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異世界に魔法はないんだよ  作者: バル33
第四章:失意から――そして
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第四章-5


 細腕なのに木の枝を容易く折る筋力に疑問をもったのが最初だ。

 太い幹でも例外なく折ってるのがおかしかった。

 で、確信な出来事であり普通ではないと把握していた。

 それは、オークを見つけた視力だ。

 人影すら見えない位置で索敵できる能力に、吹雪の中で相手がいる方角さえわかっていたことだ。

 もはや視力が良いレベルを超えている。 千里眼に近い能力。

 ゆえに人外だと理解した材料は上記の二つがあったから閃いた。


 以前この世界には人間を超えた能力を備えている、人の姿をした生物がいると聞かされた。

 答えは簡単だ。

 つまり彼女は――


「魔人なんだろ。 リアは」

「……当たり。 人間じゃない私なんて……嫌だよね?」

「んなわけあるか。 こんな可愛いい女の子を嫌う要素があるものか。 それに……恋人だしな」


 懸念が払拭されたのか強張った顔つきが消えて笑顔になる。

 よく見る元気なリアだ。 笑った顔がよく似合う。

 魔人だからといって嫌いになると思われていたのは心外だが、リアの心配がなくなったから良しとしよう。


「物好きよね、シノは。 人ではない種族でも受け入れるなんて」

「見た目が怪物とか、化け物なら少しは嫌悪するかもしんないけど。 人間の外見なら大丈夫だ。 ケモナー、エルフ、ドワーフ、妖精、なんでもござれだからな」

「うっっわぁー……」

「おい、引くなよ! 傷つくだろ」


 一歩後ろに下がったのは正直に精神的にダメージがきた。

 てか、ケモナーとか色々知ってるのか。 異世界にいる種族が存在するとはね。

 リアには質問してなかったからだけども、まさかいるとは思ってなかったから聞かなかった。


「そういえば胸の傷はどうなってる?」

「綺麗さっぱり塞がっているよ、ほら。 グリシャーシエの治癒能力並みに回復力があるみたい。 もう痛くないの」

 

 驚異的な再生力。 魔人の能力のひとつのようだ。

 撃たれた部分の左胸は何事もなかったように傷跡さえない。

 透きとおる肌だけがそこにある。

 のちのちに支障をきたすことはなさそうでなによりだ。

 と、あまり長くじろじろ見るのはよそう。 

 理性が吹っ切れるかもしんない。


「後遺症も心配もないし……あと一つだけ質問いいか?」

「性的なこと意外なら」

「エロ親父だと思われているのか…………。 気を取り直して、グリシャーシエが術者が死んだら暴走するって話してたんだが、リアはなぜ無事なんだ?」

「ああー……それって」


 苦虫を噛み潰したような顔色で頬をかいていた。

 心当たりがあるようだ。


「たぶん、私の亡骸をシノに見せたくなかったからホラ吹きしたんだと思う。 グリシャーシエとは付き合い長いし、最後まで看取りたいと考えてたかも」

「でまかせか。 無事な理由がわかったからこの件はいいか」

「あはは……ああ見えて、独占欲強いから」


 日々の暮らしで仲良くしてるのに対して妬んでるのかもしんないな、ゲス妖精は。

 真の姿はドラゴンで威圧感半端ないけどな。


「……さあ、かえろ――いっつぅぅ!」

「ど、どうしたの!」

「……すっかり忘れていたわ。 オークと殺し合いで負った怪我してたんだ」

「よく生き残ってたね。 ――じゃあ治癒するから我慢してね」


 我ながらそうだと思う。 体格差は歴然で格闘技術も会得してなければ喧嘩の経験もほとんどない。

 ぶっつけ本番で勝利した自分に評価する。

 もう一度やれと言われたら無理だと断言できる。

 激怒してたわりには頭は冴えきっていた。 火事場の馬鹿力の一種なのかもしれない。

 

 さて、二回目の治癒体験。

 高速で肉が生成される感覚がやってくる。

 心構えをしなくては。


「ぉ……ふっぅ! ぐぎぎっ! は……ぁ……」


 ヒビの入った胸骨になにかが侵入してくる気味が悪い。

 ギギギと歯車が絡んでる音が胸から響く。

 ほんと暴れたくなる不快な治療だよ。 


「はい、治癒完了」

「……はあ、慣れないわ、これ」


 大きく息を吸って吐いても胸は痛まなくなっていた。

 ものの数秒で治るのはいいけど、三度目は遠慮したい。

 治す刺激は苦痛そのものだから。


「身体の異常は消えたことだし。 あらためて……帰ろうか」

「ええ、帰りましょう。 一日なにも食べてなかったらお腹空いちゃった」

「なら、リアの復活を祝して食事は豪華にしなくちゃな」

「ふふ、楽しみね。 豪華なのだから肉があって当然よね?」

「……寝床に帰ったら準備して狩りに出かけます」


 キノコのフルコースを提供しようと考えていたが、にっこりスマイルから溢れる威圧に逆らえないわ。

 言い出しっぺしなきゃ良かったと後悔した。

 動物を探すのも、狩るのも大変なんだよなぁ。

 ……仕方ない、リアのためだ。 頑張るしかないか。


「手、繋ごう」

「あいよ」


 指の隙間に指を突っ込み恋人繋ぎをする。

 (たが)えることがあっても、喧嘩することがあっても、心は離さないと誓うようにギュッと指に力を入れた。

 雪解けの水滴で太陽光が反射する、輝く銀世界を歩きながら拠点に帰化した。

     

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