第三章-1
鼻水が凍るほど寒い今日この頃。 一か月に二日間限定のはずの冬は延長されていた。
昼頃になっても雪は溶けず、寒さは健在だ。
余分に三日分の食料を集めていた良かった。 もしも確保してなければ極寒の森の中を探すはめになっていた。
余裕があるおかげで現在はのんびりと寝転がり、焚き火で温まり至福だ。 一人を除いては。
「……こんなのおかしい。 おかしいよ~。 世界は私を殺そうとしてる」
「ないない。 しっかし寒さにほんと弱いよな。 何回も経験してんだし慣れたらどうだ?」
「むりむり。 寒さだけは子供の頃から慣れないのよ。 身体の自由がほとんど利かないし」
「えっ? 異界の者を追っかけた時はバリバリに動いてたじゃん」
「あれは別腹ってやつよ」
全力で走っても追いつけない速度で駆け、冬の間は動けませんは説明がなっていない。
非常時じゃなければゴロゴロしておきたいが本音だろうに。
まあ、寒いのが苦手なのはわかる。 活発だった姿と見比べたらね。
「はあー、火があっても冷えるな。 ……そうだ。 リア、召喚術の応用で部屋全体を暖めることは出来ない?」
「それが出来たらとっくの昔にやってる。 グリシャーシエは森の精霊だから火は扱えないの。 召喚術の応用技は契約している精霊によって効果が異なるのよ。 森を司る者なら回復とかね」
「む、そりゃ残念だ」
「精霊は万能じゃありませんから」
瞬時に肩口の傷を癒せたのは言葉遣いが荒いゲス妖精のおかげか。
あの容姿のくせに優秀だな。 人はてか聖霊は見かけによらずわからんもんだ。
「んん~! 届かない」
「そんなにフワフワで心地の良い毛皮モーフから出たくないのかよ」
「モウフ、ナイト、コゴエジヌ」
「なぜにカタコト。 ほれ、受け取れ」
「あ……や」
予備のモーフを渡す際に手の甲がリアの指とぶつかり庇うように手首を押さえる。
俺との視線を逸らし、しおらしくなるリアに脳天をズドンと撃ち抜かれた。
恋をしてはいけないと誓っていた頃は特になにも感じることはなかったが……今になって感じる。
可愛い、そして襲いたいほど愛くるしい。
おかしいな。 抱きしめてあげたいと欲求が肺の奥から噴きだす萌え感は!
「お伺いことがあります。 抱きしめてもいいですか?」
「だめ、絶対だめ。 まだ付き合って一日だし、それにまだ早いよ」
「……たまらん」
毛皮で鼻と口を覆い隠しながらしゃべるリアに萌え死にそうになりました。
いちいち仕草が俺の魂にくすぐるので脳が沸騰しそうである。
……生きてるのが楽しい、幸福だと思ったのは初めてだ。




