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最終話 後始末

俺が悪魔を倒して不本意ながら俺は学院の脅威を取り除いた。

だが、学院が忙しくなったのはそれからだった。

アイラが無事であったことに理事長は直ぐに冷静さを取り戻したが、それ以外の教員や生徒達の騒ぎが落ち着くのには小一時間かかったのだ。

あれだけ自信満々に魔術を使っていたのに、いざとなれば全てを放り出して逃げることしかできなかったらしい。


「でも、上級悪魔が出たって言われたら……」


後日、アイラはそう何とかクラスメイト達をフォローしようとしたが、


「それにしても情けなさすぎるだろう……」


その俺の一言には苦笑することしか出来なかった。

最終的にその騒ぎは理事長の鶴の一声で治ったらしいが、流石に理事長も悪魔が死んでから自分が出ないといけない事態になるとは思っていなかったらしく、呆れかえっていた。

そして相楽についてだが、


「巫山戯るな!俺は名門相楽家なんだぞ!」


と、懲りずにそう叫びながら何処かに連れ去られていた。

ただ、その顔には怒りというよりも恐怖の方が浮かんでいたが、


「もうとっくに断絶されているのにねぇ……」


そう酷く冷めた目つきで吐き捨てた理事長が持っていた何処かの怪しげな研究所の案内書と関係があるのだろう。

そしてそのせいで途中で邪魔が入った理事長との会談はその日のうちに実現することはなかった。

さらに、悪魔の出現の後には穢れが残るとか何とかで、会談は数日延びた。

だが、そのことに俺は時間が出来たことに安堵している自分がいることに気づいていた。

頭を冷やす時間が出来たのではないかと、そう思って。


ーーーしかし、同時に俺は恐らく自分は決意を変えないだろうことも気づいていた……











「さて、時間は空いたけれどもあの時の話の続きをしましょうか」


そして数日後、俺はまた理事長室に理事長と2人きりで向き合っていた。

そこには佐藤さんさえ居ない。

つまり第三者の姿は一切ない、証人の居ない状態だった。

だが、俺はおそらく理事長はここで決めたことを違えないことを悟っていた。


ーーーそれどころか、あっさりと俺の退学を認めるだろうことも。


そして多分理事長は俺が退学をしたがっているとおもっている。

実際、前回はそう話がつきかけていたのだ。

俺はそのことを全て理解して、


「突然放送で呼ぶんじゃねぇよ……というか会談は明々後日の予定だったんじゃないのかよ……」


あえて話を逸らした。


「え?ええ。そうだけども、悪魔の穢れが発見されなかったってことで臨時休業も解けたでしょ?それに伴って私の仕事も早めに終わったのよ」


理事長はその俺の誤魔化しに気づいて、不審げな顔つきになるが、律儀にもそう答える。

そして俺はその言葉を聞いて、アイラの仕業だと悟る。

アイラが、よく分からない力で何とかしたのだと。

そこで俺の頭にふとよくわからない力とは何だろうと、疑問がよぎる。


「で、今日はどうしたの?」


「っ!」


だが、その俺の思考は理事長の声に遮られた。

その声に俺はあり得ないほど動揺して、そして意を決したように口を開く。


「………は………とく」


「何て?」


だが、その声の小ささに理事長に聞き返されることとなる。

そのことに俺はさらなる羞恥を感じながら、全力で叫んだ。


「だから、退学は辞めたくって言ったんだよ!」


そして叫んだ後、俺は理事長に絶対に聞き返されると思って顔を俯かせる。


「へぇ、」


しかし、聞こえてきたのは意味ありげな理事長の笑いだった。


「何だよ……」


俺はその笑みに一抹の薄気味悪さを覚えて、そうぶっきらぼうに吐き捨てる。

すると、理事長は心底面白そうに笑って告げた。


「君、アイラに惚れた?」


「なっ!」


俺は全く予想していなかったその言葉に動揺を隠しきれない。


「え、ええっ!」


だが、1番反応の大きかったのは外にいた何者かだった。

その何者かは大きな音を立てて、理事長室に繋がる二つの扉の内使われているのを見たことのない古い扉から転がり出てくる。


「あ、アイラ!?」


そして俺はその姿を見て思わず立ち上がる。

すると、アイラは酷く照れ臭そうに顔を俯かせてボソボソと告げる。


「いや、別に隠れていた訳じゃなくて、放送で颯斗くんが呼ばれていたから心配になってきただけで……まさかそんなことを……」


「いや違うから!この女狐の勘違いだから!」


俺はとんでもない勘違いを鵜呑みにしたアイラに弁解をし始める。


「えっ?」


「え?」


だが、俺のその弁解に何故かアイラは酷く残念そうな表情になる。

俺は全く意味が分からないその表情に思わず言葉を失うと、何故か理事長が頷き、


「うん、その反応。アイラが意識してたの?」


余りにも大きな爆弾を落とした。

その言葉に俺とアイラは何方も行動を止める。

そして少しして、急激にアイラは顔を朱に染める。


「お、おねぇちゃんのばかぁ!」


次の瞬間、アイラはすごい勢いで走り去っていった。


「お、おねぇちゃん?」


だが、俺はアイラを追いかけることさえできず、言葉を失う。


「うん、私はアリス・ハルバール。アイラ・ハルバールの姉だけど」


そして、その俺に理事長はあっさりと頷いてみせる。

その瞬間、俺はまた理事長に嵌められたのかもしれないことを悟る。

多分、アイラは理事長に従うだけの人間ではないだろう。

だが、理事長はやり手だ。

知らぬ間に利用されている可能性は高い。


「痛い!」


だが、そのことを俺は最後まで考えることはできなかった。

というのも、理事長室の直ぐそば恐らくアイラが転んだらしき音が響いてきたのだ。


「女狐が!」


俺は最終的に、それだけを吐き捨てて理事長室を後にした。








俺はまた理事長に嵌められたらしい。

だが、アイラの元に走る俺の頭に悲嘆はなかった。

確かに理事長の目的は未だわからず、酷く気味が悪い。

しかし、俺の目的は定まっていた。

俺は自分の決意を思い出す。


ーーー絶対にアイラを救うという。


それが理事長の目的と一致するのならば協力し、敵対するならば潰す。

それだけの話だ。


「絶対に、救ってみせる」


そう呟く俺の顔には最早悩みは存在しなかった。

次回エピソードで、一章が終わります。

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