表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に魔法はないんだよ  作者: バル33
第一章:白銀の少女
6/32

第一章‐5


「なんだか楽になりました。 ありがとう」

「どういたしまして」


 薄ら微笑み、溜まったフラストレーションは解消されたようだ。

 ただ辛くて、悲しくて、泣く彼女のそばに居ただけで特別なことはしてない。

 こんな取り柄もない俺に感謝されるとは……なんだか嬉しい。

 

「あの……行く宛とかありますか?」

「ん~、何しろ異世界の旅なんて初めてだから行く宛はないね」

「で、でしたら! 私と共に生涯を捧げませんか?」


 地面を叩き、逆ハの字の眉をひそめ、顔を突き出してくる。

 純白で汚れがない瞳で至って真剣そのものだ。

 嘘偽りなくポンコツで無能な俺と最後まで暮らしたいと…… 


 困ったな。 彼女に対して恋愛感情はない。

 この場ではっきりと断っておこう。

 傷が深くならないうちに。


「君の期待には答えられない。 愛するのは無理だ」

「あいっ……!」


 頬から耳まで顔全体が真っ赤に火照り、金魚のように口をパクパクとしている。

 言動を思い返し恥ずかしくなったのか、更に赤に染まり、頭上からは湯気が出る始末。


「ちちちち違いますぅ! 生涯を捧げませんかってのは、一緒にくらしませんかの意味で……あぅ……その……けっして、あなたのことを添い遂げる気はありませんから!」


 必死に弁明する彼女は可愛いなと思う反面、男してむなしくなる。

 まあ、でも……特別な人として、意識してなくてよかった。

 死にたい願望がある奴に、愛する情を持ったりしたら必ず一生癒えない傷を負う。


 すぐにお別れをしてしまうからだ。

 彼女はそんな気はないから安心した。


「わかった、わかったから落ち着け」

「わかればいいんです! ……で、一緒に暮らすのですか? 暮らさないのですか?」


 ぷくーと、頬を膨らませ、二の腕を組んで問いかける。

 間違ったニュアンスをしたのは彼女なのに、なぜだか不機嫌だ。

 一ミリも悪くないのにな……若いってやつか。


 さて、彼女の誘いを断る理由もない。

 もちろん――


「暮らそう。 今後ともよろしくな」

「はい、こちらこそ」


 腕を前に突き出して、握手の構えをすると、小さな手で挟んでとびっきりの笑顔で返してきた。

 演技ではない銀髪の少女につられて自然と笑みが零れた。


「そうゆえばあなたの名前は?」

「……死にたい無能野郎…………シノとでも呼んでくれ」

「シノね。 私はリラってゆうの」


 本名を明かしてもよかったが、呼びにくいであろうと配慮だ。

 もう一つは戒めを込めた意味もある。

 現実から目を背けた俺にはふさわしい名だ。

  


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ