第二章‐5
口からは血を流し苦悶の顔で息絶えている人間ではない者の亡骸がそこにあった。
猪……いや、豚のような容姿。
よくファンタジー小説で登場するオークにそっくりだ。
村を壊滅させた異界の者とは、俺の世界の住人ではなく、また異なる世界の住人であった。
「あは……は……ふふ……。 やったよ、皆」
虚ろな瞳で空を見上げ不敵な笑みを浮かべていた。
返り血で衣服は赤色に染まり、手も血でべっとりと付いたシーンに恐怖を感じた。
こうも人は憎しみで豹変してしまうのかと。
狂気に取りつかれた彼女のが恐くて話しかけるのを躊躇ってしまう。
「まず一人。 残り三人」
血の付いたナイフを振り払い、前方が見えない吹雪の中ゆったりと歩いていくと、忽然に視界がクリアになり吹雪が止んだ。
その瞬間、銃声が鳴り響いた。
「こ……の……!」
左足首に銃弾はかすめ軽傷を負ったリアは機動力を完全に失ったにもかかわらず、立ち上がり挑もうとする。
銃を装備した敵が三人相手に短剣では勝ち目がない。
それでも上がり坂にいるオークに足を引きずりながら向かっていく。
「あいつらは……殺す。 命に代えても……」
「……リア!」
刹那――銃口が彼女に一点集中に向けられた一時の間に地を蹴り、リアに飛び込んだ。
全身を包み込むように抱きしめ、転がりながら下っていく。
銃弾は見事回避に成功し、距離も取れた。
あとは身を引くだけだが……
「離してよ! 邪魔しないでよ!」
「お説教も愚痴もあとでなんでも聞いてやる! 今は逃げることが先決だ」
「ひゃっ!」
暴れるリアを無理やりお姫様抱っこで担ぎ、来た道を引き返すように走り出す。
逃がさまいとオークたちは銃を乱射しまくり狙ってくる。
頭部を引っ込めながらがむしゃらに突き進む。
隣でバキバキと砕ける木々の音を聞きながら駆けるのは死を感じた。
「がっ……ああ……!」
左肩に激痛がはしる。
撃たれた……痛みで倒れそうだ……けど、足は止めるな。
走るのをやめたらハチの巣だぞ!
重症を負いながらも、ただひたすら雪の中を駆け抜けていった。
ほどなくして銃声とオークの姿は消え失せ、無事逃げおおせた。
大樹に背中を預け息を切らしていた。
なんとか……助かった。
生きてるのが奇跡だ。




