第一章‐11
――対人恐怖症。
身体は石のように硬直し動揺が激しくなる、俺の場合は。
胸が苦しくて呼吸するのが辛くなるはずなのに……リアの前では平常運転だ。
最初に出会った時もそうだ。
殺されようとしてるのに一切の呼吸も乱さず、焦りもなく冷静でいられた。
家族だろうが親戚だろうが、会話をすれば心臓の鼓動が早くなり平静ではいられない。
なのにだ。
初対面で引きこもりの俺が銀髪の少女と対面しても心理に変化が起きなかったのかと。
異世界に渡る際に脳みそを神様的な人物にいじくられたのではないかとさえ思う。
対人恐怖症を克服したと思考をジョブチェンジすれば気が楽になるだろう。
だけどそれはないと断言できる。
たかが一日や二日で治るのなら、病と認定されていない。
そんな簡単に治るのならとっくの昔に克服している。
わからない……己の心理状態が意味不明だ。
彼女と顔を見合わせても、なぜ平気なのか……わからない。
「むふふ……シノ……たらぁ」
よだれを垂らし幸せな顔に満ちている。
人の名前を呼んで気持ちよさそうなこの寝顔。
たく、隣で難解なパズルを挑戦して頭を抱えてるのにコイツ……
「憎たらしい奴め。 こうしてやる」
リアのほっぺを指でズブリと刺す。
頬を圧迫され「んん……」と苦しそうに唸るが、ぷにぷにとした触感がたまらなくなり続行する。
女の子の頬っぺたはこんなにも柔らかいのかと夢中に連打し続けると――
「あがっ!」
目にも止まらぬ早さのジョブを鼻に直撃。
後方に一回転し岩に後頭部を打ち付け痛みがダブルパンチ。
鼻と頭に手を抑えて痛みに悶えていた。
因果応報といったところか。
八つ当たりしたのが罰に当たったようだ。
「殴られたの小学生以来だぞ」
喧嘩といったトラブルになる元を避けてきた俺にとって痛みは無縁だった。
殴られる経験を久方に忘れていた。
結構痛いのだと。
「ふう……考えるのがアホらしくなってきた。 殴られてからサッパリしたわ。 明日に備えて寝よ」
さっきまでリアと対面して動揺しないのはなぜかと考えるのがバカらしくなり、思考を止めて寝床に戻る。
たとえ答えに辿りついても彼女とは変化はない。
無駄なことに時間を掛けたなと、緩やかに意識がブラックアウトした。




