をなくしてほしかった。だから、ナツを殺す事にためらいはなかったのだ。



その晩の夜のことである。マチルダはナツの偽物の暗殺をするために、城下町へ外出していた。ヴィンヤード公国の城下町は、RPGゲームのような中世の雰囲気があった。


マチルダの目的は、街はずれの小屋にいるロシアのスパイ達だった。これが、今回のターゲットである。小さな小屋は明かりがともっていた。マチルダは外の窓から、中の様子を気づかれないように確認した。


すると、小屋の中には3人のロシア人がいた。まず、赤毛でエメラルドの瞳をした少女。次に、強面のサングラスの男、細身で髭を生やした男だ。つまり、少女が1人に、男が2人ってことだ。


彼らはヴィンヤード公国の住民になりすまし、伝統料理の鍋を囲んでいた。一見すると、現地人に見えるが、3人は新KGBの組織のメンバーだった。


マチルダはすでに、この情報を事前に手に入れていたのだ。そう、赤毛の少女がナツの偽物だという事を……。それから、マチルダは3人の会話を盗み聞きした。


赤毛の少女が口を開く。

「この赤毛も瞳の色も、遺伝子操作によって変えたものだ。これなら、あのエレナってガキを騙せるはずだ。腹違いとはいえ、生き別れの姉にあったら感動するだろうな。所詮は12歳の子供だ」


サングラスの男がウオッカを口につける。

「ああ、お前が女王陛下になれば、ウラン238だけでなく、希少価値のあるウラン234も手に入る。これだけのウランがあれば、ロシアがアメリカを出し抜ける日も近い。この国のウランの資源はなんとしても手に入れたい」


髭の男も頷いて同意する。

「しかし、あのラヴィーナって女は欲深い。ウランの裏取引をロシアだけではなく、中国とも取引していやがる。2つの大国を天秤にかけるとは信用できないぜ。いずれは、暗殺するしかねえだろ? もちろん、娘のエレナもな」


赤毛の少女がニヤリ笑う。

「だから、乗っ取り計画ってわけさ。現在は戦争をせずに、資源を頂くのが大国の戦い方だ。まったく、私は言葉のイントネーションまで仕込まれ……むぐ?」

この時、マチルダは誰にも気づかれず、3人がいる小屋に侵入していた。


そして、マチルダは赤毛の少女の口を左手でふさいだ。それから、右手に仕込んであったナイフで、赤毛の少女の首を一文字切り裂いた。すると、赤毛の少女の首から、血が噴水のように吹き出した。


その瞬間、髭男は何が起こったか理解していなかった。そして、マチルダはこのスキを見逃さず、髭男の方に瞬時に移動した。それは人間離れしたスピードであった。


髭男はその速さにどうする事も出来ず、マチルダにナイフで心臓を一突きにされた。おそらく、痛みを感じることもなく、髭男はあの世に旅立った。


しかし、リーダーのサングラスの男は状況を理解した。おそらく、動物のように素早く動く、何かに襲われたのだと……。それから、サングラス男は、壁際にメイドの女が立っているのに気が付く。


すると、サングラス男はリボルバー拳銃を取りだした。

「クソ、ヴィンヤード公国の暗殺部隊か? 黒いメイド……。お前が亡霊か?」

「そんな事はどうでもいい。お前ら、ロシアのスパイだな。誰であろうと、エレナ様に弓をひく者は許さない」


この時点で、サングラス男とマチルダの距離は5メートル程あった。そして、サングラス男はこの距離なら、自分の腕でマチルダを射殺できると思った。しかし、そう思った時には遅かった。人間離れしたスピードで、マチルダはサングラス男の目の前に移動した。


サングラス男は驚く。

「なっ、速っ……」


そして、マチルダはリボルバーのシリンダー部分を左手で抑える。サングラスの男は、慌てて引き金を引くが、ハンマーを下してない状態なので、シリンダーが回転することはなかった。つまり、弾は出ないのだ。これがリボルバー拳銃の欠点なのだ。


マチルダはニヤリと笑った。

「ハンマーを下してない状態で、シリンダーを抑えると、リボルバーは発砲できない」

「……!」

「ロシアの犬め、死ね」

そう言うと、サングラス男の首をナイフで突いた。


そのナイフを抜くと、小屋は血だらけの部屋になった。そして、マチルダが合図をすると、黒いメイド服を着た集団が、ゾロゾロと小屋に入ってきた。全員がマチルダの部下たちである。


この暗殺部隊は、裏では亡霊と呼ばれており、薬品による人体改造がされていた。マチルダもその1人であり、彼女は人間の限界のスピードで動けるのだ。


メイドの一人が口を開く。

「マチルダ様、後の始末はおまかせを……」

「ああ、死体は細かく刻んで、豚に食わせておけ。ロシアが何か言ってきたら、中国人のしわざにしておけ」

「かしこまりました」


それから、マチルダは死体の処理を部下に任せた。そして、1人で小屋を出ると、夜空を見上げて、たくさんの星を眺めた。そして、次のように思っていた。自分は汚れ役でいい。そして、エレナ様には血を一滴も流させない。


それから、目を閉じて1人で呟く。

「私がヴィンヤード公国の未来を守る」

この1年後に、マチルダとナツは対決することになる。

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