第一章‐9
ほどなくしてキノコ狩りを終え、数日分の食料の確保に成功した。
持ち運びは腕を抱えながらではなく、即席で作った木の枝で編んだ籠の中に入れてある。
職人のような手つきには驚嘆した。
自給自足のサバイバル生活に慣れているからこその手際の良さだ。
何も説明もされず「綺麗な場所に案内する」一言だけ終わり、後を着いていくとチョロチョロと水が流れる音がする。
木々を抜けて、足を進めたその先には――森林に囲まれた聖域が広がっていた。
岩の表面がくっきりと見えるほど透き通った水に、緩やかに流れる滝、緑色のオーブがそこら中に飛んでいた。
あまりの神秘さに言葉がでなかった。
自然が作り出した幻想郷に見惚れていると、隣で「連れてきて良かった」と微笑んでいた。
「シノは休んでなさい。 歩き疲れたでしょ?」
「うむ、ニート俺には重労働だった。 お言葉に甘えて休ませてもらうわ」
首を傾げて「ニートってなによ?」と未解決のまま、籠を水の池まで持ち運びキノコを取り出して洗い始めた。
じゃぶじゃぶと濯いで汚れを落としていく。
あのスピードなら十分と足らず作業が終えるだろう。
「心が安らぐなここ」
ニート生活では工事の騒音でうるさいし、昼間から子供の叫び声に眠れない時もあった。
ここでは周りが静かで滝が流れる音しかない。
瞼を閉じたら、さらにリラックスする。
いっそ寝てしまってもいいだろう。
久々の運動で疲れたし……………………
「シノ!」
「……んあ!?」
頭をなにかで引っぱたかれた衝撃で目が覚めた。
鼻と鼻が触れそうなリアの顔面がそこにあった。
居眠りしているのに怒っているかと顔色を伺うが、喜色でご機嫌だった。
「食事の用意ができたわよ」
「……すまん。 食事までやらしてしまって」
「気にしないの。 私一人で調理したかったし」
今後とも暮らすパートナーなのに、全てやらしてしまうのは罪悪感を覚える。
気にするなと言われても、気にしてしまう。
内心すげー怒っているだろうなあ。
「それに、あんな幸せそうな寝顔みたらこっちまでにやけたわ」
「怒ってないの?」
「いいえ、逆に笑顔をもらいました」
愉しげでスマイルが崩れないリアに嘘ではないとわかる。
本気で怒ってないと理解すると、ほっと一安心した。
普通なら悪態を吐かれるとこなんだけど……優しいな。




