第二章‐3
「シノの背中は大きくて温かいね」
「残念ながら大きさは平均値だ」
「そう? ぎゅーって、抱き枕しても余るほどだけど」
「…………」
弾力のある柔らかい物が背中全体に感触が広がる。
言葉が出ず、身体がカチンコチンに氷結した。
急な出来事に全身が麻酔を打たれたように力が入らない。
「ご感想はいかがかしら?」
「な……に、してんだ」
「胸を押し当ててるのよ」
彼女が普段では言わないであろう言動に心臓がバクバクと脈が加速し、頭が沸騰しそうだ。
誘っていやがる。 どうにか冷静にならなければ……理性がぶっ飛びんでしまう。
優先してリアから離れることから始める。
力づくで抱きつくリアを振りほどき、外へと出る。
「ああっ! ぽかぽか抱き枕が!」
「ふー、ふー」
外部の冷気が丁度良く熱を下げてくれるが、小動物のような瞳でかまってほしいと訴えかける彼女に胸の感触が甦り再燃してしまう。
理性がぶっ飛ぶと判断した俺は最終手段の行動を開始する。
――目つぶしだ。
「ぐあああああっ! 目がああああ!」
「ええっ!」
真っ白な雪に全身をローリングし瞼を抑えながら悶える。
予想を超える激痛に天然の冷却材を瞼に当てていた。
じくじくと浸食していく痛みのせいで涙が勝手に流れる。
目つぶしは今後はしないと誓う。
痛すぎる。
「ごめん。 おふざけが過ぎちゃった。 まさか目つぶしするなんて……」
両手を合わせ、片目を瞑りながら謝罪をしてくる。
からかうのに胸を押し当てるのかと、冗談が過ぎる行為に殺意が沸いたが、いい思い出を体験したので許す。
反省してるようだし怒る気もしない。
「今後はおふざけでハレンチなことはするなよ。 涙を放出するはめになるから」
「了解。 おふざけではしないようにするわ」
引っかかる言い方に右眉がぴくっと上がる。
おふざけではって……本気ならしますと解釈していいのか。
あまり深く考えないようにしよう。
「はあーーー。 せっかく温めた身体が冷えちまった」
「責任もってあたた――」
「本気でもやめてくれ」
抱きつこうとした小柄な少女を避けて焚き火に向かう。
しょんぼりとした表情で横に座る彼女に少しばかり心が痛んだ。
気づいてはいるんだ。
好意を寄せていることに………………………………
いつからポンコツの二十歳を好きになったのかはわからない。
どこに惚れたのかわからない。
ただ一つ、確証をもって言えるのが――恋人になれば必ず不幸にする。
不自由のない生活を送ろうが必ず。
だから俺を好きにならないでほしいと痛烈に思うばかりだ。




