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過去

 そして、項志が帰って来て、一ヵ月が過ぎた。項志は亜輝の下宿している所に、やっかいになっていた。おやっさんは、度々訪ねて来ては、事のなりゆきを、問うのであったがその度、二人にはぐらかされてきたが、今日こそはと、いきごんで来たのである。

 そのおやっさんの意気込みに押されて、二人は重い口をひらき出した。

 その内容は、まさに波乱に満ちた人生なのである。

 彼らは、実は兄弟なのだ、兄弟といっても血はつながっていない。二人とも養子として育てられたのだ。その育ててくれた両親も、一年前に、テロに巻き込まれて他界していた。父親も母親も、反戦主義者で、戦争の根絶を目ざして、世界中を飛び回り、反戦活動を行っていた。たまに日本に帰って来ても、二人の子供達に、会うことは、ほとんどなかった。しかし、亜輝も項志も、そんな親を誇りに思っていた。

 ある時、二人宛に、手紙が送られて来た。親からである。その内容は、次のようなものだった。

「私たちの反戦活動を、心よく思わない人達によって、いつかは命を落とすことがあるかもしれない。その時には、お前達が、私達の遺志を継ぎ、人間の生命を守ってくれ。そのために、一人一人の特性を活かして、戦ってほしい。亜輝お前は、その頭脳を活かして、そして項志は、抜群の運動能力を人々のために、使うのだ。しかし、これは私たちの願いだ。お前達の人生を縛るつもりはない。もしこの願いを聞いてくれるのならば、一度、二人ともすべてを捨て、名前を変え、素性を隠し、生活するのだ。そして、納得のいく、能力を発揮出来る様になった時こそ、『レスキューボーイズ』として人々の生命を守っていくのだ。」

 二人は思った。これは親の遺言状だと。

 二人とも迷いはなかった。残りの人生、親の言うとうりに生きようと思った。

 ここまで聞いて、おやっさんは言った。

おやじ「そうか、そんな理由があったのか。それにしてもまだ若いのに、自分達の人生を人命救助に捧げるとは御両親の教育の偉大さがよくわかる。」

 そして、手紙の最後には、こうしめくくられていた。

「お前達の行動は、秘密裡に行い、そして、絶対に正体を明かしてはならないと同時に、決して報酬を受けない事だ。もし、マスコミにでも、取り上げられたなら、お前達は、ヒーロー扱いされ、骨ぬきにされてしまうだろう。また報酬を受けたなら、命がけで人命救助など出来なくなるだろう。地位と名誉と金が人間を堕落させていくのだ。そしてレスキューに対して情熱もさめてしまうだろう。ゆえに絶対に正体を明かしてはならない。そのことを、決して忘れてはならない。お前達が人類最後の希望だ。」

 この手紙が届いて、三日後に両親の滞在していたホテルがテロに巻き込まれてしまったのだ。両親を狙ったかどうかは、わからないが、その可能性は否定できない。

 亜輝と項志は、東京に住んでいたが、この事件の後、こつ然と姿を消した、そしてこの宇和島に移り住む様になったのだ。そして、昔から龍が好きだった亜輝は、神龍と名のり、

「お前が龍でいくなら、おれは虎だ。」

と言って項志の方は、我皇と名乗ったのだ。なぜ、この宇和島市に、移って来たのかは、理由があるのだ。

 両親の葬儀の後に、項志がポツリと言った。

項志「日本中の離島の中で、もっとも環境のきびしい所はどこかなぁ。」

亜輝「ついに修行を始めるのか。」

項志「ああ。」

亜輝「それなら、おれがネットで検索してやるよ。」

項志「ああ、頼む。」

亜輝「しかし、おれもお前の事が心配だ。近くに町がある所がいい、条件を満たす島を検索してみよう。」

 条件とは次の五つである。

 一、無人島である。

 一、無人島の近くに町があること。

 一、その町に高校があること。

 一、無人島の周りは、潮の流れが、速いこと。

 一、無人島のまわりに、魚が多く生息していること。

 その条件を満たす所が、御五神島だったのだ。

 おやじ「それで、この地に来たのか。」

亜輝「そうです。おやっさんには、お世話になりっぱなしで、本当に、申し訳ありませんでした。そしてお詫びしなければならない事があります。」

おやじ「何だね。」

亜輝「項志の事が心配で、たびたび船に乗せて、いただいた事です。」

おやじ「何だそんな事か、気にする事はない、それに釣り人を、磯に渡すのが、仕事だ。それより、おれは感動しているんだ。まだ若いというのに、人々の為に、人生を賭けて戦いを起こそうとしている。お前達の少しでも役に立てたことを、おれは、誇りに思う。」

亜輝「おやっさん、ありがとう。」

 亜輝の目には涙がうるんでいた。

 項志「おやっさん、亜輝がお世話になりました。そして、いつぞやは、なまいきなくちをきいて、スマンと思っております。」

 そう言って、ペコッと頭を下げた。

 おやじ「いやいや、いいんだよ、元気があってよろしい。しかし君には驚いたよ、船より早い人間がいるなんて。あの距離を二十分で泳ぎきるとは。しかし君は、島でどんな修行をしたというのかね。」

項志「つねに死と、となり合わせの過酷なものでした。断崖絶壁を何回も上り下りを繰り返し、そして海の中での修行も、一歩まちがえれば、死が待っています。その結果、おれの潜水能力は三十分以上。」

おやじ「な、なんだって三十分だと……どうりで、競争の時、息継ぎなどしていなかったはずだ。」

項志「おれは、修行の末に、人間のもっている潜在能力を引き出す事に成功した。常人の運動能力は、百パーセント中せいぜい、七、八パーセント、オリンピック選手で、二十パーセント弱ってとこだろう。しかし人間は、太古の昔、すさまじい、パワーを持っていた。なぜならば、別の生き物たちとの生存競争に勝てなかったからだ。考えてみて下さい、現代人がサバンナの草原に放り出されて、いったい何日生きのびられると思いますか。人間は、便利な物を作り過ぎてしまった。車、船、飛行機、機械にたよりきっている。その結果、運動能力が極端に減少してしまった。オリンピック選抜で、アメリカ選手の中でも、なぜ黒人選手が優勝するのか、それは、彼らが以前、アフリカの自然の中で、生きて来たからだ。おれはこの一年、島で文明生活を一切捨てさり、生活してきた。亜輝にも、一年の間、黙って見ていてくれと約束させた。」

おやじ「そうか、それで食料を持って来ては、渡さずじまいだったのか。」

項志「きびしい様だが、そんなものを受けとるわけには、いかんのです。亜輝、お前の気持ちだけもらっておくよ。」

そう言ってポンと肩をたたいた。

 項志は亜輝の気持ちが、痛いほどわかっていた。亜輝も同じ気持ちだった。

 はたから見ていたおやっさんは、二人の絆の深さに、驚いた、これほど強い絆で結ばれた人間には、出会ったことがないと思うのであった。

 項志「この一年の間の修行で、おれの運動能力は、百パーセント中、八十~九十パーセント引き出す事を可能にした。」

おやじ「八十~九十パーセント出すと、あのような泳ぎができるのか。」

項志「おやっさん、あれは六十パーセントぐらいですよ。」

おやじ「まだスピードが出るというのか。」

項志「あの距離なら十五分弱かな。」

おやじ「な、なに十五分弱、モーターボートなみか。」

項志「ハッハッハッ、そういう事になりますかねぇ。」

亜輝「おやっさん、この事はくれぐれも内密に。」

おやじ「わかっている。しかし、おしいなぁ、プールで泳ぐと、まちがいなく世界記録だ。」

亜輝「おやっさん、そんな事をしたら、一発で有名になりますよ。」

おやじ「アハハ、冗談だよ冗談。」

そう言って、笑ってごまかした。

おやじ「しかし、お前達に出会えてよかった、俺も志が高くなってきたよ。」


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