出陣〈後編〉
校長「何の為に。」
亜輝「俺達の存在を、全生徒及び、教員の記憶から抹消するためだ。」
校長「なぜそんな事をする必要があるのだ。」
亜輝「俺達は影に生きる者、かかわり合いにならない方がいい。」
そう言って、原稿を手渡した。
亜輝「この原稿を朗読して頂きたい。そしてこの布を中央部に掲げてください。」
その中心には、五芒星が逆に描かれ、その中心に三六五の文字が書かれていた。
校長「最後に聞くが、君たちは本当にそれでいいのか。君達の眼前には、明るい未来が待っているのだぞ。」
亜輝「それは、平和な未来があってこその話だ。根底の土台が崩れたなら、もはや未来はない。支えるものがいなければ、人間社会は崩壊する。」
校長はうなだれた。わかったという事ぐらいしか言えなかった。内心、本当にかかわらない方がいいと思った。
そしてその後、全校生、全教職員が、体育館に集合させられた。
そして校長が登壇した。しかし、こんな元気のない校長を見るのは初めてだった。
そして、亜輝の原稿を朗読し始めた。
校長「ツダクハ、クオキノ、ジウコ、ウオガ、ラキア、ウユリンシ。」
と、言い終わるか、終わらないぐらいと同時に、体育館が静まりかえった。
そして、全員眠っていた。
亜輝も、この様子をはたで見ていた。
亜輝「みんな、すまない。もう会うことはないだろう。しかし、必ず輝く未来を築いてみせる。」
項志「終わったなぁ。」
亜輝「ああ、終わった。」
項志「しかし、どんな仕掛けなんだ。」
亜輝「この三六五だが、俺がこの地に滞在した日数だ。」
項志「一年間ということか。」
亜輝「そしてこの五芒星、なぜ逆さまだと思う。」
項志「わからん。」
亜輝「校長の言葉を逆に読んでみろ。」
項志「これか、読むぞ。“シンリュウアキラ、ガオウコウジノキオク、ハクダツ”こ、これは……」
亜輝「逆五芒星の魔力で、記憶の一部を剥奪した。そして入口のマットの下だが……」
項志「まだあるのか。」
亜輝「そうだ、入口のマットの下には、六芒星魔法陣の書かれた札がある。入場した時にはすでに術式に取り込まれている。逃れる術はない。」
項志「つらい決断だな。」
亜輝「ああ、しかし、避けては通れない道だ。」
項志「一年間のお前の記憶は、この高校には残らないのか。」
亜輝「残らない。完全にな。」
項志「つらい話だなぁー」
亜輝「ああ、しかし、思い出は俺の中に生きている。」
項志「そうか、その思いがお前を強くするという事か……」
亜輝「ああ、そういうことだ。」
その時だった。二人の人影が前方を遮った。小早川礼子とおやっさんだった。
礼子「あなた達、チョットかっこ良すぎない。」
項志「あれ、礼子、お前泣いているのか。」
礼子「バカ、ゴミよ、ゴミ。」
亜輝「おやっさん、なぜここに。」
おやっさん「君達が旅立つ時が来たと、礼子ちゃんから聞いてネェー」
項志「おやっさんと礼子、どういう関係ですか。」
おやっさん「親戚だよ。」
亜輝「そうだったのか。」
亜輝は思った。俺がおやっさんと親しくなったのも、偶然ではなかったのか。礼子もまた、俺達と同じ志を持つ同志なのか。
亜輝「おやっさん、ちょうど良かった。最後の挨拶に行くところだったので……いろいろお世話になりました。おこがましいようですが、お願いがあります。」
おやっさん「何かね。」
亜輝「あの島のことですが、もし釣客に聞かれた時には、たまたまおやっさんが救助した事にしておいて下さい。」
おやっさん「それでいいのか。」
亜輝「ええ、それと最後に……」
そう言って、一つのウキと、ウキの作り方書いた紙を手渡した。
おやっさん「これは円錐ウキか。」
亜輝「そうです、おそらくよく釣れると思います。これを特許申請して、企業で商品化すれば、印税が入るでしょう。」
おやっさん「お礼というわけか。しかし、その必要はない。もうお前達から礼はもらっているよ。志だよ。どんな困難にも敗けない心、それだけで十分だよ。」
項志「おやっさん、これは亜輝の気持ちです。受け取ってやってください……」
おやっさん「そうか、わかった、お前達の気持ち、確かに受けとった。そして、このウキ、我が家の家宝にするよ。」
※余談にはなるが、この円錐ウキ、後に“円錐ウキ「アキラ」”として売り出されたのだが、超ヒット商品となり、おやっさんの所に印税が入り、後の余生、何不自由なく暮らしたということだ。
そして、別れの時が来た。
おやっさん「必ず生きてこの地に帰ると約束してくれ。」
亜輝・項志「わかりました。」
おやっさん「いいか、必ずだぞ。」
二人は頷いた。そして、おやっさんと固い握手をして、ゆっくりと歩きだした。その時すでに夕日があたりを照らしていた。
亜輝「俺達を知る者も、二人しか残らなかったなぁー」
項志「お前が術をかけたからだろう。それにお前、影の世界で生きるんじゃなかったのか。」
亜輝「お前はどうなんだ、同類だろう。」
項志「確かに、俺もそうだがな。」
亜輝「なら、いいじゃないか。」
項志「だがな、俺は、あんな歯が浮くようなセリフ、口が裂けても言えないゼェー」
亜輝「何だと、今の言葉取り消せ。」
項志「嫌だね。」
そんな話をしながら遠ざかって行く。
礼子「あの二人、並みの神経じゃないわね。」
おやっさん「礼子ちゃん、後を追いたいんじゃないのかい。」
礼子「ええ、しかし、今は、その時じゃないわ……神龍君、我皇君、また会えるかしら。」
二人は振り向いた。
亜輝「また、お会いしましょう。」
項志「礼子、じゃあな。また、どこかで会おうぜー」
礼子は敬礼した。
あたりは夕日で真っ赤に染まっていた。
おやっさん「なぜだ、涙が止まらん。この若者達は、今の人々が失くしたものを思い出させてくれる。その無垢な魂が、俺の涙を誘うのか。」
亜輝「四人だけだが最高だな。」
項志「志が同じなら、こういう展開になるだろう。」
亜輝「そうだな、出陣とは同じ志を持つ者同志、別れを分かち合う儀式なのかもしれんな。」
項志「そういう事だろうぜ……亜輝、良い友人を持ったな。」
亜輝「ああ、そうだな。」
そう言って、亜輝は微笑んだ。
おやっさんの涙は、とめどもなく流れていた。一生この光景は忘れる事はないのであろう。
『レスキューボーイズ出陣す』