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プロローグ 現実

足元には青い血の海が広がって、そしてその血を流しているのは俺が見たこともない異形だった。


ーーーだが、そんなことどうでも良かった。


「中級悪魔を素手で!」


俺はそう呆然と呟く女性を見る。

長い黒髪に、同じく黒いスーツ。

それらはキリッと整った女性の顔に似合っていて、まさにクールビューティという感じで、女性は美人だった。


「やらかした……」


「ん?」


だが、その女性の外見さえも俺の意識の中にはなかった。

俺の胸にあったのは酷い焦燥。

俺はもう一度、悪魔とそう言われていた異形に目をやる。


ーーー俺が殺した悪魔を。


そしてそれから俺はもう一度美女へと振り向く。

その驚愕に染まった顔は、美女が俺と悪魔との戦闘を見ていたことを示していて、


「ああ、俺の平和な生活が……」


ーーー俺は人に隠していたはずな武術をその女性にはっきりと見られたことを悟った……







俺、東颯斗は祖父の影響である武術を習っていた。

それは決して有名な流派ではない。

祖父曰く、


「いやぁ、適当に作っただけだからなぁ……まぁいいや。最強の武術。それが名前だから」


というふざけた事しか言わなかったが、その言葉は決して偽りなどではなかった。

実際、その武術はあまりにも強力で、


ーーーだから16歳になり就職した俺は、その武術を人に隠すことを決めた。


祖父が死去し一人暮らしとなった今、本当は高校に行きたかったのだが、残念ながらお金の事情で挫折。

そして俺は就職することとなったのだが、その際余計な騒ぎになることを嫌って俺は自身の武術を他の人に隠すことを決意した。


「きゃぁぁ!」


ーーーだが、その決意は何時もの仕事の帰り道、異形の悪魔に襲われている女性と出くわし、揺らぐこととなる。


「ああ、クソが!」


俺は最終的に半泣きになりながらも、悪魔めがけて全力で踏み出した……








そして悪魔を倒し、今に至る。


「………」


「………」


俺も女性もどちらも声を発しない気まずい空間。

そしてその空間はさらなる焦燥を俺にもたらしている。

俺は絶対に人に武術の力を向けないと誓っている。

だがそんなこと初対面の人間に伝わるわけがないのだ。


「あの気味が悪い、ですよね」


「っ!」


「でも決して俺は貴女に危害は与えない、いや、そんなこと言っても意味はないか……ただ、俺のこの力だけは他の人に黙っていてくれませんか?それだけでいいんでお願いします」


だから俺はそれだけを告げて踵を返す。

そして、急いでその場を後にしようとする。


「ま、待って!」


「へ?」


ーーーだが俺は女性に呼び止められた。


まさか俺は呼び止められるとは思わず、間抜けな声を漏らす。

だが女性は俺の反応など気にすることなく、ブツブツと何かを呟き始める。


「まさか、こんなところに魔術師が……それも訓練なしで中級悪魔を単独で倒せる程の……」


「え、え?」


俺は女性が何を言っているか分からず、言葉を失う。


「ああ、ごめん。えっと、助けてくれてありがとう」


「ええと、」


俺は未だ混乱が解けず、お礼の言葉さえ理解できず俺は混乱するが、女性はそんな俺の様子など気にすることもなく俺に笑いかけてくる。


「見た所、貴方って若そうだけど就職しているわよね?


ーーーだったら、学校とか来たくない?」


「へっ?」


そしてその瞬間、俺の人生は変わった。









教師の佐藤桜と名乗った女性に、彼女の勤める聖キリスト学院に通わないかと誘われたから、全てはトントン拍子で進んでいった。

次の日には佐藤さんの上司で学園の理事長と名乗る、金髪で巨乳の外人さんが家に訪れ、


「あの、俺お金なんて全くないんですが……」


「ああ、だったら保証金が必要ね」


「え?」


そして話し合いは最終的に、俺が学校に通うことになると、入学金や教科書代を含めても、今の収入の二倍程度になる補償金を得ることを決定して終わる。


「よしゃぁ!」


そしてそれからは正しく夢のような時間だった。

念願の高校に通えるだけではなく、生活も向上する。

それはまさに、奇跡としか言いようがない幸運。


「じいちゃん、俺高校で青春してくるよ!」


そして俺は祖父の遺影に手を合わせ、期待に胸を膨らませながら、高校への第一歩を踏み出した……










「おい、無能目障りだ」


その一言と共に拳が飛んでくる。

その拳は素人が殴りかかってきていることがはっきりと分かるほど遅くて、避けるのは容易いと、鍛錬で磨かれた俺の動態神経は告げている。


「ぐっ、」


だが俺は敢えてその拳を避けなかった。

避けたところでさらに虐めが大きくなるだけなのだとわかっているのだ。

俺は倒れたまま、俺を殴り満足げに立ち去っていく男を呆然と見つめる。


「ああ、そんな奇跡が普通起きるはずがねぇだろが……」


そして俺は一週間前の自分、高校に通えると浮かれていた過去の自分にそう愚痴る。


ーーー俺の求めていた高校生活、それは幻想でしかなかった。


俺の今送っている生活は劣等生と罵られ、蔑まれる最悪の高校生活。

だが、決して俺は勉強が出来ないわけでも運動が出来ないわけでもなかった。

クラスメイトとのコミュニケーションも、入学直後の印象からすれば悪くは無かったはずだ。

ここが、普通の学校であれば俺は理想の高校生活を送れていたかもしれない。


「魔術なんて使えるはずがないだろうが……」


ーーーだが、この学院は魔術師を育てる魔術学院だった。


未だ倒れたままの俺にクラスメイトの侮蔑の視線が突き刺さる。

こうして、俺の最悪の学園生活は過ぎて行く……


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