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2.厨二病

俺が席に座ってから、担任の男性教師が教室を後にし、すぐに授業が始まった。


「あ、」


俺は教科書を取り出そうとして、そしてまだ教科書が届いていないことを思い出す。


「教科書に実習用の服、その他諸々の必要なものは私達が用意するから。あ、でも一週間は届けるのに時間がかかるから、その間は無しで頑張ってね」


さらにあまりにも無責任な理事長の言葉が頭に蘇り、俺は思わず苦笑を漏らす。


「取り敢えずノートと筆箱だけで良いか」


しかし、授業について俺はあまり心配していなかった。

祖父に習った勉強が大学レベルというのは決して嘘でも、誇張でもない。

武術と同じくかなりスパルタな方法だが、俺は祖父に勉強も教えられている。


ーーー少なくとも高校レベルなど余裕で解ける程度には。


「準備万端」


そして俺はいつ教師から指名されてもいいよう、背筋を伸ばし自信満々に胸を張ってみせる。

この授業で積極的に発表して勉強ができることをクラスメイトに示し、


「あの、勉強教えてくれない?」


という感じで仲のいい友達を作る。


「完璧な計画だ」


俺がそう自身の妄想で笑っていると、


「まず前回の振り返りから」


教師が黒板に板書をし始める。

俺は周囲の様子から授業が本格的に始まったことを悟り、そしてノートを開いた。










そして俺は四時間連続で授業受け、


「分からねぇ……」


ーーー思いっきり授業から取り残されていた。


俺は教師の目に止まって当てられることのないよう、一時間目の始めの態度と一変して、必死に身体を縮込める。

俺は真っさらなノートを見つめながら、唇を噛みしめる。

そしておかしい、こんなはずではなかったと胸中でぼやく。

実際、ある一つの点さえ違っていたならば、俺は授業について行けなくなることはなかっただろう。


「何で宗教なんだよ……」


ーーーそう授業の中身がやたらと詳しく、狂信的な宗教のことでなければ。


確かに、この学校の名前は聖キリスト学院で、宗教の授業も入って来ることは予想できたが、明らかに内容が濃すぎる。

しかも、宗教の内容は決してキリスト教だけとは限らない。


イスラム教、ヒンドゥ教、ゾロアスター教。


そんな様々な種類の宗教がこの四時間、五分程度の少なすぎる休憩だけで続けられていた。

決して俺は宗教を否定したい訳ではない。

だが基本無宗教である俺に、今までの授業の内容を理解することはできるはずがない。

いや、覚える気など起こりようがないほどに授業の中身が狂信的すぎるのだ。


「はぁ、」


俺は精神的疲労を感じ、溜息を漏らす。

俺はまるでこの教室の中、たった1人で置いていかれたような

そしてその感覚は決して被害妄想などではなかった。


俺は周囲をこっそりと見回すと、俺以外のクラスメイトは全て、一心不乱、いや


ーーー狂信的に授業にのめり込んでいた。


「何なんだよこの高校……洗脳していると言っても全く違和感がない……」


俺はウンザリとそう愚痴るが、授業を抜け出すことなど出来るはずもなく、身体を縮めた状態のまま授業が終わるまで過ごすこととなった……










「お、終わった……」


それから俺はなんとか教師の目に止まることなく、授業の終わりまで無事発表することを避け切った。

無理に身体を縮こまらせていたせいで、身体の節々が痛い。


「や、やったぞ……やってやったぞ」


だか、四時間目を終えた後は食事を兼ねた長めの休憩時間であることを思い出して俺は不気味に笑う。

そして伸びをするように机にもたれかかって、


「えと、東君?」


「なっ!」


そしてその時、ちょうど誰かが俺のことを呼ぶ声が聞こえた。

まさか誰かが俺を見ていると思わず、俺は驚き、急いで背筋を伸ばす。


「あ、驚かせてごめん。一緒に食堂にどうって思って……」


そして振り向いた俺の前に立っていたのは、朝、俺にどんな魔術を使うのかとそう尋ねてきたあの少年だった。










相楽宗馬と名乗ったその少年の誘いを、友達に飢えていた俺は迷うことなく了承した。


「う、美味い……」


「あはは、そうだよね」


それから、現在俺たちは食堂で食事をとっていた。

食堂とは学院の地下にある場所で、安く美味しいらしく、この学院の学生の殆どが利用するらしい。

もちろん、今も俺たちの他にも生徒はいるのだが、


ーーー何故か、やけに俺たちは注目を集めていた。


「ん?」


俺はいたって普通に食べているだけなので何故こんな視線が俺に向けられるのかわからず、ただただ戸惑う。


「あ、これもオススメだよ」


だが、相楽は全くその注目に物怖じすることはなかった。

俺は周りの視線など全く気にせず、オススメの食品を紹介するその相楽の様子を見つめて、


「そういえば相楽って、結構教室でも他の人に結構一目置かれていたよな……」


「ん、如何した?」


「いや、相良って結構有名なんだと気づいてさ」


相楽が注目されているのだと決めつけた。

実際相楽はかなりの美形で、もしかしたらファンクラブでもできているのかもしれない。

そしてそんな有名人が転校生と一緒にいたら、気になるのが普通だろう。


「ああ、この注目か。いや、多分君が原因なんだけどね」


「え?」


だが相楽はやんわりと俺の推測を否定した。

意味がわからず戸惑う俺に、相楽は説明する。


「あの理事長が連れてきた転校生。それが有名にならないわけないだろう」


「ん?」


「いや、誤魔化しても意味はないよ」


別に普通に何を言っているのか分からなかっただけなのだが、相楽は何故か勘違いしているのか、熱っぽい顔付きで言葉を重ねる。


「朝の時も、そして今もなぜ誤魔化すのか分からないが、僕だけに教えてくれないかい?


ーーーどんな魔術を使うのかを」


「なっ!」


そしてその瞬間、俺は全てを悟った。










俺は転校してきたから、何故か厨二病と勘違いされてきた。

てっきり俺は自分がそんな雰囲気を醸し出しているかと思っていたが、違ったのだ。


ーーーそう、実際は理事長こそがヤバめの厨二病だったのだ。


あんなナイスバディの外国人だったのに、実は残念な人だったのか、と俺は一瞬衝撃を受けたが、今はそれどころではない。

何故なら、その理事長に連れられ、転入した俺もそのとばっちりを受け厨二病だと勘違いされているのだから。


「いや、俺は別に俺は全く右腕も目も疼かないから!」


「ん?」


そしてその事実に気づいた瞬間、俺は大声で叫んでいた。

さらに出来るだけ他の人にも聞こえるようにと、大きく息を吸い込んであることを否定した。


「ーーー俺は魔術なんか使えないから!」


「っ!」


その瞬間、目の前の相楽だけでなく食堂全体に衝撃が走った。


「はぁ、はぁ、」


だが、興奮した俺はそのことに気づかない。


「まぁ、言いたくないなら別にいいよ。


ーーーどうせ次は実習なんだから」


「え、どうしたんだ相楽?」


そして、食堂を後にする相楽を訝しげに見つめる俺が、実習と呼ばれる授業の内容を分かっているはずなどなかった……

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