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21.停滞

「実習に参加していない……」


俺は相楽の言葉を呆然と繰り返す。


「はっ、無能が!俺が前に言っていたことも覚えていないかよ!」


心底見下すような視線をこちらにやる相楽に、俺はお前の言ったことなんか覚えようとしねぇよ……、と言い返しそうになる。

しかし、俺は非常に遺憾だが、その時の相楽の言葉を覚えていた。


ーーーだが、それでも信じられなかった。


あの時の相楽の口ぶりは確かに常にアイラが実習に出ていないと取れる。

そしてアイラが明らかに女子更衣室でない場所に向かっていたのも、実習に出ないからだと今では分かる。

さらに、俺が相楽に罵られた時にあれだけ怒りながらも、俺を実習の時明らかに過剰にいたぶる相楽を止めることはなかった。


「だが、他ならぬこの実習をさぼれるのか!」


この学院での実習に関しての力の入れ方は明らかに異常だった。

まずこの実習服に、そして一年の成績のほぼ9割が実習と実習テストで決まるという制度。

なのに、それをアイラは受けないという。

それは明らかに異常で、


「さぁ、どうするよ?」


「っ!」


ーーー全く俺は予想していなかった。


実習の時アイラを見かけなかったのは俺が逃げ回るのに必死だったから、それだけで済まさずに探しておくべきだったと、俺はそう後悔する。

しかし、その後悔はもう後の祭りでしか無い。

俺は誰か助けてもらえる人物はいないかと、必死に周りを見渡す。

しかし、今日の監督の教師は酷く身分低く、相楽には到底抗えそうに無い気の弱い教師だけしかいない。


「おい相楽、お前今俺に手を出すとアイラの評判はさらに落ちるぞ?」


「なっ!」


俺は自分を助けてくれる人間はいないと判断して、直ぐになんとか自力で相楽を説得しようと試みる。

そして俺の言葉に相楽の顔色は変わる。


「何で、お前ばかり!」


「っ!」


ーーーだが直ぐにその決断が失敗だったことを悟った。


酷く感情的になった相楽。

その理由は酷く身勝手で、普段ならば鼻で笑っておしまいにするその程度のもの。

だが、相楽の手に集まる明らかに尋常で無い気配を感じて俺は唇を痙攣させる。


ーーーあれは明らかに結界では受け止められない。


そのことを俺は一瞬で悟らされる。


「だから待て!今撃てばアイラに……」


俺はそれでも何とか相楽を止めようとするが、


「簡単なことだ。無能お前が黙っておけば良い」


それは今の感情的になった相楽相手には、全くの逆効果でしかなかった……


「畜生!」


俺は何とか、この場から逃げようと相楽の脇を潜ろうとする。


ーーーそしてその瞬間、相楽が腕を振り下ろした。










ー あ、もう避けられない。


俺は相楽が腕を振り下ろすのを酷く時間の流れが遅い世界で見つめていた。

相楽の手に集まった力は放たれた瞬間、この全てが遅い世界の中でも関係なく凄まじい速度で周りを侵食するだろう。

そしてそれを俺は避けることはできない。

相楽の腕が振り下ろされるまでにその攻撃の範囲外へと移動することは俺であっても不可能だろう。


ーーーそして、後俺が相楽の攻撃を避けられる手段は相楽の腕を折る一つしか存在しなかった。


しかし、そのことをすればおそらく相楽は魔術師として使い物にならなくなるだろう。

多分、相楽の腕を切り下ろせばその瞬間、相楽の腕に溜まっている力は暴発する。

そしてその暴発は相楽の身体を酷く傷つけ、多分相楽のような人間はもう二度と魔術を使えなくなるだろう。

勿論、俺は決して相楽を助けたいわけでは無い。

どちらかと言うと、このまま殺したいとさえ思っている。

ここで相楽が魔術を使えなくなったとしても、それは自業自得の他の何者でもない。


ーーーしかし、相楽ほどの魔術師を使い物にならなくすれば俺は魔術組織と敵対する可能性がある。


そして、その可能性に思い当たった俺は一瞬迷う。


ー 腕が、先刻より下がっている!


だが、俺はゆっくりとだが解放されつつある魔術に迷っている場合でないことに気づく。

確かに、今俺は思考を加速していることである程度考えるのに余力はある。


ーーーしかし、本当にある程度でしか無い。


確かに魔術組織には手強い。

だが、相楽をここで使い物にならなくしたところで相楽の自業自得であるのは確かである上に、気は進まないが、俺の実力とあの組織を引っ張り出せば引く可能性が高い。

そしてあの組織を引っ張り出せばもし魔術組織が、俺との戦闘を決断したとしても返り討ちは確実だろう。

俺はそう判断して体の向きを変え、相楽の腕を切り落とす為に走り出そうとする。

その時にはもう相楽の腕はかなり下にあって、かなりギリギリであることを俺は悟る。


ー あれ、でも俺が魔術組織と敵対することになったらアイラとも戦わないといけないのか?


ーーーだがその瞬間、俺の心に一つの疑問が湧いた。


ふと頭に湧き上がった考え。

その迷いは俺の動きを一瞬停滞させた。

その停滞はほんの少し、一瞬のもの。


「っ!」


ーーーだが、その迷いで俺の中から相楽の腕を切り落とす選択肢さえ消えた。


次の瞬間、俺の身体は相楽の魔術によって生み出された炎の球によって吹き飛ばされた。

今日日刊ローファンタジー2位に、総合日刊ランキング23位にランクインしていました……本当にありがとうございます!

鬱な展開が続く場面ですが、ここまで読んで頂いて日々小躍りしています!(筋肉痛になりました……)これからも頑張って行く所存なので、今後ともよろしくお願いします!

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