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22.大嘘

「いやぁぁぁぁああ!」


まるで人形のように俺の身体は壁にあたって落ち、相楽の魔術が当たった場所から血が流れ出す。

そして、その俺の無残な姿に誰かが悲鳴をあげた瞬間、実習室の中はパニックに陥る。

洗脳を受け、明らかに一般人とは違う感性を持っているクラスメイト達も流石に血を見るのは衝撃が強かったらしい。


「だ、大丈夫か!」


そしてその騒然とした実習室の中で最も動揺しているのは監督している教師だった。

この実習室で問題が起きればそれはその実習の監督官の教師の責任になる。

そして急いで教師は俺の身体を起こそうとするが、


「っぅ、」


「あ、東!?」


俺は教師の手を借りることなく自力で立ち上がる。

脇腹からは血が流れ出て、そして衝撃で吹き飛ばされ壁に当たった身体は痛い。


ーーーしかし、俺は自身の傷が見た目よりましであることを分かっている。


放たれた当初は火の球だった相楽の魔術も、実習服の結界に当たった瞬間消えた。

そしてそのお陰で俺の身体には結界では相殺しきれなかった純粋な魔術による切り傷以外に火傷などの傷もない。

さらにはその切り傷はある程度深いが、内臓には達していない。

そうなるよう、俺は動いたのだから。

だが、そんなことは周りの人間はわからない。

特に教師は動揺を隠しきれない様子で、俺へと近寄ってくる。

俺はその教師の焦り確認して、


「あっ、」


「えっ、」


そしてまるでフラついたかのように教師を押し倒した。

教師は何とか体勢を整えようと、必死に身体を動かす。

だが俺はわざと教師が態勢を整えることのできないように、足で動きを遮る。


「ぐっ、」


次の瞬間、教師はまるで俺にのしかかられるように床で背中を強打する。

そして教師の顔は痛みで歪む。


「理事長はこの学院の教師を減らすつもりです。私はその選択を理事長に直々に任されています」


「はっ、」


ーーーだが俺が耳元でそう囁いた瞬間、教師の顔は驚愕に染まる。


「えっ、いや、どういう……」


「分かりますよね」


教師は俺の突然の一言に唖然とした表情になる。

だが、俺はただ一言呟いただけで直ぐに身体を起こした。


「先生、すいません……」


そしてまるで何事も無かったかのように、申し訳なさそうな表情を作り教師に手を差し伸べる。

一瞬、俺の差し出した手を見て教師の動きが止まる。


「っ!い、いや、大丈夫自分で立てるから!」


だが次の瞬間、教師は蒼白になった顔で飛び起きた。

俺はその反応を見て悟る。


ーーー教師が上手く俺に騙されてくれたという、そのことを。









魔術を使えない俺がこの学院にいる訳は俺の実力を悟られ、そして理事長に弱みを握られているからだ。

だが、そんなことを理事長以外誰も知らない。

おそらく佐藤さんですら、全ては知らないだろう。


ーーーだから俺はまるで自分が理事長の手先であり、よってこの学院にいるかのように喋った。


理事長が職員の数を減らそうとしているのも、そして俺がその決定権を有しているということも、嘘。根もフタもない大嘘だ。


「東を誰か保健室に!」


だが、今までとは打って変わった様子で俺に好意的になった教師を見て俺は教師が騙されたことを悟る。

そして俺の嘘に焦っていながら、それでも確かに顔に浮いている笑みを見て、


ーーー俺が理事長の手先であるということを周りの教師に言うことがなければ、教師の数を減らすだけである限り自分が教師を辞めなければならなくなることはない。


そう教師が思い込んでいることも。

俺は教師の態度の急変に、何も言えなくなっている相楽を見て唇に微かな笑みを浮かべる。

これである程度実習の時間相楽の暴走を勝手に教師が抑えてくれるだろう。


「先生、1人で大丈夫です……」


俺はそれだけ確認して満足すると、そう言い残して教師が口を開く前に実習室を後にする。


ーーーいつの間にか、決して浅くはなかったはずの俺の脇腹の傷の血は固まっていた……









「取り敢えず、今日は早退するか……」


実習室を後にしてから、俺は人がいる可能性を考えて怪我を庇うように歩く。

だが、頭の中にあるのは今後のことだけだった。

明らかに見逃せないレベルでエスカレートした相楽のいじめ。

いや、報復と言うべきか。

取り敢えずアイラがある限り相楽がちょっかいを出してくることはないだろうし、実習の時はあの教師がなんとかしてくれるだろう。


「だが、それだけであの感情的になった相楽が止まるとは思えないよなぁ……」


そもそも、確かにあの教師を俺はなんとか取り込んだが、あれはあまりにも強引すぎる方法だった。

いつ教師が俺の嘘に気づくかもわからない上、教師が相楽を完璧に押し込めるかどうか、それもわからない。

自分の首がかかっていると思っている限り、教師は俺を必死に守ろうとするだろうが、嘘に気づけば逆に俺をいじめる1人となる可能性も高い。

そして俺は嫌々ながら、あることを決意する。


「とりあえず、女狐に早く相談しないと……」


それはつまり理事長に頼むこと。

正直、あの腹黒を頼るのは嫌なのだが、この際そんな意地など気にしてはいられない。


「東くん?誰のことを言ってるの?」


そして、まるでその俺の思考を遮るように女性の声が響く。


「やっぱり出てきた……」


その声の主は俺の前から歩いてくる俺の会おうとしていた女性、理事長だった。

更新遅くなり申し訳ありません……

少し体調が戻ってきたので、更新の間が空いたとしても1日程度だと思います。

そして初レビュー頂きました!

本当にありがとうございます!

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