第二章‐4
「…………あ」
「どうし……!」
リアの三白眼を見た瞬間、背筋が凍る感覚に襲われた。
狂気に満ちた瞳は最初に出会った頃と似ている。
彼女の視線の先に振り向くが、雪が降っている光景しか映らない。
リアの瞳にはなにが映っているのかと思考を巡らせてると尾骨辺りから短剣を取り出した。
ぎらめくダガーナイフを見つめ、深呼吸をしこちらに顔を向けて一言。
「付いてこないでね」
悲しい目をしながら微笑みリアは凍える白の世界に颯爽と駆け抜けた。
唐突なリアの変化に呆気に取られたが頭を左右に振り、すぐさま追いかけた。
咄嗟に動いた甲斐もあり特徴ある長髪が視界に入るが直後、いきなり猛吹雪が襲う。
「ぐっ」
視界は遮られ、最悪なことに彼女を見失う。
前進するだけで体力を根こそぎ奪ってくる。
このままでは完全にリアがどこに居るのかわからなくなる。
なにか追跡する手段はないか?
「……足跡」
獣とも違い五本指の足跡がくっきりと残っていた。
間違いなくリアの足跡。
足跡に沿っていけばいずれたどり着く。
一分一秒でも早く追いつかいないと……リアの命が危ない。
「生きててくれよ、リア」
今さらながら己の頭の悪さに怒りを覚える。
ダガーナイフを持った時点で無理やりでも止めるべきだった。
彼女が刃物を持つときは狩りをする場合にしか使わない。
狩り以外にダガーナイフを取り出すのは手入れをする時のみ。
食料も水も蓄えが十分で外に出る理由がないのに、憎悪に満ちたの表情で飛び出した理由は一つしかない。
村を壊滅させた異界の者がいたからだ。
復讐できるなら命を投げうってでも実行するだろう。
彼女を止める義理などない……だけど、助けられる命があって見過ごすほど自分は腐ってない。
それとリアには恩返しをしてない。
君との生活は楽しくて……救われた。
病気で亡くなったり、自然災害で死んだりは仕方ないと割り切っているが、殺されるのだけはお断りだ。
生きる希望を分けてくれた彼女は死なせない。
俺の……生きる指標なんだ。
リアを失ったら生きてる意味がない。
お願いだから、俺が到着するまで生きててくれよ。
「……いた!」
足跡を頼りに進むと彼女の面影が見えた。
大急ぎで近寄ると、べちゃっと生暖かい水ぽいなにかを踏んだ。
恐る恐る足元に視線を向けると……軍服を着た兵士が倒れていた。




