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10.宣戦布告

「………」


殺気が収まってから、部屋の中は沈黙に支配され、誰1人として口を開かなかった。

佐藤さんは、俺の殺気により机にもたれかかって失神しており、俺はショックで言葉を失っている。

そして理事長も、俺の殺気を直接受けたからか青ざめた顔で微かに震えている。


ーーーだが、彼女の顔はまるで念願の何かを見つけたかのように笑っていた。


俺はその理事長の笑みに取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという恐怖を覚える。


「っ!」


そして俺は無意識のうちに足を少し後ろにずらして、突然感じた冷たい感覚に動揺する。

俺が視線を下にし確かめると、俺の校内用のスリッパを履いた足は失神している佐藤さんの椅子の下に広がる水溜りの中にあった。

さらにその足から伝わる冷たい感覚は、今までは殺気を放つ為に集中して忘れていた濡れた服の嫌な感触を思い出させる。


その瞬間、俺の胸に一気に後悔が押し寄せてきた。


それは理事長の狙いにも気づかず、嵌められてしまった自身の愚かさで、

さらには目先のことに気を取られ、全く後のことを考えられていなかった自分の軽率さ。


ーーーそしてこの手の組織の恐ろしさあれだか体験して、それでもなおまたつけ込まれている自分の愚鈍さ。


「いや、まだだ」


だがそう考えながらも俺は唇を噛み締め、理事長を睨む。

今はもう、自分の愚かさを後悔してそれだけですむ状況ではない。

何とか逃げ切るか、それとも骨の髄までしゃぶられるか、その選択の分かれ道に俺は立っているのだ。

だから俺は必死に、まだ先程の駆け引きは完璧に落としたが、それでもまだ完璧に負けたわけではないと自分を奮い立たせる。


「理事長、俺望むことは一つ、退学させてもらうことです」


「いえ、それは無理ね」


そして、絶対に落とせない交渉が始まった。











俺の一言に対する理事長の拒絶、それは短くそして断固たる拒否を感じさせるものだった。

そしてそれは明らかに魔法ではない、強力な力を彼女の前で披露した俺に対する対応としては妥当過ぎるもので、


「しかし、魔術を使えない俺をこの学院に入学させたことに関しては理事長の責任ですよね」


ーーー俺は手段を選ぶことをやめた。


それはこの学校自体を敵に回し兼ねない言葉。

だが、今の俺に残された理事長の執着を断ち切るためにはこの言葉を使わなくてはならない。

俺はそう判断する。


「ええ、確かに。


ーーーでも、得体の知れない強力な力を持つ人物を監視するのもこの魔術学院の理事長という責任ある立場についた私の義務。


私は、世間の治安のためにその義務を果たしただけよ」


「なっ!」


だが、理事長の切り返しは俺の予想など遥かに超えた物だった。


ー 治安を守る?巫山戯るな、力の為なら治安など好きなだけかき乱すくせに!


俺は必死にそう叫びそうになるのを堪える。

いま、感情的になっても仕方がない。

今は少しの失言で最悪、この異常な組織を敵に回しかねない状況なのだ。


「ですが俺はこの通り虐められています」


俺はなんとか自分の感情を抑え、そう如何にも悲しそうに顔を歪めてボロボロの制服を見せる。


「これは人間が守られていないとは思いませんか?」


その瞬間、理事長が少し目を見開くのが分かる。

当たり前だろう。

この学院に人権など存在しないも同然なのだ。

つまり、俺の言葉には何の意味もない。


「そう、だったら私が少し抑えるよう、」


一応、理事長は何か確約しようとする。


「いえ、それではあまりにも対応がのろ過ぎる。


ーーー退学させて貰えないならば、警察に相談させてもらいます」


「っ!」


だが、俺はそんな真偽も分からない言葉など聞くつもりもなかった。

そしてその俺の一言に理事長は初めて動揺を見せる。

当たり前だろう。

俺の言葉を意訳すると、


ーーー俺のいうことを聞かなければ、警察も巻き込んで騒ぎを起こす。


という脅しなのだ。

この手の組織は秘密主義だ。

俺が知らなかったように、一般人もそして警察の末端の人間も知らない。

だがもし、俺がその末端の警察とメディアまでもに干渉して騒ぎを起こせば組織には大分大打撃が与えられる。

つまり、これは俺の切り札に近い脅しだったのだが、


「いえ、警察の方々とは仲良くさせて貰っていますから」


「っ!」


その一言で俺は、


ー 魔術師の組織は完全に警察を掌握している可能性を悟る。


もちろん、それはハッタリかもしれない。


ーーーだが、それは不可能ではない。


「あぁ、そんな顔になってしまうほど不安だった?


ーーーでも昨日ならともかく、今日からはこちらにも都合があって退学はできないの」


「なっ!」


それはあまりにも白々しい言葉。

昨日までならば、いつまでならば、その一言をつけるだけで様々な理由をつけることができる。


ーーーそしてそう告げる理事長の目は、爛々と輝いていた。


俺の心は今更ながら、後悔に荒れ狂う。


「絶対にですか?」


「ええ」


そして俺は決める。

そのことを決めた瞬間、迷いが心に生まれるのが分かる。

本当に、どうしてこうなったのか。

絶対に避けたい、そう決めていたのに。


「ーーーだったら、覚悟はできていますか?」


「なっ!」


ーーーその瞬間、俺はまた殺気を放った。


突然のことに、理事長は殺気をモロに真正面から受ける。

さらに今回放った殺気は佐藤さんを介した物でなく、直接の濃密なもの。

そして理事長の顔から余裕が消える。


「て、魔術師に敵対すると」


ーーーしかし俺の一言は、魔術師との全面戦争になることを示していた。


「ですよね」


俺はその一言に、乾いた笑みを漏らす。

本当にこんな組織と戦うことになることなど絶対に避けたいことで、こんなことなど俺は望んでいない。


「本当にやめたかったんですが……」


ーーーだが、俺はそのことをもう避けようつもりはなかった。


「一つ、俺と戦って勝てる自信がありますか?」

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