「無名の人間」 その2
・・・・やっぱ気のせいだっただな
刹那にカーテンを開けられ「わー、死ぬー!」とか大げさに叫ぶ少年に対し、「お前は死なないでしょ」と呆れて様子で言う刹那とのやり取りを見ている時には既に少年にさっきの気迫などみじんも無く、あるのはタダのゲーム中毒っぽいダメ人間の不陰気だけ
「あのー、」
「あ、うん分かってますよ、とりあえずそこに座っ下さい」
妙に飛んだような言い方がったが、とりあえず勧められて椅子に座る
「改めてようこそ、ボクはここの館の主、輝闇 仁と申します」
いかにも礼儀正しそうな口調、しかし見た目は精々小学校高学年、もしくは背の低い中学生で、赤いパーカーにヘッドホンを首にぶら下げた姿はどうにも館の主という不陰気では無かった
「ま、別にボクは見た目に貫録を持たせようとか、そうゆうの微塵も思ってないですらかそう見えますよね」
考えてること見抜かれてた
「ま、取り敢えず聞きたいことはここが何処かですね」
と、仁は言いながら携帯ゲームに手を伸ばそうとしたが、話してる時くらいゲームをするな という刹那の目線で、渋々手を伸ばすのを止める
「あぁ、いったい此処はど
「あ、質問タイムは後で取りますのでしばらく口を挟まないで下さい」
思いっきりセリフをぶった切られた
「まずはこの世界の話ですね 此処はアヴァロンエデン、通称『異端郷』」
「異t「現実の近くにある、現実っぽい、現実とは程遠いところです」
相づちもダメらしい 中々にひどいな・・・・
「理想郷の楽園という名前が付けられたのはここが願いが叶う場所、正確には空想の世界 ま要はみんなで理想の町の地図を描いたような世界ってことです」
・・・・・・・良く分からない 思わず首を捻ってしまう
「んー、何と言えばいいですかね・・・・・・・ ここはパソコンの中みたいな場所なんです こう、みんなのやりたいことを、載せる場所みたいな
あ、そうだ! ペルパラって知ってますよね! そのメメノトトスみたいな場所です!」
・・・・いやまぁ、知ってるから何となく分かるが、それ知らない人が聞くとハテナのままだぞ
「でまぁ要は、ここはそんな人々の空想から作り上げられた世界なんです だから願いが叶うって訳です」
・・・・・ま、まぁだんだん解ってきた
つまり、この世界は夢を見ているのと同じということだろうか 誰しも見ている夢のようで、何でも思い通りになる夢のようで、それが現実で起る場所という事かな
「うーん、こんな説明じゃ少しわかりずらいかなー ま、もう伝わらなくてもいいや」
「雑だなおい!!!!」
流石にそれはツッコミを入れる
「だってぇ、説明苦手なんですもん・・・」
申し訳なさそうに仁は言う
何で刹那はこいつに説明させようとしたんだ・・・・?
「取り敢えず、ここは願いが叶う場所、あぁ、後はボクらみたいな奴がいる場所って所ですかね」
僕ら・・・・・・・?
「成る程、知らないのですね」
仁は妙に納得したように頷いてから、
「ボク、吸血鬼と人間のハーフなんですよ」
「は!?」
事も無げにそんなことを言う
「き、きゅ「いるんですよ、この世界には」
相変わらずオレの言葉を遮りながら、少し表情を暗くして、言う
「この世界はある意味ボクらみたいな現実には居られない怪物、異端な者を閉じ込める場所でもありますからね」
・・・・あぁ、だから『異端郷』なのか
よくマンガである、俺たちは人間によってここに閉じ込められた、みたいな場所という事のようだ
「ちなみに刹那も桜の妖怪? 化身? まぁそんな類の者ですよ」
チラリと刹那の方を見ると、刹那は少し困ったように笑っていた
「ま、ここがどうゆう場所なのかはこれまで 次は願いが叶う についてです」
暗い話は止めよう とばかりに仁は殊更明るく言う
それについてはオレも気になっていた
願いが叶うということは、大金持ちになるとか、スーパーマンみたいになるとか
「無いですよ」
・・・・そんなに顔にでも出てるのか?
思わず自分の顔を撫でてしまう
「そんな何でも思えば出で来るほど都合よくないですからね、ここ」
まぁ、そうだよなー
「まぁ、無いわけでもないのですが・・・・」
よいしょ と、言いながら仁はタブレットを取り出す
これはゲーム目的では無さそうなので、刹那も取り上げない
「そもそも、『願う』って漢字の成り立ちを知っていますか?」
と、タブレットに『願』の漢字を映し出して言う
「原+頁で願、原は水が湧き出る場所とか、そうゆう『みなもと』を表す意味を持ち、頁は人の頭部、『かしら』、正確には『きまじめ』を表す意味を持ちます
そこから、自分の主張を曲げず、ひたすらに『ねがう』という意味です」
「へぇー」
自分の主張を曲げないって、何かカッコいいな!
「まぁ、こういえばカッコいいのですが・・・・・・・・・」
「?」
「まぁとにかく、ここではそんな、それこそその願いが原因で今の自分の性格になってしまったって程の願いが、叶う対象です」
成る程、さっき無いわけでもないと言ったのは、本当に金に貪欲な人はお金持ちになるという願いが叶い、本気で人の助ける事をしたいと願えばスーパーマンになれるという訳だ
「さて、あらかた話し終わりましたが、何か質問は?」
「え、うーん・・・・・・」
やっと発言権が回ってきたが、特には・・・・・
「あ、という事は、オレの願いも叶うってことなのか?」
ふと、思いついたので、聞いてみる
「ええ、そうですね 現に」
と、オレの方を向いて、いや、
「その子の願いは叶ってるみたいだから」
「・・・・・・?」
オレの方を向いてのだが、どうも見ているのはオレじゃない気がする
辺りを見渡すが、刹那は少し遠くにいるし、他に誰もいないし・・・・
「・・・・・それ、オレの願いが叶ってるって事でいいんだよ、な?」
その言葉に対し、仁はただ、ニコリと笑うだけだった
・・・・何なんだ、その笑み?
「ま、話はお終いですね」
んー と、仁は背伸びをして言う
「あぁ、そうだ 行く場所は無いでしょうから暫くここに住んでも構いませんよ 食事もこっちで出しますから」
「あ」
そうゆうの、全く考えて無かったわ 住む場所をくれるのはとても有り難い
「あと、ここから少し行った場所に街がありますので明日にでも行って見てください 案内を付けさせるので」
「おう、分かった ありがとな、仁!」
「礼には及びませんよ、・・・・・えーーっと・・・ 名前、聞いてませんでしたね」
「あぁ、そうだっな」
そういえば名乗って無かったな
「オレは—————————————————————」
・・・・・・あれ? オレは誰だ?
「レイだよ!」
「そうですか、よろしくお願いします、レイ君」
「ん? あ、あぁ、よろしく・・・・」
あれ? 今オレが言ったんだよな? そのはず、だよ、な?
「じゃ、ボクはゲームをしないといけないので、刹那、レイ君を部屋に案内しといてください」
「はぁー・・・・ はいはいわかりましたよ」
と刹那はパソコンに向かう仁に対してため息をついてから言う
「こっちだよ、レイ」
刹那が部屋を出る それに付いていく形で、オレも部屋を——————————
「あ、重要なことを言い忘れてました」
部屋を出る際に、仁は思い出したかのように言う
「本当の願いってのは本人にも分からないものなので、くれぐれも気を付けてくださいね レイ君」
「は、はぁ・・・・・」
取り敢えず曖昧な返事をして、オレは部屋を出ることにした