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26.召喚

※今回は相良目線です。

「畜生!」


その僕の叫びは狭く暗いこの部屋の中で響く。

僕はアイラ・ハルバールに頬を叩かれたことを思い出し、苛立ち紛れにそう吐き捨てた。

それは決してあり得てはならないことだった。

いや、あいつさえ居なければ彼女は僕へと心を許していたはずだろう。

そこで僕は僕のアイラを卑怯な手段で虜にした東という無能を思い出す。

東に対する僕の評価は最初決して悪くないものだった。

当たり前だろう。

何せあの理事長の直々に才能を見出され転校してきた、そう僕たちは聞かされていたのだから。

だから僕は東が無能であることを知った時、東は理事長が僕たちエリートクラスの為に手配したストレスをぶつける為の人間だと悟った。


ーーーなのにこの頃その当たり前のことが狂ってきている。


「くそ!くそ!」


ー 東くんに手を出した者はこの学院を退学とします。


僕の頭に昨日理事長から告げられた言葉が蘇る。

それは決してあり得ないこと、いや、あってはいけないことだった。


「何故、理事長が僕たちエリートなのではなくあの無能の肩を持つんだ!」


そしてさらにこの頃俺に明らかにキツくあたるようになった教師のことも思い出す。

相良家と比べて酷く無名な家のはずなのに、急に口答えをし始めた教師。

理事長に、アイラ、そして東その全てを僕は許すことが出来なかった。


「だから、間違いはこの相良家の次期当主が責任を持って正してみせる」


そう僕は声をあげて笑った。










「さ、相楽君見つかるよ!」


僕が声をあげて笑っていると、協力者の男子生徒のうち1人桑田圭祐が、まるで僕の愉快な気持ちに水を差すようそう小声で何かを呟いた。


「文句でもあるのかい?」


「い、いやそういう訳ではないけど……」


だが僕がそう聞けば直ぐに黙り込む。

僕はその桑田の臆病さを鼻で笑ってみせる。

しかし、静かにことを進めなくてはならないのは本当に重要なことだった。


ーーー何故なら、僕たちが行おうとしているのはこの学院を退学になるどころではない魔術なのだから。


それは魔術組織の中でもほんの一握りのものしか使えない魔術。

魔術の仕組みとは世界の力から、自分の中にある魔力を受け渡すことで事象を起こす技術で、俺が今から行おうとしている魔術は最も高位と言われるもの。

その世界の力に器を与え、魔術の発動、そしてその力さえも戦力にする守護魔術と呼ばれる魔術。

相楽家の長男である僕でも未だその魔術を使える人間は理事長しか知らない。


ーーーそしてその魔術は失敗すると悪魔を呼び出す可能性さえ有り得た。


だからその魔術は適正でないと判断されないと扱うことができない。

ましてや学生が行うなど許可が降りるはずもない。


「だが、俺なら出来る……」


しかし僕には自信があった。

床の大きな魔法陣の中に敷かれた様々な触媒へと僕は目を下ろす。

それは一般的な家庭とは比にならない収入を得ることができる魔術師でさえ一つでも買えば財産が無くなるほど高価なもの。

そしてさらにこの日の為に僕が蓄えていた知識に、


ーーー何よりこの僕の才能。


「絶対に俺は成功出来る」


僕は自信を持ってそう断言をする。


「確かに相楽くんはすごい。だ、だけど上位の守護霊を召喚するのは……」


だが、その時酷く震える声でまた桑田が僕へと意見する。


「これだけ触媒があれば失敗しない」


そしてその様子に俺はまたかと溜息をつきながらそう告げた。

桑田は立場の弱い人間には徹底的に威張るが、根は酷く臆病な情けない人間だった。

その臆病さに流石に嫌気がさして僕はわざと冷たく吐き捨てる。


「君は本当に僕を感じているのかい?」


「っ!嫌だな!疑うなんてそんなこと……」


「だったら黙っとけ」


そしてその時、今まで黙って作業をしていた僕のお供の男子生徒のもう1人、沢田浩太がそう吐き捨てた。


「なっ!そんな言い方……」


沢田の一言に桑田が激情しかけるが、


「いや、その通りだよ」


「っ!」


僕の一言で桑田は納得はいかなそうだったが口を閉じる。


「だから言っているだろう?僕たちに必要なのはあの理事長をも黙らせる力なんだよ。その為には必要でも理事長と同じ上級の守護霊が必要なんだ」


「で、ですが……」


しかしそれでも桑田の恐怖は消えない。


「だから大丈夫だって。見てくれよこの触媒の山。これだけの質でこれだけの量があれば……」


僕はその煮えきらない態度に苛立ちが溜まるが、敢えて自信ありげに断言してみせる。


「っ!」


ーーーだがその僕の言葉は魔法陣の中にいる赤い目のネズミを見て止まった。


そして桑田と沢田もその異様にギラギラと光る赤い目をしたネズミを見て動きを止める。

そのネズミは明らかに異常だった。

僕はまるで悪魔と相対しているかのような錯覚に陥る。

そのまま僕たちがネズミと目を合わせていたのがどれだけだっただろうか。

ネズミは一目散に僕らの目の前から走り去っていた。


「な、何なんだ?」


そしてそれからやっと僕は口を開く。

ネズミと見つめあっていた時間はまるで夢のように曖昧で、本当にあったことか分からなくなってくる。


「あ、」


と、そこで僕はまだ魔術が完成していないことを思い出し、作業に取り掛かる。

そしてその時僕らは全く気づいていなかった。


この明らかにネズミなど居なそうな学院にネズミがいたということの意味と、


ーーー魔法陣の一部が消えていることに……

更新についてですが、ここから1章が終わるまでは毎日更新を続けたいと思っています。

ただ、2章からはプロットの組み立てなどが必要なので不定期更新になる予定です。

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