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15.見覚え

カリカリと、生徒がひたすらノートに板書する音が響く。

そして俺はその酷く眠気を呼ぶ音をぼんやりと聴きながら、


「ここについては」


そう、解説し始めた教師を見つめる。

だが俺は教師をじっと見つめながらも、今この授業の内容などほとんどを聞き流していた。

俺の頭を支配するのは昨日のこと。


ーーー私は魔術師になんかなりたくなかった。


ハルバールのその一言が頭から離れない。


「何なんだよ……」


何故かあれほどウンザリしていた授業が全く気にならなくなっている、そんなことに気づかず俺は思考に集中し始めた……









昨日、あの一言の後俺とハルバールは次の日の授業の範囲はもう勉強し終わっていたこともあり、直ぐに別れた。

何処か気まずげな雰囲気を残したまま。

そしてその時から俺の頭はハルバールのことで支配されていた。

魔術師になりたくない、それは俺のような一般人にとっては普通の感情だ。

洗脳されたように狂気的なクラスメイトに、そんな生徒を褒める歪んだ教育者。


ーーーそして何処かおかしいと本能的にわかるこの組織の歪み。


それは一般人が距離を置きたいと思うには十分な理由だ。

だが、ハルバールは一般人ではない。

それもただ魔術師の才能があってこの学院に強制的に入れられたのではなく、名家の令嬢として小さな頃からこの学院に入れるように魔術の訓練をさせられてきた生粋の魔術師だ。

そして、そんな少女が魔術師に成りたくなど無かったのだと言ったのだ。

それは今はクラスメイトにチヤホヤされているハルバールがいじめられる原因になるかもしれない、それ程の意味を持った言葉で、


ーーーハルバールは魔術師としては明らかに異常だった。


何故あの少女が天才と呼ばれるのか、いや、何故天才と呼ばれる少女がそう考えるようになったのか。

それはこの魔術組織では明らかに異常なことで、それを考えている時には、ハルバールが誰の手先がなどということは俺の頭から飛んでいた。


だが、俺の頭に最も印象深く残っているのはハルバールという天才少女が異常だったことではなかった。


「何で……」


ーーーそれは魔術師にはなりたくなかった、そうハルバールこぼした時に見せた顔だった。


まるでどうしようもない理不尽に打ちのめされたような、諦めの顔。

そこには俺に勉強を教えてくれていた時までの活気など一切存在していなくて、


「何処で見たんだ」


ーーー俺は酷くその顔に見覚えがあった。


「なんでそんな顔をする」


そしてそのハルバールの顔は俺を酷く動揺させる。

なのに、どうしようもなく見覚えのあるその顔の由来はどうしても記憶の中から出てこなくて、


「東、この問題は!」


そしてまるで俺の思考を遮るかのように教師の声が響いたのはその時だった。








「東」


俺はその声で、ようやく今が授業中であったことを思い出し、机に手をついて立ち上がる。

そしてその座っている時よりも少し高くなった視界に入るのは、


ーーークラスメイトの嘲笑だった。


クスクス、とわざと声に出して笑っているものもいる。

そして目の前に立つ中年の女性教諭は俺に対する侮蔑も隠そうともしなかった。

俺に話しかけるのさえ厭わしいというように黒板を叩き、そこにに書かれた問題文に答えるように促す。

その問題はハルバールに昨日喫茶店で教えて貰っていた俺からすれば、容易く答えがわかる問題だった。

そして俺が答えた瞬間、一瞬教室が騒つく。

それは昨日俺が初めて問題を正解した時よりも大きなざわめきで俺は教科書を細切れにした奴らの顔を浮かべて一瞬、口元に笑いが浮かべる。


ーーーだが、それは一瞬のことだった。


「………正解、じゃあこれは?」


俺が問題に正解した瞬間、教師は明らかに無愛想な態度で新たな問題を書き出す。

そしてそれはかなり教科書よりも多くの範囲を教えてくれていた昨日のハルバールからも教えてもらえなかった、かなりマイナーな問題だった。

さらにその瞬間、さっきまでざわついていたクラスメイトたちの顔に嘲笑が戻る。


ー 巫山戯るな、お前らだって解けないだろう!


その瞬間、俺はそう叫びたくなる。

昨日どれだけ俺がハルバールと勉強したか、そしてそれをヘラヘラと笑いながら踏みにじるクラスメイトに怒りが湧き上がる。


「………分かりません」


ーーーしかし、俺はそう答えるだけだった。


ー どうせもう無駄だ。


俺はこのクラスメイトの態度に自分が慣れ始めているのを悟る。

それは決して俺が強くなったわけなんかじゃなくて、


ーーーただ諦めただけで、一つの物事を諦めるたびに俺の何かが削られていくのがわかる。


だがそれを感じながらも、もはや俺の心に湧いてくる感情は何もなかった。

だから俺はクラスメイトと教師の嘲笑を浴びながら無言で席に着く。


「先生」


「なっ!」


ーーーそして、ハルバールがそう手を挙げたのはちょうど俺が座る時だった。










「え、」


一瞬、教師はハルバールが手を挙げることを想定していなかったように言葉を失う。

だが次の瞬間、俺をみて口元を歪めた。


「どうぞ、ハルバールさん」


さらに俺は、教師は俺により多くの恥を掻かせるためにハルバールを指名しようとしていることを悟る。


ー 巫山戯んなよ、自分でも解けないと思っている問題を出しやがって!


俺はそう教師に唾を吐きかけたくなるが、耐える。

何故なら、俺にはそんなことよりもっと気にかかることがあったのだから。

俺は未だ手をピンとあげているハルバールの方へと視線を移す。

ハルバールが手をあげる、それは有りえないことだった。


ーーー何故なら、昨日ハルバールは一切この問題について話すことはなかったのだから。


俺はどうして手を挙げたのか、そう疑問を思ってハルバールを見つめる。


「先生、この問題私にもわからないのですが」


「は、?」


ーーーそしてその瞬間、教室の時が止まった。

何とか二十四時間で投稿出来ました……

後は投稿のスピードを速められれば……

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