第二章‐6
「……なんで助けた」
「はっ、理由なんかねえよ。 死んでほしくないから助けた、それだけだ」
「……」
唇を強く噛み口元から一滴の血が垂れ、全身を小刻みの震わせていた。
紅色に染まったナイフを刹那に耳横すれすれに突き立て、激昂に狂った瞳で睨みつけてくる。
あの頃と同じの殺意を剥き出しにして。
「あんたにわかる? 親友や家族の仇がすぐそばに居て殺せるのに殺せない、踏みにじられた気分は? やっと復讐できるのに妨害されたあげく、自己満足でやったと胸糞な回答された気分は?」
「……わかんねえよ、お前の気持ち。 わかりたくもない」
ドゴッと腹部に鈍い痛みが広がった。
溝に握りこぶしで思いっきり打たれ一瞬息が詰まるが、容赦なくストレートを腹に殴りこむ。
鬱憤をはらすように次々と拳を浴びせてくる。
「くそっ!」
止めどない怒りは俺の腹へと吸収されていく。
一発一発の重みは内臓に響く。
リアの行き場のない怒りがリンクしてるように拳が重い。
「くそくそくそ!」
加減などせず力いっぱいに殴る殴る。
ストレートを浴びせるリアは泣いてるようにも見えた。
痛い……彼女の気持ちが籠った拳は痛いほど伝わる。
「くそがぁ!」
スタミナが切れたのか息を切らして身を寄せてくる。
最後の一撃はどの拳よりも重く、食道から上る胃酸を喉元でせき止め、吐くのを我慢した。
気分が最悪のまま沈黙が続く。
リアの怒りは収まったのだろうか?
「だめ……やっぱり憎しみが底から沸いてくる。 シノを切り刻んでも収まらない」
「俺の命と引き換え――」
「――無理よ。 やつらをミンチにしないと私の心は晴れない」
即答。 命を支払っても止まらない。
深く根付いた闇は元凶を絶つしか取り払うのは不可能。
オークを殺すまで殺意の衝動はやまない。
どうすればいい……。
「じゃあね、シノ」
「傷一つ付けられず死ぬぞ」
「いいの。 本望だから」
――嘘をついている。
「やめろ。 犬死にするだけだ」
「構わない。 本望だから」
――二回目の嘘をついている。
「いい加減にしろ。 無駄死にする必要はない」
「あなたこそいい加減にして。 これが私が望んだことなのよ」
――三回目の大嘘つきをした。
じゃあなんで肩が震えてるんだ?
本当は死ぬのが嫌で怖くて堪らないだろ。
正直に行きたくないって言えよ。
簡単なことだろ。




