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異世界に魔法はないんだよ  作者: バル33
第二章:殺意そして恋へ
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第二章‐6


「……なんで助けた」

「はっ、理由なんかねえよ。 死んでほしくないから助けた、それだけだ」

「……」


 唇を強く噛み口元から一滴の血が垂れ、全身を小刻みの震わせていた。

 紅色に染まったナイフを刹那に耳横すれすれに突き立て、激昂に狂った瞳で睨みつけてくる。

 あの頃と同じの殺意を剥き出しにして。


「あんたにわかる? 親友や家族の仇がすぐそばに居て殺せるのに殺せない、踏みにじられた気分は? やっと復讐できるのに妨害されたあげく、自己満足でやったと胸糞な回答された気分は?」

「……わかんねえよ、お前の気持ち。 わかりたくもない」


 ドゴッと腹部に鈍い痛みが広がった。

 溝に握りこぶしで思いっきり打たれ一瞬息が詰まるが、容赦なくストレートを腹に殴りこむ。

 鬱憤をはらすように次々と拳を浴びせてくる。


「くそっ!」


 止めどない怒りは俺の腹へと吸収されていく。

 一発一発の重みは内臓に響く。

 リアの行き場のない怒りがリンクしてるように拳が重い。


「くそくそくそ!」


 加減などせず力いっぱいに殴る殴る。

 ストレートを浴びせるリアは泣いてるようにも見えた。

 痛い……彼女の気持ちが籠った拳は痛いほど伝わる。


「くそがぁ!」


 スタミナが切れたのか息を切らして身を寄せてくる。

 最後の一撃はどの拳よりも重く、食道から上る胃酸を喉元でせき止め、吐くのを我慢した。

 気分が最悪のまま沈黙が続く。

 リアの怒りは収まったのだろうか?


「だめ……やっぱり憎しみが底から沸いてくる。 シノを切り刻んでも収まらない」

「俺の命と引き換え――」

「――無理よ。 やつらをミンチにしないと私の心は晴れない」


 即答。 命を支払っても止まらない。

 深く根付いた闇は元凶を絶つしか取り払うのは不可能。

 オークを殺すまで殺意の衝動はやまない。

 どうすればいい……。


「じゃあね、シノ」

「傷一つ付けられず死ぬぞ」

「いいの。 本望だから」


 ――嘘をついている。


「やめろ。 犬死にするだけだ」

「構わない。 本望だから」


 ――二回目の嘘をついている。


「いい加減にしろ。 無駄死にする必要はない」 

「あなたこそいい加減にして。 これが私が望んだことなのよ」


 ――三回目の大嘘つきをした。


 じゃあなんで肩が震えてるんだ?

 本当は死ぬのが嫌で怖くて堪らないだろ。

 正直に行きたくないって言えよ。

 簡単なことだろ。

    

 

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