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異世界に魔法はないんだよ  作者: バル33
第四章:失意から――そして
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第四章-2


「……足音」


 ザクッザクッと、しっかりと踏み込む音に警戒をする。

 狼や獣類ではないのは確実だ。

 人間が歩く音に近い。

 こっそりと覗くように外を見る。

 リアが帰ってきたのではと期待して。  


「あ……あいつは!」


 なんとも不幸か、リアの命を奪った一味の残党。 オークが歩いていた。

 怪訝そうな顔で森を徘徊するあいつを目に瞬間、いままで寝てたんじゃないかと思うぐらい急激に血が騒いだ。

 全身が熱く、頭が沸騰しそうな状態。 激昂しているのか? それもとてつもなく。

 周りなぞどうでもよく、視界が霞むほどに景色が燃ゆる。

 気づかないうちにリアが愛用したナイフを握っていた。


「――殺してやる」


 今ならリアの気持ちがわかる。 自己を犠牲にしてまで相手に向かうのかよくわかる。

 全てを奪った者に対する無限に沸く殺意。 際限なく奥底から溢れる憎悪。

 己では静止しようがない。 コントロールなんて不可能だ。

 ああ、憎い。 一秒でも早く殺してやりたい。

 ああ、あいつが生きてる姿があるだけで憎くてしょうがない。


「気づいていない。 責めるなら今だ」


 焚き火の煙が空に伸びているのにも関わらず、まったくもって気にも止めていない。

 何かから怯えて逃げる小動物のようにだ。

 この好機を逃がすわけにはいかない。 多少音を立てようが奴はスルーするだろう。

 強く短剣を握り、颯爽に駆け抜けた。

 ウォーミングアップをしてたかのように身体は羽みたく軽い。


 これなら奴を息の根を確実に止めれそうだ。

 すでにトップギアまで入っている。 なんでもこなせる自信が出るほどにだ。

 覚悟しろ豚野郎。 てめえを今からめった刺しにしてやる。


「騒がしい……!?」


 目を大きく開き驚嘆しているが、もう遅い。

 奇襲は成功だ。 人間の身体の構造が同じかどうかは知らないが、頸動脈を一突きした。

 たとえ構造が異なろうが首を刺されては致命傷だろう。

 あとはじっくりと狩るだけだ。


「味なマネしやがって!」

「嘘だろ!?」


 首を刺してるのに怯むことなく発砲してきた。

 運よく銃弾は頬をかすった程度で済んだが、ナイフで切られたような傷ができ血が垂れた。

 慌てて奴から距離を取り体勢を整える。

 マジか。 頸動脈を狙ってもまともに動けるなんて化け物かよ。


「あの時の小僧か。 いきなり刺してくるとは非常識な野郎だ」

「非常識? お前が言う台詞じゃないだろ。 理由なく村を襲い、リアを殺したお前が吐けることじゃない」

「……くく。 ふふふ、かかかかかかぁ!」


 ツボにはまったのか高笑いをするオーク。

 なにがおかしい?


「理由なくだと? 理由なんざ必要ねえんだよアホがぁ! 小僧が人間だと思う者は俺にとっちゃ人間じゃねえ。 道端にいるゴキブリと変わらん。 害虫に対して理由なぞ求めるのか、あん?」

「なるほどな。 確かにそうだ。 お前の言うことは正しい。 なら、ブヒブヒとうるさい害虫を殺しても文句はないよな」


 冷たい瞳で奴を睨む。 対話など無意味。 視界にいるのは人間ではない、知能を持った敵だ。

 戦闘はいつでも可能だ。 手負いの相手を容赦なく攻撃するのみ。

 殺意を感じたのか射撃準備にオークは入る。

 一発でも受ければ重傷、当たり所が悪ければ死に繋がる。

 重々承知だ。 当たっても死ななければそれでいい。


 即死でなければ俺の中にある怒りの炎は消えないのだから、恐れる必要はない。

 勇敢に立ち向かうだけだ。


「はっ!」

「なんだとっ!」


 足元にある雪を蹴り飛ばしオークの視界をシャットダウンさせる。

 勝負は一瞬。 この手は二度は通用しない。 一度だけのせこい技。

 それで十分だ。 虚をつければ良かったのだから。

 硬直している今がチャンス。 全てをここに賭ける。


「うおおおおおっ!」


 真っ白な空間に突っ走り空高く振り上げる。

 雪が地に落ちた時には、拳銃を持つ腕に目がけてぶっ刺していた。

 奇襲は成功した。 奴は武器を落とし、戦力はダウンだ。


「いでででででぇぇぇ! クソムシガァァァ!」


 雄たけびを上げ、刺されていない腕で俺の胸部を殴り飛ばす。

 あの巨体から放たれたパンチは想像以上にダメージが大きい。

 骨にヒビ入ったかもしれない。 


「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

「げほっ、ごほっ! はぁはぁ……………………あ?」


 痛みに耐えながら起き上がった時にはオークの姿はなかった。

 逃げだしたのか? 無抵抗の人々を葬った者が?

 臆病者が……絶対に逃がさない。 必ず仕留める。

 貴様はリアを奪った奴だ。 逃げるなんて許さない。

 まずはどこに行ったか確かめないと。


「二か所刺した甲斐があったな」


 あの出血量では布で簡易な処置をしても、血は地面に落ちるだろう。

 それに遠くに行くこともできない。

 血痕の後を追っていけば奴にたどり着く。

 歩むのを辞めたその時が豚の最後だ。 覚悟しろ。 

   

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