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3.実習

「実習か……」


食事を終えた俺は急いで更衣室へと向かっていた。

実習に使う服、実習服はまだ届いていないので、動きやすい服装にしてこいと言われているのだが、


「実習が、決して体育だと言い切れないんだよなぁ」


あの授業を体験したいま、実習とは暗黒ミサです、と言われてもあり得そうな気がしてならない。


「それは嫌だなぁ、いや待てよ、それならもしかしたら俺に魔術魔術言ってたのって、宗教に乗り込みすぎてクラスメイト全員厨二病だったとか……」


俺はそんなしょうもないことを呟きつつ、ジャージを持って更衣室を開いて、


「っ、」


ーーー軍服を着たクラスメイトの姿に言葉を失った。


その真新しい軍服は決してクラスメイトが戦争にでていた、そんなことを示してはいない。

だが、ただの実習用の服だと言い切るには、その軍服は余りにも実用的すぎた。

しかもそれだけでなく、クラスメイトは様々な道具を軍服の中に収納していく。

水銀、ナイフ、さらに聖水。

その光景は明らかに異様で、


ーここから離れろ。


そう俺の本能が大音量で警告を発しているのが分かる。


「っ!」


そして俺はその本能に従い、更衣室を後にしようとして、


「東君、どこに行くつもり?」


ーーーいつもと変わらぬ柔らかい笑みを浮かべた相楽にその手を掴まれた。


そしてその瞬間、俺と相楽は更衣室の中の人間の注目を集める。


「い、いや、体調がわるくて……」


「だったら、実習は見学するといい」


俺の挙動不審な様子を見た相楽はそう俺に優しく囁く。

その様子はとても慈愛に満ちているのに、


「なっ、」


ーーーその目だけは爛々とひかり、逃さないと、俺に語りかけていた。


「そうだよ、見学は必要だよ」


「ああ、分からないことがあれば俺たちがサポートするからさ」


そして、他のクラスメイトも全く同じ目をしていて、俺は逃げ場が無くなったことを悟る。

そして俺は諦めたように返事をする。


「わ、分かった」


だが、俺は薄っすらと分かっていた。

このまま付いていくことを、自分が後悔するだろうことを、


ーーーいや、この学校に通うことになったそのことを後悔することになることを……


だが、この時の俺に逃げることが出来るはず無かった……










ジャージに着替えた俺は、そのまま実習室と呼ばれる場所に案内される。

そしてその間、俺は相楽達とたわいない雑談をしながらきたのだが、


ーーー彼らからの熱っぽい期待と欲望のこもった視線は耐えず俺に注がれていた。


俺はその感覚に背筋に怖気が走り、今からでも相楽たちを振り払って逃げたい衝動に駆られる。

だが、そんなことができるはずもなくそのまま俺は実習室に向かうことしかできない。

そして、相楽達から注がれる視線は実習室に近づくにつれて益々熱っぽいものとなってくる。

俺は一瞬、実習室の前で立ち止まるが、相楽たちからの視線に耐えきれず逃げるかのようにその扉を開けて、


「なっ、」


ーーー言葉を失った。


「ああ、そういえば君は他の魔術師を見たことが無いのか」


その俺の様子を見て、相楽はどう勘違いしたのか俺の肩を満面の笑みで叩いた。


「ようこそ、東。魔術師の学院に」








ーバカな!


俺はそう叫びたくなる。

だが、そんな言葉など放てるわけがなかった。


ーーー何故なら、目の前に証拠を突きつけているのだから。


実習室にいるクラスメイト達は明らかに現代の科学では証明できない神秘を発動していた。


「神よ、我に炎を」


そしてまた1人、向かい合った男女のペアの少女の方が呪文のようなものを唱え、炎を呼び出す。

その瞬間、俺ははっきりと


ーーー何か途轍もなく大きなものが少女に炎を呼び出したのをみた。


「あ、あぁ、」


その瞬間、少女はその感覚に快感を覚えているかのように恍惚とした表情で喘ぐ。


「神に祈る、風を」


そして向かいにたった少年も同じだった。

彼の側にある少女のとは別の大きな何か、は風を呼び出し、そしてその感覚に快感を感じているかのように少年は顔を紅潮させる。


ーーーそれは見えている俺からすれば明らかに異質な光景だった。


だが、少年も少女も躊躇なくその大きな何か、から力を引き出して魔術を発動する。

そしてその光景に俺はあることを悟る。

それはあの狂信的とも言える宗教の講義の理由。


「あの何かに、力を差し出すことを躊躇させない為か……」


それはとても合理的で、


ーーーとても吐き気が催される物だった。


「ここはあそこと同じか……」


そして呟かれた俺の言葉は誰の耳に入ることもなかった。

だがその言葉には隠しきれない嫌悪が込められていて、


ーーーそれこそが俺の本音だった。


俺は無言で身体の向きを変え、そして実習室を後にさしようとする。


「なっ!東どうしたんだ!」


その瞬間、まるで俺が引き返すことなど予想していなかったように相楽は取り乱す。


「言っただろう、俺は魔術なんか使えないって」


「っ!」


そしてその瞬間、相楽は言葉を失う。

俺はその隙をついて相楽の横を抜け、


「すまない、早退する」


それだけを告げその場を去る。

だが、俺は気づいていなかった。

その言葉に反応したのは相楽達だけではなかったことを。


ーーーそして次の瞬間、はっきりと彼らの顔に侮蔑の色が浮かんだことに。


その時の俺はただ、怒りに任せてその場を後にすることしか出来なかった……










制服に着替え、早足で廊下を歩く間で、俺はこの学院に何故俺が編入されたのか悟っていた。


「つまり、悪魔というあの生き物を殺したせいで俺は勘違いされたのか……」


俺はこの学院の教師だと名乗った佐藤さんを思い出す。

多分彼女もこの学院の教師と名乗るからには魔術師の1人なのだろう。


ーーーだが、その彼女でさえ殺すことのできなかった悪魔を一般人の俺が殺したのだ。


「確かに、勘違いするかもなぁ……」


俺はそう納得しながらも、だが怒りが収まることはなかった。

最初からおかしなことはかなりあった。

急に学校に入れることになったことだって、おかしい上にあんな多額の報奨金を貰ったのだ。

そんなこと奇跡、そんな言葉でも説明なんかできない。


ーーーだが、俺はこの手の組織には属さぬことを決めていた。


「その組織にも影響を与え兼ねない力を俺は有している、か」


俺はその祖父の言葉を思い出す。

そしてこんな組織に関わることの危険性を俺は身に染みて知っている。

それも自身の力についてだけではなく、


ーーーこんな組織のエゲツなさも。


そしてその一つが生徒たちへの洗脳だろう。

この手の組織は手段を選ばない。

何が目的なのか、俺は知らない。

だが、その目的を果たすまでは首を切り落としても絶対に止まらない。

そして俺はすぐに明日にでもこの学校を辞めるつもりだった。

なのに、


「でも、相楽とは仲良くなったよな……」


ーーー俺は迷っていた。


俺はこの手の組織を憎んでいる。

それだけの目にあって、そしてこの手の組織に関わることの恐ろしさを学んだのだ。


「くそ!」


なのに、まだ決心はつかなかった。

そしてそのことが俺をより一層苛立たせる。

だが、何度辞めようと思っても決心が出来ない。


「とりあえず、早退手続きをするか……」


そして俺はまず早退してから、全てを考えよう、そう決める。


ーーーだが、それがただの逃避でしかないことを自身が一番分かっていた。

今日の更新はこれで最後です。

ただ、夜にも更新はするつもりです。

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