第一章‐5
「なんだか楽になりました。 ありがとう」
「どういたしまして」
薄ら微笑み、溜まったフラストレーションは解消されたようだ。
ただ辛くて、悲しくて、泣く彼女のそばに居ただけで特別なことはしてない。
こんな取り柄もない俺に感謝されるとは……なんだか嬉しい。
「あの……行く宛とかありますか?」
「ん~、何しろ異世界の旅なんて初めてだから行く宛はないね」
「で、でしたら! 私と共に生涯を捧げませんか?」
地面を叩き、逆ハの字の眉をひそめ、顔を突き出してくる。
純白で汚れがない瞳で至って真剣そのものだ。
嘘偽りなくポンコツで無能な俺と最後まで暮らしたいと……
困ったな。 彼女に対して恋愛感情はない。
この場ではっきりと断っておこう。
傷が深くならないうちに。
「君の期待には答えられない。 愛するのは無理だ」
「あいっ……!」
頬から耳まで顔全体が真っ赤に火照り、金魚のように口をパクパクとしている。
言動を思い返し恥ずかしくなったのか、更に赤に染まり、頭上からは湯気が出る始末。
「ちちちち違いますぅ! 生涯を捧げませんかってのは、一緒にくらしませんかの意味で……あぅ……その……けっして、あなたのことを添い遂げる気はありませんから!」
必死に弁明する彼女は可愛いなと思う反面、男してむなしくなる。
まあ、でも……特別な人として、意識してなくてよかった。
死にたい願望がある奴に、愛する情を持ったりしたら必ず一生癒えない傷を負う。
すぐにお別れをしてしまうからだ。
彼女はそんな気はないから安心した。
「わかった、わかったから落ち着け」
「わかればいいんです! ……で、一緒に暮らすのですか? 暮らさないのですか?」
ぷくーと、頬を膨らませ、二の腕を組んで問いかける。
間違ったニュアンスをしたのは彼女なのに、なぜだか不機嫌だ。
一ミリも悪くないのにな……若いってやつか。
さて、彼女の誘いを断る理由もない。
もちろん――
「暮らそう。 今後ともよろしくな」
「はい、こちらこそ」
腕を前に突き出して、握手の構えをすると、小さな手で挟んでとびっきりの笑顔で返してきた。
演技ではない銀髪の少女につられて自然と笑みが零れた。
「そうゆえばあなたの名前は?」
「……死にたい無能野郎…………シノとでも呼んでくれ」
「シノね。 私はリラってゆうの」
本名を明かしてもよかったが、呼びにくいであろうと配慮だ。
もう一つは戒めを込めた意味もある。
現実から目を背けた俺にはふさわしい名だ。




