↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?  作者: みずがめ
四章 決着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/128

第91話 黒い感情には眩しくて

「体に異常はないようだね。目まいや吐き気、何か気になる自覚症状はあるかい?」

「いいえとくには。大丈夫、だと思います」

「なら大丈夫かね」


 ベッドに横たわったわたしはヨランダさんに診察してもらっていた。かさかさした手が顔や腹に触れたりしてくすぐったい。

 医者みたいなことというか、たぶん魔力の流れを確認しているんだと思う。別に聴診器当てられるわけじゃないし。わたしもやったことがあるから何をしているかとかわざわざ聞いたりしない。


「この調子なら放っておいてもいいんだろうけどね。これを飲んでおきな」


 ヨランダさんはそう言って瓶に入った液体を渡してきた。なんだか濁っているとういうか、変な色をしている気がするんですけど?


「はい……、わざわざありがとうございます……」


 だからってわたしがヨランダさんの厚意を無下にできるわけもない。お礼を口にして瓶を受け取った。

 初めて見る薬品に、不安が顔に出ていたのだろう。ヨランダさんがしゃがれた声で言葉を重ねる。


「それを三日に分けて、水に溶かして飲むんだよ。心配するんじゃないよ。少し苦いだろうが体に良いものだから安心しな」


 良薬口に苦しとも言うし、変な薬というわけじゃないみたいで安心した。苦いくらいなら我慢しよう。……苦いのもちょっとくらいだよね?


「あっ、この薬代は後で払いますね」

「いらないよ。その薬は別に売り物じゃあないからね」


 本当に金銭を受け取る気がないようで、ヨランダさんは用は済んだとばかりに部屋を後にした。

 ヨランダさんがいなくなったのを見てから、ハドリーがわたしに耳打ちをした。


「その薬、エルが眠っている間にヨランダさんが作った物なんだぜ。夜遅くまでがんばってたからさ、きっとよく効く薬だよ」


 にっしっしっと、隠し事を話したハドリーは堪えきれずに笑った。そういうところは子供っぽいんだね。

 手の中にある瓶を眺める。魔法薬であろう。色が変なのは魔法のせいかもしれない。

 外見と雰囲気からヨランダさんは気難しい人に見える。実際そうかもしれないけれど、優しい人には間違いない。

 ……無理させちゃったかな。

 わたしなんかのために夜遅くまで薬を作ってくれていただなんて、優しすぎる人だ。他人を放っておけないほど優しい人なのだと忘れてはいけなかった。


「そういえば、体が治ったら冒険者ギルドに来いって言ってたぜ」

「誰が?」

「受付の姉ちゃん」


 ああ、と納得する。事が事だけに、聖女様とは別に報告するために聞き取りとかしなきゃなんだろう。


「わかった。じゃあ今から行ってくるよ」

「はっ!?」


 わたしがベッドから降りようとすると、素っ頓狂な声を上げたハドリーが慌てて止めてきた。


「何言ってんだ! エルは今さっき目を覚ましたばっかりだろ。まだ寝とけってば」

「でも体の不調はなさそうだし、すぐ動いても問題ないよ。ヨランダさんからも大丈夫って言われたし」

「だからって本調子なわけねえだろ! 薬だってあるんだから大人しくそれ飲んで寝ててくれよ」


 ハドリー必死の形相である。

 そんな顔をする場面でもないでしょうに。なんだか逆らいづらい。

 でも、目が覚めたからにはじっと寝ているだけだなんてできない。


「さっき聖女様がわたし達冒険者を王都に連れて行くって言ってたからさ。いつになるかよくわからないし、ギルドへは早めに行っといた方がいいと思うんだけど」


 できれば早くマーセルに会っておきたい。あいつに会いたいとか、とても不本意ではあるけども。

 悩む仕草をするハドリーだったけど「わかった」と頷いてくれた。


「ただし、俺もついて行くからな」


 保護者かな?

 だけど、断れる雰囲気でもなかった。子供とは思えないほどの気を感じ、ダメとは言えなかった。



  ※ ※ ※



「エルさん! もうお体は大丈夫なんですか?」


 ハドリーといっしょに冒険者ギルドを訪れると、まずいつもの受付嬢に気づかれた。目が合った瞬間、獣のごとき俊敏性で接近してきた。

 彼女に促されるままハドリーを隣にカウンターへと座る。いつも通りカウンターへと座っているだけなのに、いつもより圧を感じる、

 座ってから周りがざわざわしているのに気づく。なんか注目されている。それがまた圧のようにのしかかってくる気がする。


「あの……」


 この空気、やりづらいな……。

 わたしがどんな言葉から始めようかと口をもごもごさせていると、受付嬢が身を乗り出してわたしの手を取った。

 何事? と受付嬢を見れば、その目は童心のようにキラキラしたものだった。


「エルさんが命がけで町を守ってくれたと聞きました! 我々ギルド職員からは些細なお礼しかできません。でも本当に感謝しているんです!」


 ぎゅっと、手を握る力が強まる。


「本当に、ありがとうございました」


 涙交じりの受付嬢の感謝に、わたしは何も言えなかった。

 自分の命と引き換えに、誰かの危機を救う。それは物語ではありふれた作られた感動、自己犠牲のあり方だ。

 わたしのは正しい自己犠牲の精神じゃなかった。結果的にそう見えるように機会をうかがっていただけなんだ。涙を流すほどの価値は決してありはしない。

 自分の死を誰かに認められたかった。認められてやっと自分という存在を受け入れてもらえると思ったから。そうやって楽になってしまいたかった。

 でもどうだろうか。わたしの手を握る力は強くて、単純に力が強いんじゃないのに、とても強く感じていた。

 それが否応なく、わたし自身を強く意識させられる。自分がここにいるのだと、認められているような気がしてしまう。

 それは錯覚だろう。わたしは死を演出して初めて認められるかもしれない程度の存在だ。

 見向きもされない。たとえ見てもらえたとしても、ため息を吐き出させてしまう。生きている限り、どうやったって馴染んでは生きていけない。

 わたしはダメだ。わたしはダメだ。わたしは何をしても、どこへ行っても、どんな生き方を示そうがダメなんだ……。何一つ良い方向へと転がってはくれない。


「俺もあんたに助けられたぞ! 魔物に殺されそうになって、もう死ぬかと思ったのに助けてくれた!」


 周りにいる男の一人がそんなことを言った。


「俺だってあの戦いに参加したんだ。エルさんがいなかったらこの町はとっくに魔物どもにやられてた」

「Bランク冒険者の実力ってやつを見たぜ。たった一人で魔物の大群に魔法をぶち込むのは爽快だったな」

「すげえ爆発があったけどよ。あれで魔王を倒したってんだからな。まさに勇者並みの功績だ」


 周りから次々と言葉をかけられる。それは伝染していくように、ギルド内にいるみんなから言葉を浴びせられる。

 そのほとんどが賞賛するもので。よくよく聞き直しても、やっぱり褒められていた。

 ここは冒険者ギルドで、ここにいるのは冒険者ばかりなのは当然だった。つまりあの夜に魔物の大群を相手にその身を張った人達ばかりだ。

 そんな人達にも感謝されている。その事実がわたしの心臓のリズムを狂わせる。

 英雄らしい死に方を選んだ。だけど、それは賞賛されることを望んだわけじゃない。

 わたしはただ、わたしを認めてほしかっただけで……。あれですべてをチャラにしたかっただけなんだよ……。

 顔を上げていられなくてうつむいてしまう。隣に座るハドリーがこっちを見ているのが横目でわかった。


「がんばってたエルをこの目で見られなかったのが残念だな」


 ハドリーが子供らしい純真な笑顔を向けてくるものだから、わたしは誰の顔も見られなくなってしまった。


「騒がしいな。何かあったのか?」


 静かな声がよく響く。振り返れば、ちょうどサイラスを先頭に『漆黒の翼』のメンバーが冒険者ギルドに入ってきたところだった。

 すぐにサイラスと目が合う。眉根を寄せた大男は、いつも身に着けている全身鎧をガチャガチャ鳴らしながら歩み寄ってきた。

 いつもより大きな足音に身構える。なんだかいつもと雰囲気が違うような気がするんですけど。

 目の前で立ち止まるサイラスは、わたしを見下ろした。緊張感がさっきまでとは違った鼓動を刻む。

 しばらくそうしていたから、これはわたしから声をかけなきゃいけない場面なのかと思った。


「お、お疲れ。サイラス」


 返されたのは無言。圧倒的無言であった。

 その無言に何か意味があるような気がするけれど、行間を読めみたいなのはわたしにとって無茶ぶりでしかない。


「……」

「いったーー!!」


 だからサイラスが無言のまま拳骨を落としてきた理由を、わたしがわかるわけがなかった。

 悶絶するわたしを見ても、サイラスは無言のままだった。帽子も被ってないからもろに拳骨を喰らってしまった。とんでもなく痛い。

 悶絶するだけのわたしを眺めるのにも飽きたのか。ようやくサイラスがぽつりと一言。


「お疲れさん黒いの」

「それ返事になってないからっ!」


 痛みで顔を上げられなかったわたしは、その時のサイラスの顔を見ることはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。