第一章‐4
驚嘆した彼女は刃物をゆっくりと下ろし、その場で腰を抜かした。
突然のへこたれに心配して少女に近づく。
「どうした? 俺を殺さないのか?」
「ごめんなさい……あなたは極悪非道な異界の者ではなかったのですね。 殺そうとして本当にごめんなさい」
「まてまて! なにがどうゆうことだ?」
急な土下座に慌てて頭を上げるよう、肩を触り、上体を起こした。
涙ぐんで今にも泣き出しそうな彼女に、深い事情があるとわかる。
異界の者とやらは幼い少女になにをしやがった。
なぜだか心の奥底からふつふつと、怒りが芽生えた。
「話すと長くなります。 二日前の出来事です」
「最近か」
「そうです。 丁度あなたに似た服装をした者たちが、私の村を襲撃してきました」
思い出すのがつらいのか服の裾をギュッと握り、暗い表情で話す。
顔色を察するに……さぞ苦しい思いのしたのだろうと、鈍感な俺でも理解する。
「以前から他の村で、奇妙な服装をした盗賊が各所で襲っていると情報はありました。 私の村では即座に盗賊迎撃用の罠や、武器を準備しましたが…………異界の者には通用しなかったのです。 鉄の飛び道具、火を噴く風車、辺り一面を焦土にする卵……どれも見たことがない武器に、なすすべなく一方的に殺戮され、村は壊滅し、私以外は全滅しました。 都合よく私だけが助かり、命からがら逃げてきたのです」
拳銃、火炎放射器、手榴弾……どれも俺の世界の兵器だ、しかも一般人が手にするのは不可能な代物ばかり。
軍関係者が無害な人を殺めるなんて、狂ってるとしか言えない。
「私だけが生き残り……親友の苦痛な顔……家族の辛辣な表情が頭から消えなくて………悔しくて、憎くて……刺し違えても絶対に殺してやると、異界の者を探していたら……あなたに出会ったのです」
「……そうか、つらかったよな」
ぽろぽろと、涙を流す彼女に自然と抱き寄せ、いい子いい子と頭を撫でてあやしていた。
その瞬間、安堵したのか顔を腹部に埋め、泣き崩れてしまう。
全体重を身を寄せて、鼓膜が割れるのではと思わせるほど大声で喚き続ける。
「うぇ……うぐぅ…………」
「よしよし」
目の前で大切な人がいなくなるのは想像を絶するだろう。
俺には気持ちはわからないが、彼女にしてやれることは慰めるしかできない。
泣き止むまでずっと側にいることだけだ。




