「反(あら)がうは王の道」 その2
「刹那、ちょっといいか?」
今日はシザースが朝食担当なので早く起きる必要が無かったので、贅沢に少し寝坊しての朝
自分の部屋で、此処だけ合わせてもらって和室になっている自室の三面鏡の前で髪を簪で留めている途中、部屋の扉をノックされた
「どうぞ」
そう返事をしたが、ノックした人はすぐには入って来なかった
? どうしたのだろうか
そう思っていると、
「あ、横開きなのか」
ガラっ と、襖を開けて声の主、レイは部屋に入ってくる
「何でドアノブが無いのかと思っていたが」
「和室が好きだから、ごめんね」
ここだけ扉が横開きになっているので、単に戸惑っていただけらしい
ちなみに扉は中からだと襖に見えるが、外からだとほかの部屋と同じ模様の扉になっているから戸惑ったのだろう
「ま、入ってよ あ、靴は脱いでね」
「はいはい」
部屋の中なのにある三和土(石で作られた靴を脱ぐ場所)で靴を脱ぐレイ
「それで、何か用なの?」
髪を留めるのを再開して言う
「いや、別に大した用事はないよ」
鏡越しに座布団に座ったレイを見る
「むしろ、何か用は無いか?」
「ん? どうゆう意味?」
髪を止め終え、座布団に座る
「いや、暇だから何か手伝える事が無いかなぁ って」
「って急に言われても・・・・・・」
買い出しはまだいいし、人形たちが出来ない水仕事とかも今は無いし・・・・・
と考えているとふと、
「・・・そういえばロストはどうしたの?」
ロストの姿が無い事に気付く
まだ会って間もないのにレイとロストはセットという謎のイメージがあるのだが
「あぁ、ロストは図書室?に引きこもってる ついでに仁も」
「あー・・・・・・・・」
昨日大量に運び出された大量の本
どうやら全部ロストが買ったらしく、それに伴い仁が一夜で書籍室を作り上げたのだ
「結局、また仁の奴は引きこもっているのか・・・・・」
まぁ、昨日は外に出ていたから良しとしよう
「うーん、何かして欲しいことあったかなぁ・・・・・?」
自分から働こうとするレイ 仁にも見習ってほしい
・・・あ、そうだ
「それだったらちょっと仕事を手伝ってくれない?」
仁から聞いた、レイの『反発』能力の拝見も兼ねてそう尋ねた
「普段から、刹那はこうゆう事もしてるのか? っと」
岩を避けながらレイは言う
岩肌が生い茂っていて、さほど街から離れて居ない場所をレイと二人で歩く
「たまにね」
仕事というのは街にシルエットが近づいて居ないか、用は見回りだ
普段はこんな街からでも歩いて来れる様な場所ではなく、もっと危険な場所を見回っているのだが、仁に暫くは街の近場を見回って欲しいと言われ、こんなところを歩いている
「で、街のど真ん中でシルエットが出てきたって本当なの?」
「あぁ、本当にわらわら出てきたぞ」
仁からある程度の事は聞いていた
シルエット、しかもクロウ個体が街で暴れまわっていたらしい
正直、信じられない話だった
シルエットが町に来たこと何て一度も無かったし、何より街のど真ん中というのが変な話だ
街の近く、ならたまに在った 街の最端、もまだ分かる しかしど真ん中というのはおかしい
何故、誰もシルエットが街のど真ん中に来るまで気付かなかったのか
町のど真ん中で急にワープした訳でもあるまいし、町の外から大群が押し寄せてきたのなら誰かが気が付いても良いと思うのだが・・・・・
「ところでさ、」
と、ふとレイが言う
「何で仁って『最悪の吸血鬼』なんて言われてたんだ?」
「それは、」
言おうかどうか迷って、それでも言う事にした
「それは、出会うだけで『最悪をもたらす』と言われているからなの」
「出会うだけで、最悪・・・・・・?」
どうもしっくりこないらしい
「まぁ、それもそのはずよね 何てったってあなと初対面はダラダラした仁の方だったし」
しかし、
「でも、始めて戦闘時の仁、炎を纏った仁を見たらどう思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
人間から見たら、炎を纏った獅子が街中をうろついている様な見た目になるだろうか
暴れまわり、物に、者に火をつけ歩き回る獅子、下手をすると炎に焼かれる前に食べられてしまうかもしれない何て思うかも
仁は皆からは存在してはならない悪魔、居るだけで『最悪の吸血鬼』として恐れられている
と、ここまで言ってふと、
「・・・・・そういえば、レイは仁の炎を纏ったところを見たの?」
まぁ、見ていないのだろう だからしっくりこないような表情を
「あぁ、見たぜ」
ん? え?
「いやー、迫力凄かったなー 確かにあれは怖いわな」
「え、ち、ちょっと待って」
もしかして、
「仁のあの姿を見たのに平気なの!?」
最初あの仁の見たとき、本当に怖かった 炎の中で薄く笑う悪魔 今ではもう長い付き合いで、今ではそこまで怖くなくなったのだが・・・・
「ん? 平気だけど? いやもしろ当然だろ」
「・・・・・・・・・」
思わず、呆気に取られる どんな神経してるのよ、こいつ
「まさか、『最悪の吸血鬼』を恐れないとは・・・・・」
並の人間ならもう本能的な部分で恐れるはずなのだが・・・・・ まぁ、これは仁にとっては良い事なのだろうし、気にしなくてもいいか
「しっかし、嫌な二つ名を付ける奴もいるもんだな」
「そんなものだよ?」
何せ、二つ名とは見たままを表しているだけなのだからだけなのだから
平気で人の先入観が入ってしまうのだから
「そうなのか ・・・・因みに刹那にも二つ名があるのか?」
「あるよ、『百桜繚乱』って呼ばれての」
きっと願いを桜に変えたときの光景を見てそう誰かが言ったのだろう
・・・・今更だがこの二つ名、本当に誰が言い出したんだろう もしかして仁? こうゆう感じのネーミングって何か仁っぽい感じもするし
「へぇ、それってどゆう・・・・・」
と、ふと、レイが辺りを見渡し出した
「・・・・? どうし、っ!!」
ゾクリ と、変な予感がして日本刀を手に持つ
「っ! 刹那避けろ!!」
その言葉に咄嗟に後ろに飛びのく
その後、自分が立っていた場所に何かが刺さる
「棘・・・・・?」
レイはそう呟くが、違う
「氷、正確には氷柱かな?」
思わず舌打ちをしながら氷柱が飛んできた方向を見る
「アイスホッグ また面倒な奴が何でこんな場所にいるのかなぁ?」
アイスホッグ ハリネズミのような形をしたシルエットで、冷気でを扱うのが特徴
ついでに基本的な生息地は森の深くの、年中凍っているような寒い洞窟で、間違ってもこんな岩肌に出てくるようなシルエットではない
「寒いの嫌いなのに・・・・・・・」
あて付けのように氷柱を蹴った途端氷柱が桜の花びらに変わる
「へぇ それが、刹那の能力なのか?」
とにかく、まずは倒す事が優先だ 何でここにいるのかの推測は後でも出来る!
日本刀を手に、アイスホッグへと走り出す
「え、あれ、無視?」
アイスホッグはこちらへ沢山の氷柱を放つ
「てやっ!」
それを刀の一振りで、刀に当たった全ての氷柱が桜に変わる
「おぉ、スゲーな! それと奇麗だな あ、これが百桜繚乱って事か」
本当ならアイスホッグの氷柱は固く、下手をすると刀に刺さる程の強度を持っているが、こっちには関係ない
何せ全てが桜の花びらへと、完成された途端全てが散り、地面へと帰る
それが『百桜繚乱』の生き方であった
このまま真っすぐ突き進んで正面から切りつける!
「・・・・っ! 刹那、気を付けろ!」
・・・・・さっきから五月蠅いな・・・・・
レイに苛立ちながら弾幕、否、氷柱を桜にし突き進む 桜の花びらにして、つき進む 桜吹雪の中を突き進む
視界が悪い、桜吹雪の中を突き進む
だから、気付かなかった
「・・・・・ん?」
あと十数メートルといった距離の事、気が付いたら氷柱が止まっていた
桜の花びらがまだ完全には散り去っていないのでうまく見えないがアイスホッグが口を開けているのは分かる
それから、口の中に何かキラリと光る物を見つけた
大きな氷柱でも吐いてくる気? ・・・口から氷柱出すとか出来たっけ? アイスホッグは名前と見た目の通り、背中の氷柱を飛ばし攻撃することしかできないはずなのだが・・・・・
と、思いつつも走るのは止めない
どのみち、氷柱だったら、きれば・・・・・・・ あ?
花びらが晴れ、それでようやく気付いた
キラリと光ったのは、氷柱が光を反射していたとかでは無く、炎の煌めきだという事に
「・・・・・・え?」
どうして・・・・・アイスホッグが炎を・・・・・・?
アイスホッグはイメージ通り熱い物が苦・・
「っ!!」
呆気に取られていたせいで反応が遅れてしまった いつの間にかアイスホッグが炎を吐き出していた
まずい、炎はまずい!!
願いとして現れた力に触れると桜の花びらに変えてしまう能力 仁の命名 幻葬楼華だが、この発動には条件がいるのだ それは攻撃すること
もちろん、刀で炎を切れば桜に変わるだろう だが、それは切ったところだけだ
炎をとは、小さな火が連なって出来るもの それゆ、火を切ったところでまた次の炎が迫るだけ
どうするべきか・・・・・・!
思わず冷や汗が頬を伝ったその時、
「だから危ないって言っただろ」
目の前に現れる人影
「っ、レイ! 何をしてるの! もしかして、庇う気!?」
前に出ただけで炎を庇う事なんか出来やしないし、そんなことしてもらう義理は・・・・
「まぁ、大丈夫だって 多分」
「多分って何!?」
そんなやり取りをしている間にもどんどん炎は迫ってくる
ダメだ焼かれる!
せめてレイだけでも突き飛ば、し・・・て・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
どうなっているのだろか?
まるで手品のように、何故かレイの目の前で炎が消えてゆく
「ちょっと熱いな・・・・・・・・」
呑気にそう呟くレイ
そして程なくして炎は止んだ いや、正確には止んでない
「どうなってるの・・・・・・・?」
炎は少し遠く、炎を吐き出した本人、アイスホッグを焼いていた
「ふぅ、ちゃんと出来て良かった」
パンパン と、手を払いながら言うレイ
「これがオレの能力、『反発』らしい まぁ、刹那にとっては大した能力じゃ無いだろ 刹那と似たような感じだし」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ふと、この光景に既視感があった
そうだ 仁に初めて会った時もこんな光景だった 死にそうに、殺されそうになった時に現れた炎
その時、真にこの人に使えるべきだと、我が使えるべき王だと思った
そういえば、ロストもレイの事を王様だと言っていた
反発の王
「・・・・・・『反王』」
そう見えて、思わず呟いてしまった
「ん? それオレの事か?」
「照れるなぁ」と、言う声に初めてそんなことを考えてしまっているのに今更気付く
「それより!」
誤魔化す用に咳払いをして言う
「どうしてこんな場所にアイスホッグが・・・・? それにどうして火を・・・・?」
「やっぱり、おかしいのか?」
こくり、とうなづく
「アイスホッグは基本年中氷があるような洞窟に居るの おまけに熱いのが苦手で、炎なんて絶対に吐けない」
もう動かない、だが未だに燃えているアイスホッグを見ながら考える
一体、どうして・・・・・・
「・・・ん? どうしたの?」
ふと、レイがまた辺りを見渡している事に気付く
まだ何かいるのかと思い辺りを見渡してみるが、これと言って変わった事はない
「・・・・何か居たの?」
「ん? いや、」
レイは唾が悪そうに頭を掻く
「・・・・やっぱ、気のせいか?」
「どうしたの?」
重ねて問う
「いや、それが・・・・・」