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異世界に魔法はないんだよ  作者: バル33
第一章:白銀の少女
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第一章‐9


 ほどなくしてキノコ狩りを終え、数日分の食料の確保に成功した。

 持ち運びは腕を抱えながらではなく、即席で作った木の枝で編んだ籠の中に入れてある。

 職人のような手つきには驚嘆した。


 自給自足のサバイバル生活に慣れているからこその手際の良さだ。

 何も説明もされず「綺麗な場所に案内する」一言だけ終わり、後を着いていくとチョロチョロと水が流れる音がする。


 木々を抜けて、足を進めたその先には――森林に囲まれた聖域が広がっていた。

 岩の表面がくっきりと見えるほど透き通った水に、緩やかに流れる滝、緑色のオーブがそこら中に飛んでいた。

 あまりの神秘さに言葉がでなかった。

 自然が作り出した幻想郷に見惚れていると、隣で「連れてきて良かった」と微笑んでいた。


「シノは休んでなさい。 歩き疲れたでしょ?」

「うむ、ニート俺には重労働だった。 お言葉に甘えて休ませてもらうわ」


 首を傾げて「ニートってなによ?」と未解決のまま、籠を水の池まで持ち運びキノコを取り出して洗い始めた。

 じゃぶじゃぶと(ゆす)いで汚れを落としていく。

 あのスピードなら十分と足らず作業が終えるだろう。


「心が安らぐなここ」


 ニート生活では工事の騒音でうるさいし、昼間から子供の叫び声に眠れない時もあった。

 ここでは周りが静かで滝が流れる音しかない。

 瞼を閉じたら、さらにリラックスする。


 いっそ寝てしまってもいいだろう。 

 久々の運動で疲れたし……………………

 

「シノ!」

「……んあ!?」


 頭をなにかで引っぱたかれた衝撃で目が覚めた。

 鼻と鼻が触れそうなリアの顔面がそこにあった。

 居眠りしているのに怒っているかと顔色を伺うが、喜色でご機嫌だった。


「食事の用意ができたわよ」

「……すまん。 食事までやらしてしまって」

「気にしないの。 私一人で調理したかったし」


 今後とも暮らすパートナーなのに、全てやらしてしまうのは罪悪感を覚える。

 気にするなと言われても、気にしてしまう。

 内心すげー怒っているだろうなあ。


「それに、あんな幸せそうな寝顔みたらこっちまでにやけたわ」

「怒ってないの?」

「いいえ、逆に笑顔をもらいました」


 愉しげでスマイルが崩れないリアに嘘ではないとわかる。

 本気で怒ってないと理解すると、ほっと一安心した。

 普通なら悪態を吐かれるとこなんだけど……優しいな。

   

  

 

 

 


 

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