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第8話 目標を定めよう

 わたしがウィリアムくんの命を救ってから一年経った。

 つまりわたしは十一歳。前世から考えてまだまだ小学生くらいのお年頃だ。まだまだピチピチなのだ。……死語だったかな。


 あの時、ウィリアムくんを助けてからはあっという間だった。

 大地の大精霊であるアウスの力を借りてからは早かった。少年の命を救っただけではなく、枯れていた土地に潤いを与えたのだ。今では作物が育つこと育つこと。きっと前世での農家の方々だってびっくりなほどだろう。もうにょきにょき育っちゃうね。

 そのおかげで領民は大喜び。ベドスやバガン以外の連中もわたしを讃えてくれた。

 わたしは一躍救世主となったのであった。

 ……まあ、わたしの力っていうよりアウスのおかげなんだけれども。

 そのこともあって褒められてもあまり喜べなかった。わたしのやってることって人のふんどし履いて相撲を取っているようなもんだ。なんだか申し訳なくてしょうがない。


「精霊を使いこなせるのもキミの立派な力だよ」


 アルベルトさんはそう言ってくれる。そうなのだろうか? その言葉もわたしを無理やり納得させようとしているようにしか聞こえない。

 そんなわたしの心が聞こえていたのだろうか。アルベルトさんはしばらくの間わたしの魔法の先生をしてくれた。

 今まで独学でやってきたこと。正直、両親は教えるのが下手以前に人に教えることすらできなかった。すぐに独学になってしまったのはそういう両親だったからだ。だからアルベルトさんはわたしの人生初の先生だったのだ。

 今までイメージという曖昧なものでなんとかしてきたこと。結局それは大気の微精霊に力をもらっていただけだったんだけど。それらをひっくるめてしっかり教えてくれた。

 魔法使いってのは大気に存在する魔力の源であるマナを体内に取り込み、それを魔力に変換して術式を行使する者なのだそうだ。

 わたしの場合はマナを取り込まず、マナの代わりに微精霊に直接働きかけてもらって魔法に似た変化を起こしていたようだった。

 この辺りの感覚を覚えるのに半年かかった。

 憶えてしまえば自分の中でマナが入ってくる感覚がわかるようになった。それと同時に相手のマナ保有量もぼんやりとわかるようになった。

 どれだけ体内にマナを保有できるか。それは魔法使いとしての力を測る一つの指標であった。

 あれだな。ゲームで例えるならMPみたいなもんだ。強い魔法を使いたくてもMPが足りなくなると使えなくなるからね。

 もちろんマナ保有量が強さのすべてじゃない。強い術式を組めるかはまた別の技術だからだ。


 さて、魔法の話を始めるときりがない。だからわたしがこの一年でできるようになったことをまとめようか。

 わたし自身が使える魔法はかなり増えた。それを説明しようか。


 火属性。ファイアボールなどの攻撃魔法を習得。たき火を起こそうとすると火事になっちゃうぜ。

 水魔法。水結界なんてものを作れるようになった。水中移動ができるようになったおかげでカナヅチでも大丈夫!

 風魔法。空を飛べるようになった。いつでもスーパーマン気分が味わえちゃうんだぜ☆

 土魔法。簡単に落とし穴が作れるようになっちゃった。それからゴーレムなんかも作れるようになっちゃった。いろんな意味で職人魂をくすぐられちゃう。


 四大属性はこんな感じ。あとは治癒魔法も少々。乙女のたしなみ程度ですわ、おほほほ。

 アルベルトさんが言うにはわたしの魔法は中位くらいの実力なのだそうだ。ここまでできたら魔法使いとして一人前なのだそうだ。

 これでようやくスタートラインに立った気分。一人前と言っても最強になったわけでもない。チート主人公への道のりは遠そうだ。

 ただ、大精霊であるアウスの力を借りればもっと上の実力にはなるんだけどね。あまり彼女の力をわたしの力とは胸を張って口にはできないけれど。

 それでもアルベルトさんのおかげでわたしは格段に成長できた。やはり師匠という存在は必要不可欠なのだ。独学でうまくいくだなんてよっぽどセンスが良くて頭の良い奴だけだろう。

 わたしのようにセンスがあるわけでも頭が良いわけでもない凡才には、先生という存在は本当にありがたかった。


「まっ、これからもがんばれよエルちゃん。キミが大人になって綺麗になったら会いにくるからよ」


 どこまでも感謝が堪えないアルベルト先生。彼はそんな言葉を残して、昨日旅立ってしまったのだった。



  ※ ※ ※



 わたしは領内にある丘に体育座りしていた。

 風が吹いて黒髪がなびく。長くなったし毛先だけでも切ろうかな。そう思えるほどには髪の長さが気になっていた。

 ぼんやり前を向けば田畑が増えた光景が目に入る。作物が育てば働き者が増えた。良い循環だろう。

 わたしは田畑で働く領民をただ眺めていた。アルベルトさんが来なければこんな光景を目にすることはなかっただろう。

 あー。思っていた以上にアルベルトさんがいなくなってショックだ。こんなにショックを受けるなんて自分でもびっくりだ。

 なんだかやる気が起きない。無気力になってる場合じゃないのにな。わかってても体が動こうとしてくれない。

 アルベルトさんは命の恩人。それから、わたしに力を与えてくれた人。そして、わたしを認めてくれた人。

 膝に顔を埋める。


「エル」


 声をかけられて顔を上げる。線は細いが青い瞳をした美少年が立っていた。


「ウィリアムくん」


 彼はわたしが一年前に助けた少年。ウィリアムくんだ。

 あれからウィリアムくんはリハビリをがんばってこうやって出歩けるようになった。激しい運動をすればすぐに息は上がるけれど、それでも動けず命の危機にあった頃に比べればかなり良くなっている。

 ウィリアムくんはわたしの隣に座る。優しげな目差しが向けられる。子供らしからぬ包容力を感じさせる雰囲気があった。


「どうしたの? 今日は魔法の修業はしなくてもいいの?」

「うん……まあ、ね」

「元気ないね」


 ウィリアムくんとは仲良くなった。年齢はわたしとちょうど同じだった。

 最初は「エル様」なんて呼ぶものだから却下させてもらった。さすがに同い年でかしこまった呼ばれ方をされたくない。友達ならなおさらだ。そう、友達なのだ! ウィリアムくんとは友達になったのだ。わたしの初めての友達である。

 そんな友達が心配してくれている。ウィリアムくんは良い子だ。あのベドスの子供とは思えないほどである。

 ウィリアムくんとは毎日のように会っている。童心に返ったなんていうのはちょっと違うのかもしれないけれど、彼と遊ぶのはとても楽しかった。

 一年ほどの付き合いだけど、彼が思いやりのある人だというのはすごく実感できる。十一歳とは思えないくらい落ち着きのある子だった。

 だからわたしの元気がない理由だってちゃんとわかってくれていた。


「やっぱりアルベルトさんがいなくなったから?」

「……うん」

「そっか……」


 それきり二人して黙り込んだ。

 ずっとウィリアムくんはいっしょにいてくれた。沈黙でいるのに不思議と居心地の悪さはなかった。

 ちょっとずつ心が癒される気がした。


「そういえば」


 夕暮れになった頃、ウィリアムくんがふと口を開いた。


「エルは魔道学校ってところに行くの?」

「え?」


 魔道学校。魔法を扱える者を育成する教育機関だと聞いている。イメージとしてはハリー・○ッターに出てくる学校みたいなところだろう。ホ○ワーツかな。

 学校を卒業すれば魔道士と名乗れるようだ。魔法使いと魔道士の違いは学校を卒業したかどうかということだけだとアルベルトさんから聞いた。

 どうして魔道学校だなんて単語がウィリアムくんの口から出たのだろうか。まじまじと見つめるとあっさり答えてくれた。


「アルベルトさんが言ってたからさ。エルは魔道学校で勉強するんだって」

「え? 初耳なんですけど」

「え?」


 お互い首をかしげる。そして同じく結論に行きついた。


「うっかり言い忘れたんだろうね」

「たぶんそうだ。アルベルトさんらしい」


 あの人は丁寧なようで大ざっぱなところがあったからなぁ。そのあたりはウィリアムくんもわかっているようで、ふふっと笑っていた。微笑みが似合う少年ですこと。

 アルベルトさんはわたしの次なる道を伝えていたのだ。いや、わたしには伝え忘れていたみたいだけど。

 これからの目標ができた。わたしは魔道学校へ行く。そして立派な魔道士になってアルベルトさんを驚かせるのだ!

 ようやくわたしの体に力が湧いてきた。やっぱりがんばるためには目標が必要だね、うん。



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