表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

29.上級悪魔

~上級悪魔が構内に現れました。生徒及び職員は速やかに避難して下さい。


「なっ!」


警報が鳴り終わって直ぐ流れたその副音声に理事長は声をあげ、焦ったように窓に身を乗り出す。

理事長室は特別練、実習室、本練という風に並んでいる校舎の中の本練最上階七階にある。

そして理事長室から見える窓の外では、


「っ!」


ーーー10メートルを軽くこす異形が本練へと近づいていた。


その光景を理事長の肩越しに見た俺は思わず言葉を失う。


「私が出る!桜!」


しかし、理事長の反応は俺の比でなかった。

目の前に俺がいるというのにもかかわらず理事長は何時もの笑みを浮かべることさえなく、窓から飛び出ようとする。


「無理です」


だが、その理事長の蛮行はやけに冷静な佐藤さんにやって止められた。


「放して!」


理事長は佐藤さんの手を強引に振りほどいて窓から飛び降りようとするが、


「ーーー貴女が戦えば、貴女と私。そして東君以外死にますよ」


「っ!」


その佐藤さんの一言に大人しくなる。

そしてその光景を見ながら俺は今が大変やばい状況であることに気づいていた。

下からは生徒たちがパニックを起こしているのか、地鳴りのような騒ぎが聞こえる。

つまり、今はあの理事長が酷く取り乱し、そしてこの学院の生徒達が恐怖で我を忘れるぐらい状況なのだ。


「だが、それは魔術師達の事情だ」


確かにアイラのことは気になる。

しかし、先ほど佐藤さんが言った通り俺は多分アイラを抱えるというハンデを負ったとしてもあの異形から逃げられる。

つまり、この理事長が酷く動揺している状況は俺にとって喜ぶべきもののはずなのに、


ーーー何故か、俺の心からは不安が消えなかった。


「何だよ……」


俺は理事長たちを尻目に、全く理由が分からないボンヤリとした不安にそう言葉を漏らす。

この不安は恐らく根拠のあってのものではない。

恐らく、直感とかいうそういうものの部類で、気に留めておくべきか如何かも分からないもの。

しかし、俺の頭に喫茶店でのアイラの不安げな顔が思い出され、何故か俺はその直感を杞憂だと無視出来ない。


「とにかくアイラを救出して……」


そして俺の直感が正しかったことを俺が悟るのはその直ぐ後のことだった。


「っ!」


再度窓の外に目をやった時、偶然目に入った異形が本練から何かを抱えて出てくる姿。


ーーーその手にはアイラが握られていた。










「なんで、だよ」


異形はアイラをまるで壊れ物であるかのように、優しく手で覆っていた。

だが、明らかにその異形の手には力が入りすぎていて、アイラが苦しそうに顔を歪めているのが手に取るように分かる。

いや、もしかしたら意識がもう既にないかも知れない。


「なんで、お前らはアイラを苦しませる?」


そしてそのことを悟った瞬間、俺は激怒していた。


「っ!」


突然放たれた威圧、それは理事長の目に一瞬、理知的な光を取り戻させる。

しかし俺はそれを無視して全力で理事長室を後にし、あの異形が入り込んだ実習室を目指す。


「アイラを、私の」


そして最後に理事長が告げた言葉は俺に届くことはなかった。











「畜生!」


下の階へと階段を降りてきた俺が目にしたのはパニックに陥り右往左往して道を覆い尽くした職員と生徒たちの姿だった。

その人数はあまりにも多くて、俺でさえ廊下を通り抜けることができない。

一瞬俺は全員気絶させて行こうかと考えるが、それでは反抗されてさらに時間を買う可能性がある。

俺はそう判断して、


ーーー窓を開けた。


ここは理事長室から一回降りた6階。

それは明らかに人間が無事でいられる高さではない。

もちろん、俺だって落ちるつもりはない。

負傷するかはわからないが、明らかに落ちるよりも実習室に早く行ける方法を知っているのだから。


ーーーそして俺はここから8メートル程度離れた特別練に移るため、窓から飛び立った。


「っ!」


そして次の瞬間浮遊感が身を包む。


「なっ!」


さらには後ろで誰か何かを叫ぶのもわかる。


「ぐっ!」


しかし俺はそれらを全て後ろに置き去る。

そして俺は衝撃と共に特別練の一部屋の窓ガラスを叩き割って、中へと転がり込んだ。

こうして俺は何とか特別練に飛び移ることに成功するが、急に止まれるわけもなく慣性の法則に従って教室の床を転がり、そして机にぶち当たって停止する。


「っぅ……」


そして俺は身体のあちこちに走る痛みに顔を歪めながら顔を上げて、


「あ、東?」


「なっ!」


ーーー血だらけで机の隅に隠れるように、1人の少年と身を寄せ合っていた相楽を見つけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ