帰郷
二人が宇和島を後にして、東京に戻って来た。
項志「亜輝、これからどうする。俺達は一文なしだぜ。」
亜輝「そうだな。」
項志「俺が、何とかしてやろうか。」
亜輝「やめておけ。お前は目立ち過ぎる。」
項志「なら、どうする。乞食でもするか。」
亜輝「それもいいが、俺にいい考えがある。」
項志「何をする気だ。」
亜輝「クイズ番組に出る。」
項志「バカな、目立ち過ぎるだろうが。」
亜輝「フフフ。」
項志「何がフフフだ。何を考えている。」
亜輝「覆面があるだろう。テレビ局に、覆面でクイズ番組の予選に出られる様に、手は打ってある。」
項志「いつの間に。」
亜輝「お前が島で修行している間、遊んでいたわけではない。俺達が東京に帰って来た時、まず必要なものは金だ。」
項志「それで、クイズ番組のプロデューサーと話をつけたということか。」
亜輝「そういうことだ。覆面も既に発注してある。」
項志「さすがだな。なら俺は、お手並み拝見といこうか。」
亜輝「ああ、任せておけ。」
そうして、応募が開始された。予選の日も決まった。当日、亜輝は覆面をつけて会場に入った。集まった人達は、何だ、あれはと驚いた人もいたが、大半が受け狙いのひやかしだと相手にもしなかった。しかし、審査結果が発表された時には、参加者全員が驚くのである。なんと、覆面男がトップで通過したのだ。
“ひやかしではなかったのか”人々は口々にこう言った。そして正体が誰なのか気にするのであった。
しかし、正体がわからないまま、テレビ出演が決まり、そして、テレビ収録の当日、人々は度肝を抜かれるのである。
司会者Mが覆面男を紹介した。そして尋ねた。
M「なぜ覆面なのですか。」
覆面男「ええ、この方がうけると思いましてネェ。」
M「おもしろい人ですねぇ。まあ、いいでしょう。その前にお知らせがあります。皆さん、今回のみ特例ですが、回答形式を、四者択一から問答形式、つまり、そのものズバリの答えを答えて頂きます。」
会場から、どよめきが起こった。そして続けて司会者Mから、獲得賞金について、衝撃の内容が発表された。
M「そのものズバリですから、獲得賞金も多くなります。なんと通常の三倍、全問正解なら、一千万の三倍、三千万円を受け取ることができます。」
会場のどよめきが声が歓声に変り、最後は拍手に変っていた。その拍手が収まるのを待って、司会者は、こう続けた。
M「なぜ、こうなったかというと、予選問題百問中、全問正解は前例がなく、前代未聞であり、番組の方でも特例を認めて、問答形式にしてはということになったのです。もちろん本人にも、承諾は取っています。」
これは、番組のプロデューサーが、亜輝の能力と、覆面であることを掛け合わせ、視聴率をアップさせる秘策であった。
会場からも、歓声と拍手が起こったが、ほとんどひやかしの拍手であり、誰もがバカなことを承諾したものだ、やめておけばいいものを、と思うのであった。中には、うぬぼれるのも、はなはだしいと激怒する者もいた。それもそのはずである。四択でも全問正解など、今まで数えるほどしかいないのに、問答形式で全問正解など、出来るはずがない、どうせすぐ終わると考えている人々が大半であった。
M「では、いきますよ。」
覆面男「どうぞ。」
一問、二問、三問目までは良かった。しかし、驚きを隠せなくなったのは、四問目以降である。会場の人々も、我が身を乗り出して、この状況を見守った。そして、最後の問題が出題され、会場全員が固唾をのんで、覆面男の回答に注目した。
司会者Mが、本当なら少し時間をおいて正解発表するはずが、この時ばかりは、エーといった顔で、即正解を発表してしまった。会場にいる全員、拍手をするのも忘れ、あっけにとられ、会場全体が水をうった様に静まり返った。そして司会者Mから、三千万円の小切手が手渡されたが、司会者自身もまだ信じられないというような表情で、手渡す小切手も小刻みに震えていた。覆面男は、この小切手を平然と受け取った。
覆面男「ありがとうございます。それではこれで、私は失礼致します。」
そう言って亜輝は、収録スタジオを後にした。ビルを出る途中、化粧室で覆面を取り、着替えをすまして本来の姿に戻った。
亜輝「どうせ、騒ぎ出すのはわかっている……」
そして、ロビーまで来た時、スタジオの方から騒ぎ声が聞こえ出した。
亜輝「これで、しばらくは食いつなげるか。」
そして、出口の所で項志が待っていた。
項志「どうだったなんてことは聞かないぜ。」
亜輝「ああ、小切手で三千万だ。これで生活しながらレスキューをする。」
項志「まったく大した奴だぜ、お前の頭脳があれば、会社でも作れば大儲けだな。」
亜輝「興味がない。」
項志「そう言うだろうと思った。」
亜輝「お前の方こそ、体育系の番組に出れば、荒稼ぎできるぜぇ。」
項志「次は、俺が覆面で出てやる。」
亜輝「ああ、その時は頼む。」
二人は同時に笑い出した。
項志「金は何とかなったが、これからどうする。」
亜輝「昔、おやじ達と行動を共にしてきた人物の所に行く。」
項志「まさか、あの人の所か。」
亜輝「そうだ。」
項志「生きていたのか。」
亜輝「ああ、生きている。」
項志「あのビルが爆破された時、行方不明になったと聞いていたが。」
亜輝「そう見せかけて、俺達が修行の旅から帰ってくるのを待っていたのだ。」
その人物の名は『渡瀬竜馬』、以前反戦活動のリーダー的存在だった人物である。
亜輝「住所は調べてある。」
項志「では、行ってみるとするか。」
その時だった。後ろで男の声がした。
男「お前達を、これ以上先に行かせるわけにはいかない。」
そう言って、四、五人の男達が、二人の周りを取り囲んだ。
項志「何者だ。」
亜輝「項志、こいつらは、国際テロリストの手下かもしれない。俺達が宇和島にいた頃も、チラチラと見え隠れしていたぜ。」
項志「なるほどネェ。」
男「お前達は邪魔だ、消えてもらう。」
そう言ってナイフを取り出した。
項志「ナイフとはまた子供だましだな。銃ならまだしも。亜輝、下がっていろ。」
亜輝「項志、大丈夫か。」
項志「大丈夫。プロならまだしも、手下が何人集まろうが、結果は同じ事だ。」
男「言わせておけば……やれ。」
そう言った途端、項志目がけて、五人一斉に襲いかかって来た。その瞬間であった。五人の手からナイフが消え、全て項志の手にあった。
男「いったい何が起こったのだ。」
項志「スローモーションでもう一度というわけにはいかないよなぁ。」
男「何?」
項志「説明してやろう、お前達が襲って来る前に、すでに勝負はあった。」
男「ど、どういうことだ。」
項志「わからん奴だなぁ、お前が合図をかけた時には、部下の手には、ナイフはなかったということだ。」
男「そ、そんな、お前は動いていなかったぞ。」
項志「だから言っただろう、スロー再生はないと。」
男「そ、そんな人間がいるのか。」
項志「俺の動きは人間の目ではとらえる事は出来ない。」
男達は、項志の手にあるナイフを見て驚いたのだが、その内の一人が、胸ポケットから銃を取り出し、項志に向けて発砲した。しかし、項志は倒れることなく、悠然と立っていた。
男「なぜ倒れない、それに銃弾は貫通したのか。」
項志「これのことか。」
そう言って手の中にある銃弾を見せた。
項志「言い忘れたが、銃は、俺には通用しない。なぜなら、俺の目は銃の弾道をとらえられるからだ。」
男「バ、バ、バカな。」
そう言って、その場に座り込んだ。腰が抜けたのだ。その仲間のうちの一人が、“バケモノだー”と言って逃げて行った。残りの三人も、腰の抜けた一人を抱えて逃げ去って行った。
亜輝「項志、お前には、本当に驚かされる。腰を抜かすのもわかる。」
項志「しかし、奴らはいったい何者なのだ。」
亜輝「国際テロリストの一味であることはわかっているが、はっきりしたことはわからん。いずれにせよ、渡瀬さんと合流すれば、はっきりするはずだ。」
項志「わかった、行こう。」