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第1話 順調だったわたし

 異世界転生を果たしてから十年。つまりわたしは十歳になっていた。


 現状把握のためにも、今までのことを振り返ってみようと思う。

 まずは自己紹介。

 改めましてエル・シエルです。可愛い女の子ですよ。きゅるるーん☆

 ……自分でやっておいてなんだけど吐きそうなほどキモい。だけど可愛い女の子ってのは本当だよ。

 長い黒髪は艶がある。同色の瞳は我ながら不思議な魅力があった。くっきりとした目鼻立ちで整っている。

 スタイルに関しては平均的かな。貧乏貴族なのでそんなに食生活がいいわけでもないし、あまり期待しすぎるのは酷だろうか。

 前世で比較しても、トータルで学校でトップクラスには可愛い評価を受けられるのではなかろうか。少なくとも『俺』の時ならちょっと話しかけられたら好きになっちゃうようなレベルの見た目をしている。

 黒髪黒目は『俺』の時の前世が関係しているのだろうか? 家族は金髪か赤髪なのだ。わたしだけ隔世遺伝ってのも違う気がする。やはり転生が理由と考えるのが妥当だろう。

 だからと言って、それで困ることは今のところなかった。どっかの作品で黒髪黒目は忌避される存在だとか、魔王の血筋の特徴だとか、その見た目だけでモテるとかあるけれど、ここではそんなことは一切なかった。

 家族だって普通に受け入れてくれる。屋敷の数少ない使用人だって特別な反応を見せる様子もない。

 この見た目は特別というわけでもないらしい。ほっとするような、残念なような。

 それは置いておくとして、過去を振り返ってみますと。


 この世界が異世界だと知ったのは三歳くらいの頃だった。

 赤ん坊生活はただただ大変だった。自分にできることがない。本当に過ごしているだけ。ばぶーとしか言えない日々はあまり思い出したくない。

 それでも情報を仕入れようとはしていた。転生自体は生まれた時から気づいていたのだ。

 両親の髪色が金髪と赤髪だったので日本ではないとは思っていた。それでも、ここが異世界だと決めつけるにはまだ至らなかった。


 きっかけは魔法をこの目で目撃したためだ。

 仕事で失敗したメイドに水をぶっかけていた母親の姿を見たのだ。もちろんバケツなんて使っていない。指示棒みたいな杖を振るって何もないところから水玉が現れたのである。

 ちょっと濡れるくらいなら見間違いだと思っただろう。けれどその水玉はバレーボールくらいはあり、水をかけられたメイドはびしょ濡れにされていた。

 後々知ったのだが、それはウォーターボールという下位魔法であった。使用人に罰を与えるというちょっと見ていたくはない光景だったのだが。それでも見入ってしまうほどに魔法の存在を認知したのは強烈だった。


 それからは母親に頼みこみ魔法を教わる日々だった。

 もともと最下級貴族の血筋である。兄妹達のダメっぷりから考えても(この時点では一番上の兄でも魔法が使えていなかった)魔法の才能があるとは思えなかった。

 それでもがんばった。前世以上の努力を重ねたという自負がある。そう胸を張れるくらいにはがんばった。

 才能があるかは関係ない。たとえなかったとしても子供の頃からがんばればそれなりのものは身につくはずだ。だからこそ、前世でまともに努力をしなかった幼少時代を嘆いたのだから。


 そんなわけで魔法の修練を続けること五年。八歳になってようやく下位魔法、ウォーターボールを使えるようになったのだった。これがわたしの初めての魔法だった。


「よくやったわエル!」

「素晴らしい! お前はシエル家の宝だ!」


 両親のベタ褒めも仕方のないことかもしれない。この時点で兄弟で魔法を使えるようになったのは長男だけなのだから。しかも彼は十五歳の頃だった。

 それを考慮すればわたしの成果は褒められたものなのかもしれない。でも、わたしは転生者だ。それが修練に五年をかけたというのは、あまりにも遅いように思えてならない。

 やはり才能という点は期待しない方がいいだろう。だとしても無能で終わるのは嫌だ。三流のままで満足はしたくない。そこで終わってしまえば前世と何も変わらない。

 もっと上にいかないとバカにされる。誰かと対等になんてなれない。人と対等になるにはそれなりの能力が必要なのだ。


 この世で生を受けてから未だに友達がいない。

 友達を作ること。それはわたしの人生の目標の一つである。

 できれば親友と呼べる存在がほしい。それが前世からの憧れ。その憧れを実現するためには対等になれる力がいるのだ。

 まだその相手が見つかったわけではないけれど。やはりそれなりの能力がなければ親友どころか友達なんて作れないだろう。


 だからこそさらにがんばった。今はこれしかできなかったというのもある。

 強い気持ちでがんばったからか、この後のわたしは急成長を遂げる。

 母から教わった魔法は、杖を使い、呪文を唱えるといったまんま魔法使いのそれであった。

 しかし、ふとやっていたイメージトレーニングで、杖も呪文もない状態で魔法の行使に成功したのだ。

 魔法の使用にはイメージはかなり重要だ。そうは思っていたものの、まさかそれだけで魔法を使えるとは思っていなかった。

 前世で目にしていたアニメやマンガのおかげだろうか? 異能物は妄想に役に立っていたからな。イメージの精度が他の兄妹、それどころか両親にも勝っていたのだ。

 コツを掴んでしまえば水属性だけでなく、他の四大属性の下位魔法もあっさり使えるようになった。

 さらに褒める両親。わたしは自信を持った。


 ここなら、がんばれるかもしれない。

 がんばればその分の成果が出る。そうなると努力が楽しくて仕方がなかった。

 やればやるほどにできることが増えていく。こんなに楽しいことはない。ある種の全能感を味わっていた。


 そうしてわたしは十歳になっていたのだ。この頃にはシエル家の神童と呼ばれていた。呼んでいるのは主に両親だけなのだが。身内びいき御苦労さまで~す。

 正直に言うとわたしは天狗になっていた。この世界で自分にしかできないことがあるのではと、そんな大層な勘違いをしてしまう程度には調子に乗っていた。どこまで鼻が伸びているのかわかんなくなるレベル。

 そんなおごりがいけなかったのだろう。



 ――気づいた時には、わたしは誘拐されていた。



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