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白子

 

 あらすじ!

 文殊菩薩発案の作戦『神々の粉飾決算』とは、《地上の人間800万人を現人神に昇格させ、人数を水増しし、一時的に『八百万(やおよろず)の神々』を実現する》という奇策であった!

 その意を受けた日本神話と仏教の神仏たちは、現在、文殊菩薩の策を実現するため、地上に降り立ち、東奔西走で人間達のスカウトに駆け回ってるのである!


「つまりそういうわけで、俺は君をスカウトしに来たんだよ。大代弥生(おおしろやよい)君!」

 真夜中、ボロアパートの玄関先で力説するイザナギ。

 煙草ふかしながら、胡散臭そうに演説を聞いていた家主の青年――大代弥生はにっこり笑ってからミネラルウォーターのふたを開け、――イザナギの頭上にぶん投げた。

 イザナギは、慌てて腕で庇うが間に合わない。ぐっしょりと水を被ってしまった。

「み、水は、勘弁してよーー!」

「はン、『俺が神だ』なんて言い出すアホ相手には、これが一番効くんだよ。少しは目が醒めたか酔っ払いさんよ」

 弥生は、ケッと片頬を上げて、煙草の煙をぷわっと吐き出した。

「俺は酔ってないってば!」

 イザナギは露骨な酔っ払い扱いに怒って顔を赤くし、――そして、それより重大な事実に気付いて慌てだした。

「……って、んなことより俺に水なんて掛けたら、(みそぎ)扱いされて――」


 言ったそばから、髪からしたたり落ちた水がイザナギの頬をなぞり、

 ……そこからズルリと白子のような謎の生き物が生まれ、びたーんとコンクリの床に叩きつけられた。

 ……めちゃビチビチしてるー!

 その一匹が呼び水になったように、ぼたぼたと沢山の白子がイザナギの体から伝い落ちて、同じようにコンクリの上を跳ねまわった。


 ――大昔、黄泉の国から戻ったイザナギが、穢れを祓うために(みそぎ)を行い、その体から多くの神々が産まれた。

 これぞ古事記にも記述されてある、神産みである。

 禊とは、日本の主神、天照大御神をはじめ、月読命、スサノオなど数々の尊き神々が産まれた神聖な儀式。……だったはずだ。

 今となっては、六甲のおいしい水とボロイアパートで、真夜中に神産み……。

 神話というより黒歴史である……。


「……」

「……」


 凍りつく二人――。

 そして薄暗い街灯に照らされ、コンクリの上をびちびちとしているイキのいい白子(神)。

 とても、シュールです……。


 イザナギはてへっと小首を傾げた。

「い、生き物ふしぎ大発見?」

「……生き物っつーより、生物(ナマモノ)な」

 冷静な口調と裏腹に、弥生の指は煙草の灰でぶすぶすと焦げつつあった。

 だが全く気付いてないらしい。相当動揺しているようだ。


 無表情ながら相当混乱している弥生の反応に、イザナギは気まずそうにポリポリと頭を掻いて、白子(神)を一人(一匹?)つまみあげた。

「あー、正式な禊の作法踏んでないから、みんな蛭子ヒルコだ。ひのふのみの……50匹くらいかな」

 慣れてるのかビチビチ跳ねてる白子――もとい蛭子をポイポイと一ヵ所に集め、イザナギは腕に抱え上げた。

 え、どうすんだそれ……? と弥生はとうとうフィルターだけになった煙草を指に挟んだまま、呆然と凝視している。

 が、イザナギの次の行動を見て、煙草を放り投げて慌てて制止する羽目になった。

 なんとイザナギは、アパート前の側溝に蛭子を流そうとしたのだった――!

「ちょ、待てって! なんでナチュラルに下水に流そうとしてるんだよ! うちの下水道が不思議生物フシギナマモノで詰まったらどうしてくれるんだよ!」

 イザナギは、きょとんとして弥生を見上げた。

「え、ほら蛭子は葦船に乗せて海に流さないと……。古事記にもそう書かれている」

 まさかのリアル古事記だった……。アイエエエとか言ってる場合じゃない。

「外道か! そいつらも見てくれはアレだけど、アンタの子だろ! そんなあっさりと……」

 ドン引きしつつも必死で止めてる弥生に対し、イザナギは何を勘違いしたのか、ふっ……と遠い目をしつつ、キメ顔をした。

「ふっ、この子たちは外海で立派に成長して、いつか日本に帰ってくるんだよ。昔蛭子だったエビスは、そうやってうちに帰ってきたんだ…… 」

「鮭の稚魚の放流みたいなことしやがって……」

 弥生は夜空を仰いで、次々と起こるついていけない事態に嘆息した。

 元凶のイザナギといえば、側溝に溜まった水の中を元気よく泳ぎ出していく蛭子達に、ばいばーいと手を振っている。うぜえ……。


 さてと。と、イザナギは立ち上がり、頭を抱えるばかりの弥生にどや顔をして見せた。

「まぁこれで、俺が神だって信じてくれたと思うんだけど……。どう、もう一度俺の話聞いてくれる気ない?」

 ……まぁ確かに、こんなとんちんかんな生き物が人間でいていいわけがない(酷)


 弥生はこれ見よがしにため息をついて、玄関の扉を開けた。

「……はぁ。入れよ。アンタが神様で俺に頼みたいことがあるっていうんなら、俺もちょっとアンタに頼みがある。交換条件といこうじゃねぇか」

「弥生くんは、物分かりがいいなぁ。へっへへ、悪いようにはしないから安心しな」

「……アンタが日本最古の神ってこと自体、タチの悪い冗談だと思うぜ」


 弥生のこの上なく切実な独り言は、鼻歌を歌まじりにアパートに入っていくイザナギの背中に綺麗に跳ね返された。

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