「偽るは城壁の道」 その6
「ちょ、ちょっと待て!! 待てって!!」
ロストに引っ張られてながら森の中を歩く いや歩かされる
現に今立ち止まってロストの歩みを止めようとしているのだが、何故か車か何かで引っ張られているような圧力があり止まることの出来ない
あ、ロストに引っ張られているから自分の意志で止まる事が出来る訳無いか ・・・って、そんな力がこの細い手のロストにあるのか?
「・・・・逃げるよ」
ロストはポツリと呟くように言う
「何でだ?」
「逃げるよ」
「答えになってないぞ」
怒るように言うが、それでもなおロストは歩みを止めない
「どうして逃げるんだ?」
答えない
「どうして仁から逃げるんだ?」
答えようとしない
「どうして、元の世界から逃げようとするんだ?」
「・・・・・・答えたくない」
ようやく、ロストは足を止める だが振り返ったりはしない
「答えたくない」
背中しか見えない為表情は見えない
だが声色で予想は付く きっと、無表情だろう そう思うくらい、ロストの声は淡々としていた
「・・・・・・・・・これからどうするつもりだ」
ロストの真意を探るため、取り敢えず何か話しを切り出してみる
「・・・・・・逃げる」
「仁からか? それとも元の世界からか?」
わざと皮肉気に言って見る
「・・仁から」
そう言って再び歩き出すロスト
これで簡単に揺らいでお案が得直してくれたら良かったんだが・・・・
内心ため息を付きながらオレもロストの後に続く
「・・・・・ところで、何で唐突に仁はオレたちを元の世界にかえそうとしたんだ?」
「・・・・それくらい分からないの?」
少しイラつくようにロストは言う
・・・・・・あぁ、そうゆう事
どうしてロストが逃げているのか、何故仁がオレたちを元の世界へ帰そうとしたのか、ロストの苛立ちで分かった だが、
「・・・・・・分からないな」
敢えてそう言ってみた
「・・・・分からないの?」
「あぁ、分からない」
「・・・・・・・・本当に!?」
もう我慢できないといった感じでロスト強く振り向く
「本当に分からないのっ!!?」
振り向いたロストの顔は、泣いていた
酷く怯えた顔で、泣いていた
・・・・・やっぱり、これは気付いてないな
完全に仁に怯え、怯えに侵されて気付いていないな
「むしろ、何でロストが分からないんだ?」
「・・・・・・え?」
泣いた顔のまま突然の事に呆気に取られた顔をするロスト
オレは優しくなだめるように言う
「お前が何故仁から逃げているのか それは逃げないと殺されるからだろ?」
「・・・・・うん」
泣き顔のまま頷くロスト
「まぁ、あいつは無茶苦茶だからなぁ 何となく、従わないと殺してくる不陰気はあるんだよなぁ」
「そこまで分かってるなら」
「けどさ、」
逃げないと殺される? 殺されるのが怖い? それなら
「これ、別に逃げなかったら殺されないよな」
「・・・・は?」
「逃げるから殺されそうになるんだよ だから、逃げずに仁の要望を受け入ればいい」
「・・・・・・・・・・」
「違うか?」
これなら、何の問題も無い、ましてや、
「・・・・・違うよ」
「いや、違わないさ」
ポン とロストの肩に手を置く ビクッ、と肩を跳ね上げるロスト
きっと、ロストの気にしている事は、
「お前、元の世界に戻ったらオレと会えなくなると思っているだろ」
どうしてわかったの? とでも言いたい感じで少し上目遣いにオレの顔を見るロスト
「やはりな」
やっぱりそう間違えていたのかと少し苦笑いになりながら言う
「そもそも、元の世界に帰ったって会えるだろ」
「・・・・・どうやって?」
どうやってって・・・・・・ 思わず更に苦笑いになる
そんなことも分からないのか?
「一緒に元の世界に帰るんだろ? だったら向こうの世界でも会えるだろ」
きっと、一緒にここへ来たんだ なら、帰る時も一緒な
「あぁ・・・・・・・ なるほどね」
「そうだろ だから一緒に」
「何にも解ってないんだ」
「・・・ロスト?」
ロストの顔を見る いつの間にか顔を伏せていたロスト
目は見えない だが、
「なーんだ 記憶が戻ったかと思っちゃったよ」
その口元は、笑っていた 何故か笑っていた
「王さま、僕らはね、元の世界に帰ると会えなくなっちゃうんだよ?」
・・・・・・会えなく、なる?
それはどうゆう
「会いたくなくなる、の間違いでは?」
「・・・・・っ!!」
ハッ と木の上を見ると
「逃げるならもうちょっと上手く逃げてくれよ 探し甲斐がないなぁ」
パーカーに首にはお決まりのヘッドホン、そしてこの口調
「・・・・仁」
「鬼ごっこは終わりだぜ、ロストちゃん」
最悪のタイミングで現れた最悪の吸血鬼、仁が居た
「・・・・どうやってここが?」
ぐしぐしと服の袖で涙を無理やり拭いてから、泣いていた痕跡が微塵も無い顔でロストは言う
「ん? それはただ単に」
シュ、 とオレとロストの間を何かが横切る
「こいつに後を追わせていた 吸血鬼にコウモリの眷属はつきものだと思うが、違うか?」
仁の手にコウモリが留まり、消える
「・・・・尾行してたんだ」
「そそ、何となくロストちゃんが逃げそうな気がしてたから それよりも面白い話をしていたね 君たち」
よっ と、仁は木から飛び降りながら言う
「元の世界に帰ると会えなくなる、実に興味深いねぇ」
「・・・・・・・部外者は口出ししないでくれる?」
「さっきと違ってつれないねぇ」
ま、部外者なのは事実だけど と付け足すように仁は言う
「ま、いいじゃない 部外者が口出ししても」
「知ったような口をして」
ふん と鼻を鳴らしながらロストは言う
仁の態度とその知ったような口ぶりが気に相当入らないらしい
「・・・・もしかして、仁はオレとロストの関係性を知っているのか?」
「いや? 知りませんよ?」
「なら、「ただし、」
と、ロストの言葉を遮り、ニヤリと笑って言う
「どうゆう関係かは、予想してますけど」
「・・・・・へぇ」
その言葉にロストは挑戦的な笑みを返すロスト
「なら、言ってみなよ その予想とやらを」
「ええ、いいですよ」
答える方が逆だがさっきと似たようなやり取りの不陰気を感じる
これはまた逃げる気なのか? いや、さっきと同じ状況なら、これは・・・・
「ロストとレイの関係性、それは・・・・・・」
その言葉を聞いた時、一瞬 視界がブレた気がした
それは、ロストが何をしたのか、はたまた
「いじめっ子といじめられっ子の関係性 違うか?」
はたまた、自分の思考が止まったのか
その言葉にそれくらいの衝撃を受けた いじめっ子と、いじめられっ子 だと?
ロストも同じようで、何かしようとしていたのだろうか、変な姿勢のまま固まっていた
「どう・・・・・・・して・・・・・・・・・」
絞り出すように出した声、それはロストが言ったのか、それともオレが言ったのかは自分では判らなかった
仁は愉快そうにロストを見て、それからオレを見て、もう一度ロストを見る
「そう思った経緯を解説しましょう」
コホン とわざとらしく咳ばらいをして言う
「まず疑問に思ったのはロスト、君の能力です あの時見させてもらった影の鳥、あれは姿形を偽った鳥ですよね? つまりロストは『偽る』能力の持ち主、別の言い方をすれば『何かを隠そう』とする願いの持ち主ですよね
真実を隠すために事実を偽る それがあなたの願いでしょう
そして次に、レイの能力です ボクは実際に見てはいないですが、あなたは何かを跳ね返すことができるそうですね
そっくりそのまま、自分の身に起こることを相手に返す、つまり『反発』する ボクはそれを『誰かにやり返したい』という願いが現れたと考えたんです
ここまではいいですか?」
わざとらしく聞いてくる まぁ勿論こちらの反応を訊かないでそのまま仁は続ける
「そうすれば次に出てくる疑問はこれ、何故そんな願いを持つようになったのか ロストは何を隠すために偽るのか レイは誰に何をやり返すのか
これを解く重要なカギは、レイ、あなたにあるのです」
「・・・・・・オレに?」
「そ、君に、です そもそも、何故レイが元の世界の記憶が無いのか不思議に思ったんですが、こう考えてはどうです?」
と、ある方向を見て言う
「誰かに記憶を消されているとか」
・・・・・・・まさか、
仁の向いている方向を見る その方向には無表情なロストがいる
「そこのところ、どうなんです?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
眉一つすら動かさない 何を考えているか全く分からない その眉一つ動かさない動作が肯定を意味するのか、はたまた否定を意味するのか、オレには分からなかった
「まぁいいです」と、肩をすくめて仁は続ける
「もしもレイがロストに記憶が消されたとすると、次に考えるべきは何故消したか
とはいえ、何故消したかと言われればほとんど可能性は絞られて、と言うかこれ以外無いでしょう
つまりは『覚えて欲しくないこと』があるから」
「とは言え」と、仁は悩むような素振りを見せて言う
「この手の内容は短絡的な予想で語って良い物では無いですからね そこは、直接本人から聞きたいのですが・・・・・ 言ってくれないですか?」
「・・・・・・・・・なら、真実の前に君の短絡的な予想とやらを聞かせてよ」
「・・・・・・・・・っ!」
思わず息を飲んでしまう おい、冗談だろ!?
「答え合わせは式を書いてからでしょ?」
その言い方だと、本当に仁の言っていることが真実だと言っているように聞こえるぞ!
本当に、オレとロストは、本当な仲の良い二人ではなく、仲の悪い二人だったって事か・・・っ!
お前は、本当はオレに害成す存在だったってことか!?
その思考を肯定するかのように
「そう来なくては」
と、仁は笑う
「では、短絡的な予想で語らせてもらいましょう、レイとロストの経緯を ボクの予想のシナリオではこうです
まず、ロストが何かをやらかしてしまった そしてその罪をレイに擦り付けた、いや、敢えて罪を偽ったって言いましょうか 勿論、レイは「オレは知らない!」「オレはやってない!」っていったんでしょうね しかしそれは誰にも信じてもらえず、結局レイの有罪でこの話の幕は閉じた」
「・・・・・でも、幕は閉じても終わりじゃない その裏で片づけをしている人が必ずいる」
「そう! その通りです!」
ロストの合いの手に嬉しそうに手を合わせながら掛け合う仁
それはきっと、そのロストの言葉が肯定の意味を表しているからだろう
「そしてその後、レイ君は誰にも信用されなくなったのでしょう 周りから噓つきと呼ばれて、そう下げづんだのでしょう」
「・・・・・・これだから頭のいい奴は・・・・・」
もう諦めたように頭を掻きながらロストは言う
「は、本当なのか? ロスト 仁の言っていたことは、予想ではなく、真実、なのか?」
「・・・・・・・そうだよ」
一瞬迷うそぶりを見せて、ロストは言った
「仁の予想は、大体は事実だ 周りから噓つき呼ばわりされて、誰からも信用されなくなって、そしてついには誰も信用出来なくなってって、家に引きこもるようになった」
「・・・・ロスト」
オレはロストにこう言おうとした 『どうしてそんなことをした!』 『どうしてオレの記憶を——————
だが、ふと、
・・・・・・・・・ん? そのロストの言い方、何かおかしく無いか?
何か違和感を感じて、その先の言葉が出なかった
「もう全部言っちゃっていいよ 本当の願いってのは本人にも分からないもの って、大層な何でも知ってますよフラグを立てるくらいなんだ どうせその次の説明も大体は当たってるだろうし、もう全部説明しちゃっていいよ」
あれ?やっぱ何かおかしくないか? 何か、仁の説明とロストの言い方がかみ合っていないような、何処かズレているような・・・・・・
「じゃ、全部ボクが説明しちゃいますね!」
予想が当たって嬉しいのか、意気揚々としながら、仁はどうしてオレとロストの関係性がいじめっ子といじめられっ子なのかと思ったのかの説明を続ける
「家に閉じこもってしまったレイ だがそれを、良かったと同時に良くなかったと思う人物が居た」
ビシッ と、無駄にテンション高く格好を付けてロストを指す
「レイに罪を擦り付けたロスト でも、君は他人に罪を平気で擦り付ける程の極悪ではないのでしょう
とっさの思い付きで罪を擦り付けてしまったってだけなのでしょう 最初はバレなくて良かった、と思うだけでしたが、段々とレイがいじめられ終いにはヒキコモリになって、これはマズイと思い始めた
それは何故かって?
それは、これほどの大事になってしまって、レイには恨まれているのではないかと、そして自分が真犯人だとバレたら・・・・・どうなることやら」
わざとらしくはぐらかして言う仁
チラリとロストを見れば、何処か嫌そうに眉をひそめた感じだった
「そして一方レイは」
そんなロストの表情を見て楽しいのか、はたまたどうでもいいのか気にせず仁は続ける
「家に引きこもりながら思った 「どうしてオレがこんな目に 憎い 憎い オレに罪を擦り付けた奴が憎い!」 そう思っいながら引きこもってたんでしょう」
「後はお分かりですね?」と、オレの方を見て仁は言う
「レイはロストを恨みやり返し、つまり『反発』を願い、ロストは『偽り』の発覚を恐れ願った
それがお前らの願いだな?」
最後だけ、口調を崩して言う
楽しそうに目を細めてロストを見る仁、それを見返すロスト、そしてオレ
・・・・・・・・・・・・・・、
暫くの間
「・・・・・・これって僕と王さまがいじめっ子といじめられっ子の関係性の説明じゃなかったの?
論点ずれて無い?」
暫くしたのち、最初に口を開いたのはため息を付いたロストだった
「ん? そうだったか? 悪いな、オレの説明がヘタクソで」
「うん、ヘタクソだったし、何より、」
と、ため息を付いて呆れるように言う
「説明のほとんどが間違ってるよ」
「え?」
カキン! と言う刃物がこすれるような音
気付けば黒い刃を持ったロストと剣を持った仁がつばぜり合いをしていた
「ちっ、不意を付ければ行けると思ったのに」
「・・・・・・真正面からじゃなかったら、当たってたな」
お互いに距離を取ってから仁は言う
「それよりも、間違っているだと?」
「うん、間違ってる」
「・・・・何処がだ?」
剣を構え直し、何時でも飛び掛かれる格好をして仁は問う
答える側が、また逆さまになる あ、これは・・・・
「それは・・・・・・・・・・」
そして予想通り、目の前が真っ暗になったのだった