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28.警報

「失礼します」


「あら、遅かったわね」


俺がそう扉を開けると、そこには理事長と佐藤さんが机に手を置いて座っていた。

そして俺はその理事長の表情に違和感を覚える。

佐藤さんが側にいるということは恐らく理事長は彼女から俺が自主退学を望んでいることを聞いているはずだ。

なのに理事長の顔には全く焦燥を始めとした感情が全く浮かんでいない。

その顔に浮かぶのはいつもと全く変わらない自信に満ちた妖艶な笑みだけ。


「もしかしてからも想定済みか……」


そしてその理事長の態度に、俺は自分がどう動こうとも理事長の手のひらの中でしかないような錯覚に陥る。


「年をとると細かくなるんですね」


だが俺はその思いを隠し、その一言共に椅子に腰掛ける。

理事長が本当に俺の退学を止める手段を持っているのか、それとも余裕を装っているのかは分からない。


「理事長、貴女は俺に嘘をつきましたよね?」


ーーーだが、絶対に思い通りにはならない。


そしてその一言に空気が変わった。













「騙したって何を?」


俺の言葉に理事長は本当に何を言っているのかわからないような表情をしてそう告げる。


「佐藤さんから、この学院での退学には手続きはいらないと聞きましたが?」


「ああ、手続きに関しては私個人の事情だから」


そして、そのまま表情を変えることなくのうのうとそう告げてみせる。


「女狐が……」


俺はその白々しい理事長の態度にそう漏らすが、


「ですが、その個人の事情を俺が聞く必要はない」


「いえ、私は理事長よ。私の判断にはこの学院にいる限り従ってもらいたいのだけど」


理事長の態度にこれ以上問い詰めようとした所でのらりくらりとかわされると判断する。


「そう、ですか……確かに理事長はお忙しい方ですものね……」


「え、ええ?」


だから俺は、突然態度を変えた俺を不審げに見る理事長に笑いかけて、


「でしたら、お手伝いさせて頂きましょう」


ーーー切り札であるボイスレコーダーを取り出し、机の上に置いた。


「っ!」


俺の突然の行動に理事長に動揺が走る。

だが俺は止まらず、ボイスレコーダーのスイッチを入れる。


「私、アイラ・ハルバールは祖父に無能である東颯斗について祖父に相談します」


「なっ!」


そして、その瞬間理事長の顔から血の気が引く。

だが、俺は理事長のその態度など全く気付いていないふりをして笑いかける。


「ほら、特異な俺が理事長の負担になるなら心苦しいと思って、


ーーー全て包み隠さず理事長よりも位の高い人間に、相談してみることにしました」













理事長が俺を、そしてアイラという天才を自陣に組み入れようとしている。

だが理事長は決して俺やアイラなどの手札が必要ほど弱くはない。

そもそも理事長自身が決して弱くはないのだ。

と言うか、理事長1人でも充分切り札となり得る存在だ。

そしてそれ以外にも理事長は、自分に盲目的な魔術師の学院という手も持っている。

そしてその上に俺たちを加えると明らかに過分過ぎる戦力になっている。


ーーー理事長より上の人間と戦おうとしているので無ければ。


まず理事長は自身の学院を持ち、それだけで魔術組織の中でかなりの地位にいることを示している。

だが、俺の予想では理事長はさらに上の人間に戦闘を仕掛けようとしている。

それは酷く危うい賭けだった。

例え俺やアイラ、理事長が元々持っていた戦略を合わせてさえ、少しでも悟られれば失敗する。


ーーーそして彼女よりも位の高い人間、つまり敵に俺という鬼札を手にしていることを知られるのは最も致命的なことだ。


さらにこの手の組織での下克上に失敗したものの末路は死、なんていうものではない。

実験台へとなり、研究室に送られる。

おそらく理事長程の美貌と実力があれば、それはそれはいい実験台として喜ばれるだろう。


「……何が望みなの?」


そしてそれを知っているのだろう。

理事長は俺が今まで見たことがないほど苦々しい表情で唇を噛み締めていた。


「何がでしょう?」


俺はその理事長の様子に笑う。

理事長の何が望みかという言葉、それは俺の望みを叶えるからここに残ってくれという言外の単願だった。

そして俺はそれを分かった上で、


「俺は退学さえさせてくれれば良いんですよ?」


ーーー満面の笑みを浮かべてそう答えた。


「っ!」


理事長は俺のその態度に顔を怒りで朱に染める。

その表情は俺が初めて見た表情で、俺は今までの鬱憤が晴れていくのが分かる。


「……アイラは如何するの?」


ーーーだが次の理事長の一言に俺は言葉を今まで胸あった余裕が消えていくのが分かる。


「がっ!」


「なっ!」

突然の俺の殺気に理事長が呻き声を漏らす。

そして今まで無反応だった佐藤さんもそう声を上げる。

しかし、俺はそれを無視して理事長の髪を掴む。


「アイラに手を出すな。殺すぞ」


そして理事長の耳にそう囁いた。


「手を離しなさい!」


俺の殺気を受けていない佐藤さんが俺にそう叫ぶ。

だが俺はそれも無視してさらに理事長に囁く。


「お前が魔術組織に助けを求めようと、アイラに手を出せば必ず殺す。逃げられると思うな」


「はなれ、なさい!」


そして最終的に俺は佐藤さんに引き剥がされる。

だが理事長に恐怖は与えられたと、そう確信して顔を上げて、


「えぇ、分かったわ。貴方の退学を認めましょう」


「なっ!」


ーーーそうあっさりと俺の要望を認めた理事長を見上げた。


そして俺の胸に疑念が湧き上がる。

長く艶やかな髪が顔にかかっており理事長の表情は分からない。

だが、明らかに理事長の声から全く恐怖を感じない。


「なぜ、」


俺は理事長を問い詰めようとして、


「っ!」


ーーー大音量の警報が学校に響き渡った。


「な、何が!」


俺はその警報にそう漏らす。

そして、理事長の方へと振り向いて、


「悪魔が現れた……」


「っ!」


そして俺は言葉を失う。


理事長の顔は蒼白で、俺がボイスレコーダーを渡した時など比にならないほど動揺していた……

昨日は突然休載してしまって申し訳ありません……

やはり春先は体調を崩しやすいので皆さんもどうぞお気をつけて……

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