19.後悔
「本当、何様のつもりなんだろ!」
相楽が去った後もそうプリプリと怒るハルバールは何処かいつもの様子もは違っていた。
けしておかしいというわけでない。
どちらかと言えば今の状態の方が自然体な気さえもしてくる。
そのことに俺は首を傾ける。
しかしその疑問は直ぐに俺の頭から消える。
ーーーハルバールが心配してくれている、そのことに対する喜びが直ぐに頭を支配してしまう所為で。
俺は自然と唇が笑みの形を取るのが分かる。
「何で笑ってるの?」
そしてその俺の笑みに気づいたハルバールは本当に心配そうに俺に声をかけてくる。
「そのぅ、もしかして頭とか打ったり……」
「いや、それは酷く無い……」
確かにここで笑っているは不自然と思ってしまうかもしれないが、それでもいきなりその一言は酷すぎる。
「ご、ごめん。つい……」
「ついってなんだよ……」
俺はハルバールの言い訳のようで、言い訳になっていない言葉に呆れる。
しかし、直ぐにまたハルバールに笑いかける。
「いや、助けてくれてありがとう。嬉しかった。それだけだよ」
「なっ!」
その言葉は俺の心からの思いだったが、何故かハルバールは俯いてしまう。
「ふ、不意打ちは卑怯でしょ……」
「ん?不意打ち?」
「い、いや、大丈夫だから!なんでもないから!」
「そ、そうか……」
顔を赤くしてどこか挙動不審なハルバールに俺は疑問を抱きつつも、本人が大丈夫だというのだから、と取り敢えず頷く。
「本当にお礼なんか要らないから!あのさかいて奴が本当に嫌な奴だって思っただけだから!」
「………」
少し、ほんの少しだが相楽に俺は同情する。
まさか、意中の人に名前すら覚えていてもらっていないとは……
「だって本当に彼奴は私認められない。無駄に自尊心が高くて、でもその癖自分に甘くて、多分逆恨みして自分の非を認められない人間だと思う」
ハルバールは俺のどこかしんみりした様子に気づかずそこまでまくし立てだが、そこでハッと何かに気づいたように言葉を区切る。
「もしかして、さかいが今日のことで私を恨むかも!仕返しとかされないかな……」
それは確かに有り得ることだった。
相楽のような自尊心の高い人間はその自尊心を否定されることを最も嫌う。
そしてハルバールはその相楽の自尊心をそれはもう完膚なきまでに否定したのだ。
「いや、それは無いな」
「え?」
常ならば逆恨みされていておかしくは無いだろう。
しかし今回は違う。
ハルバールの側に俺がいたのだ。
俺は最後に俺に相楽が向けてきた視線を思い出す。
何処か嫉妬のこもった、憎悪の視線。
「ーーー多分、あいつが逆恨みしているのは俺だろう」
その感覚を俺は思い出しながら、確信を持ってそう断言をする。
「あっ、」
ーーーそして、その俺の言葉を聞いてハルバールが見せた顔に俺は自分が喋りすぎたことを悟った。
ハルバールが俺を逆恨みしている、それは俺が相楽から今までのいじめなど比にならない報復に合う可能性を示していた。
ーーーそしてそれを聡明なハルバールが気づかない訳がなかったのだ。
「ごめん……」
俺は先刻とは打って変わって暗い表情で謝るハルバールを見てそう後悔する。
正直、相楽の報復が酷くなることは分かっていた。
そして決してそんなもの怖く無い、なんて勇ましくいうことなど俺などには出来ない。
しかし、だからと言って俺はハルバールに責任を負ってほしい訳では無い。
「ちょっと考えれば、分かることだったのに……」
「待ってくれ、別にお前のせいなんかじゃ……」
「ううん、私の所為だ」
俺はハルバールにそう伝えようとするが、彼女に俺の言葉が届くことはなかった。
ハルバールは俺の言葉を拒絶するかのように、自分を責める。
「本当は私は東くんと一緒にいて良い人間なんかじゃ無い。
ーーーだって私は東くんのいじめを最初見捨ててたんだよ!」
「っ!」
そう告げた時のハルバールは恐怖に震えていた。
まるで俺に嫌われていることを恐れているかのように。
そして俺はそのハルバールの姿を見て悟る。
相楽が来る直前、ハルバールが言おうとしていたことはこのことだったことを。
「あの時、東くんは本当に悔しそうにしてた。なのに私は何も言うことが出来なかった。挙げ句の果てには東くんの後をついて行くだけ」
そう語り、ハルバールは唇を噛みしめる。
「本当にごめんな……」
そしてハルバールは目を閉じて、謝罪する。
俺はその本当に心の底からのハルバールの謝罪を聞いて、
「ぷっ!あははは!」
「えっ、?」
ーーー吹き出した。
「どうして?」
ハルバールは何が起こったのか分からない、そんな顔を上げて俺を見つめる。
しかし、その顔を見てさらに俺は笑ってしまう。
「はぁ、はぁ、なんで謝るんだよ、お前俺を助けてくれたじゃねえか!」
そして俺は1分程度腹を抱えて笑い、それから肩で息をしながらハルバールに告げた。
「でも……」
ハルバールはそれでも責任を感じているかのように俯く。
しかし、俺はハルバールが何かを言う前に言葉を重ねる。
「確かに、相楽はこれから俺に報復してくるかもしれない。だけどもうクラスメイトは俺をいじめないだろう?
ーーーお前のお陰で」
「っ!」
そう心の底から告げた俺の笑みにハルバールは一瞬、言葉を失う。
「でも私は見捨てた……」
だが、それでも納得できないとでもいうようにそう告げる。
「そうかもしれない、だけど次から相楽に俺がいじめられても助けてくれるんだろう?」
「それは、もちろん!」
「だったら帳消しだろう?俺が言うんだ。間違いない」
「ぷ、あはは!」
しかし、最終的に俺の暴論に吹き出した。
「うん、分かった私は絶対に貴方を守る」
そして次に顔を上げた時、彼女に暗さはなかった。
俺はそれを確認して、そして最後に笑って付け足す。
「ああ、頼む。それと最後に。
ーーースカッとした」
「あははは!」
俺の一言に対するハルバールの笑いは、本当に心からのものだった。
少し早めに投稿出来ました!(ギリギリ)
ま、まぁ、そんなことは置いといて……
日刊総合ランキング150位にランクインしていました!
ベスト更新です!ありがとうございます!
さらに今日もしかしたら初めて1日で一万PVを突破出来かもしれないと1人で慄いております!
本当にありがとうございます!




