「反(あら)がうは王の道」 その1
「・・・・いい加減食べろよ、ロスト」
夕闇、といっていいような、ちょうど暗くなるかならないかの境目のような時間、部屋の中で机に置かれている手の付けられていない夕食を見た後、部屋の隅に膝に顔を埋めて座っているロストを見てオレは言う
あの後、一応は泣き止んでくれたのだが、泣き止んだ後はずっとこの調子である
ずっとうつむいたままで何も喋らない 何度呼び掛けても身じろぎ一つすらしない
「・・・・・はぁ」
思わず、ため息を付いてしまう
一体どうしたのだろうか、クロウが怖かった? 仁が怖かった?
いや、それにしては態度がおかしい それと、オレに言った『ごめん』という言葉
一体どうゆう意味なのだろうか・・・・・
「はぁ・・・・・・・・」
ま、何にせよ
オレはロストに近づく
近づいても、本当に身じろぎすらしない
取り敢えず、しゃがんでロストと頭の高さを合わせる 顔は埋めているため目は合わない
そんなロストを見ながらおもむろにロストの足を掴み、
「よっと」
そのまま立ち上がって逆さ吊りにしてやった
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そんな女の子っぽい、あ女の子か 悲鳴を上げながらジタバタするロスト
「あ、良かった ちゃんと反応した」
ちゃんと反応してくれて思わずホッとする
「良くない良くない良くない!!!」
下を見ると、頑張って地面に手を付こうと手をジタバタさせているロストが見えた
顔は下を向いていて見えないが、きっと涙目になっている事だろう
「怖い怖い怖い怖い!! 降ろして、降ろして!!」
「ん、はい」
取り敢えずロストの手が届く高さまで降りして、手が地面に付いたところでゆっくりと足を降ろした
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・・・・・」
「大丈夫か?」
「大丈夫か? じゃないよ!!!!!」
むぅー とほっぺを膨らませて怒った顔で言うロスト
「まぁまぁ」
取り敢えず元気になって良かった
「全く・・・・・・強引過ぎるよ・・・・・・・」
「ははは、すまんすまん」
どうやら、元気を出してもらうためにやったのには気づかれたらしい
「まぁ、何はともあれ、元気になってもらって良かった」
そう言っていオレは笑うが、
「うん・・・・・・・・・・・」
ロストは陰りがある笑みで笑う
「・・・・・・本当にどうしたんだ?」
オレはベットに座り、お前も座れという意味を込めて隣を叩く
「・・・・・・・・・・・」
何も言わないロスト だが、座ってはくれた
「・・・・・・・・・・・・」
チラリ、 とこちらを向いては目を逸らすことを繰り返すロスト
言いたいことがあるが言おうかどうか迷っている そんな表情だった
「・・・・・・はぁ」
ため息を付きながら窓の外を見る
いつの間にか、完全に暗くなっていた
今夜は半月だった
半分明るく、半分真っ暗な、月だった
「どうしたんだホント、そんなにクロウが怖かったのか?」
「・・・・・・・・」
「それとも、仁が怖かったのか?」
「・・・・・・・・」
「それとも、」
チラリ 、とロストの方を見る
それがたまたまロストもチラリとこっちを盗み見ていて目が合う
「オレに隠し事することがそんに怖くなったのか?」
「っっっっっ!!!!!」
驚きすぎて驚いた顔のまま固まったロスト
やっぱり、当たりか
「・・・・・・・どうして?」
驚いた、いや怯えたと言った方が正しいか、そんな表情をしてロストは震えた声で言う
「どうして・・・・・・、知ってるの・・・・・・?」
「んーーーーー・・・・・・・」
さて、どう説明したことか
「お前、オレに『ごめん』って謝ってただろ?」
「・・・・・・・うん」
「それで、何で謝ったのか考えてたんだけど・・・・」
ロストがオレに謝らなければならない事とはなんだ? まだ出会って一日しか経っていなにのに謝らなければならない事って何だ?
歩くときに遅れていたことか? 本に夢中になっていた事か? それともオレが見ていないところで一人危ないことをしていたとか?
しかし、それだとあれだけ泣くはずはない
なら・・・・・・
「一つ、思い当たる節があったんだよ」
これは、朧げなのだが・・・・・・・ と前置きを置いておいて言う
「お前、昨日の話の途中で隠せているとかなんとか、何か一人ぶつぶつ言ってただろ」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
今度は驚きを通り越して間抜けな感じでロストは呟いた
「は? え、え?」
と、ようやく言葉が頭に染みたのか、
「いやいやいやいやいや!!!! ちょっと待って!! あれ、聞こえてたの!!!!」
「聞こえてたぞ まぁ、何か空耳っぽく聞こえてたから気のせいかなー、って思って特に何も言わなかったんだが」
「・・・・・・・・・・・・うーむ、そっか」
ロストはそのまま腕を目に当てベットにに転がり、もう一度「そうかー」 と、呟いた
「聴かれてたんだ 全部」
腕を目に当てたまま、ロストは笑う 目を伏せたまま、笑う
「・・・・・僕のこと、どう思う」
そして、目を伏せたまま唐突にこんなことを訪ねてくる
「僕の能力は物事を『偽る』ことだ 偽る、つまり人を『騙す』って能力なんだよ もっと言えばそんな願いが僕の中にあるって事なんだよ それについて、どう思う?」
「どうって・・・・」
「僕はね、醜いって思ったんだ 自分の中にこんな願いを持っていたなんて」
・・・だからあの時、喘いでいたのか
自分に、嫌気が差さして、自分自身に吐き気がして、自分が、怖くなって、
と、すると、あの影のような鳥はロストが出したのか
影のような鳥を出せることに気付いて、自分の願いに気付いてしまったと言う訳か
「本っ当醜いよね、そんな願いを持つことなんて」
口だけで自嘲気味に笑うロスト
「人を騙そうとするなんて・・・・・・」
「そうか? 別にそんなことは無いと思うが」
ピタリ と、ロストは一瞬止まった
「別にオレは騙すのは悪いと思わないぜ」
「・・・・・どうしてそう思うの?」
腕をずらして片目だけを見せてロストは言う
「騙すのは悪い事じゃん 嘘をついて、他人に罪を擦り付けて」
「うん、それは悪いことだな」
「だったら・・・」
「だがな、」
だが例えば・・・・・
「自分には知られたくない秘密がある だから、それを知られてたく無いが為に他人を騙す これはいけない事か?」
ロストの体がこわばった
予想通り、
「それが、オレに隠し事をする理由だろ?」
「・・・・・うん」
完敗だ とでも言うように両手を放り投げて言う
「どうしても王さまには知られたくない、知って欲しくない 僕の過去を、僕らの関係性を」
「・・・関係性?」
関係性ってどうゆうことだ?
「つまり、もしかして部屋で会う前からオレたちは出会っていたって事か?」
ここに来る前の事が思い出せ無いのもロストの
「あ、いや違うよ? 本当に昨日が初対面だよ?」
「あ、何だ違うのか」
「ただ、まぁ・・・」
と、ロストは起き上がり、オレの腕に頭を預け、寄り添う
「長い付き合いにはなるかな」
「・・・・・・?」
何か、なぞかけみたいだな
初めて会ったのは昨日なのに、長い付き合いになる・・・・・・・
「不思議な関係性だなぁ・・・・・・・」
あ、不思議といえば、
「そうだロスト」
「ん?」
オレはあの時の事を説明する
クロウに毒を吐かれたのに無傷で、逆にクロウが毒を負ったこと シザースに切られそうになったが、逆にシザースの首が飛んだことを
「・・・・・『反発』」
それを聞いたのち、ロストがポツリと呟く
「って! 今しれっと流したけど、王さまシザースに殺されそうになってたの!?」
「まぁ、うん」
今思うとこっちの方がヤバい状況に居たんだな
ロストにはクロウに対抗する力があったが、オレにはシザースに対抗する力は無かった訳だから下手をするとそこでシザースに殺されていたのか・・・・・
「・・・・・今度からシザースの動向には気を付けないと」
何となく、雰囲気的に何か変な事しそうなロスト
・・・・・余計に首を取られそうになる行動は止めてね?
「それよりも、反発ってどうゆうことだ?」
「『反発』、英語で言うとバウンド 跳ね返す、とか否定するとか—————————————」
唐突に、ハッ となったように青ざめるロスト
「もしかして————————————————」
が、それも一瞬で、
「ん? それだとこの状況おかしくない?」
すぐに悩んだ顔になる
「いや、おかしいよね、それだと」
「・・・・・・・・・・・・」
一体、何を考えてるんだろうか・・・・・
「ねぇ、王さま 僕の事嫌い?」
「・・・・・・・い、いや! そんなわけないだろ!」
唐突に聞かれ、思わず反応が遅れた
これを回答を一瞬悩んだと捕らえなければいいが・・・・・・
「うん、そうだよね・・・・・ って自分でそうだよねって言うの何かアレだけど」
ガシガシと頭を掻くロスト
これは照れているわけではなく、悩んでいるから頭を掻いているだけでだろう
「うーーん、何か変な感じになってるなぁ・・・・・・」
「変な感じってどうゆ」
ぐぅ~~~
「そういえばまだ晩御飯食べてなかったな・・・・ んじゃ、たーべよ食べよっと♪」
そう言ってベットから降り、テーブルに座るロスト
そのかわいらしい音を合図に、この話題は終了した
「いっただきまーす」
「・・・・・・・」
結局、何を悩んでいたのだろうか
「まぁ、いいか」
ベットに寝っ転がり、白い天井を見る
まぁ、いつかは分かる事だろう それなら無理に判る必要なんて無いか
解るその時まで、ゆっくり待てばいいや
「冷めてる・・・・・・・・」
スープを口に付けたロストの一言
「それは温かい内に食べなかったお前が悪い」