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白の少女の場合2

長くなってしまったのと6話と内容が被っている為、2話連続投稿という形にさせていただきました。

 辿り着いた時には決着はついていた。なんとオルトロスを一人の人間が打倒していた。

 けれどその人間も満身創痍といった様子だ。

 どうしようかと迷いつつもその人物を注視して一瞬で目を奪われた。


 こんなに色の濃い人、見たことない。

 髪の色も瞳の色も引き込まれそうなほど深い色をした黒色。魔法を使っていたのだろうか、身に纏うその魔力も様々な色が複合していてとても濃かった。


 見惚れているうちにその男の人は倒れてしまった。慌てて駆け寄る。


「綺麗だ」


 駆け寄った私と目が合った彼は確かに一言そう呟いて気絶した。

 傷だらけで放っておいたら危ないけれどなんとか大丈夫そうだ。

 応急処置を施した私は彼を背負い、引きずりながらも家まで運んだ。



 部屋に常備している薬で快方に向かったのを確認したところで彼がとても汚れていることに気が付いた。

 このままでは治るものも治らなくなってしまう。


 穴だらけの服を脱がすと均整のとれた逞しい身体が露わになった。

 今まで異性と触れ合ったことのない私は思わず彼を凝視してしまう。

 上半身を綺麗にした。下半身も綺麗にしなくてはならない。

 これはれっきとした治療行為だ。自分に言い聞かせて取り掛かる。





 凄かった。

 男の人のはあんな風になっているのか。本を読むだけでは得られない貴重な体験だった。

 罪滅ぼしとして彼の服を洗濯する為に小川へとやってきた。

 見たことも触れたこともないような生地だ。触り心地が凄く良い。


 彼は何でこんな所にいたのだろう。

 なんでオルトロスと戦っていたのだろう。

 綺麗だって本当に私を見て言ったのだろうか。

 今までこんなにも他人を気になったのは初めてだ。


 これ以上は血が落ちそうにない。そうだ、干して乾いたら穴を縫ってあげよう。

 畑によって野菜も少し収穫する。たくさん寝たらきっとお腹も空くだろう。野菜は好きかな?喜んでくれるかな?



 家に帰ると彼は起き上がって泣いていた。

 どうしたんだろう。どこか痛いのかな。

 そのままジッと見つめていると彼はこちらに気づいた。

 その視線に今まで受けてきたような嫌悪は一切感じない。

 そして母のように困ったような笑顔を見せる。


「えっと、お邪魔してます。キミが僕を助けてくれたのかな?」


 優しげな声に心臓が高鳴るのを感じた。

 話を聞く為に彼の方へと歩み寄る。

 駄目だ、吸い寄せられるように視線を外せない。


「なにかついてるかな?もしかして言葉が通じていない?」


 眉尻を下げて少し困っているようだ。

 そこでようやく自分が意思表示をしていないことに気づいて慌てて首を横に振る。


「僕の話してる言葉、伝わってる?」


 今度は落ち着いて頷くと安心した表情を浮かべてくれた。

 もう一年近く声をちゃんと出していない気がする。


「喋れない、もしくは声が出せない?」


 どうだろう?出せないわけではないと思う。

 戸惑ってしまった。間があいてしまった。


「喋りたくない、もしくは声を出したくない?」


 なんでこの人は分かるんだろう。

 少し驚きつつも首肯する。

 あっ、少し笑った。




 その後も喋らない私に彼は自己紹介をしたり、質問してきたりした。

 なんでこの人は文句を言わないんだろう。どうしてそんな好意的な態度を取れるのだろう。

 彼、ヒデオの道中の話を聞くと彼の力になりたいと思った。

 私の話もしてみたくなった。でも声を聴かれるのは恥ずかしい。もしかしたら失望されるかもしれない。


 そう考えているうちに大きな音が室内に響いた。


「もう夕方だね。ずっと聞いてばかりでキミもお腹が空いただろう?何か採ってくるよ」


 頬を僅かばかり染めて恥ずかしそうに告げると外に出ようとする。

 少し面白いなとは思ったけど怪我人に無理はさせれない。


「えーっと、なんつーか、その、見た?」


 今になって自身が裸なのに気づいたのか頬をかきながら尋ねてくる。

 一瞬私なんかが触れたことを怒っているのかとも思ったが、どうやら純粋に少し照れくさかっただけのようで安心した。

 とりあえずは食事の支度をしようと思い、やりましたと身振りで示して台所へと向かう。 



 備蓄しておいた穀物と塩を惜しげもなく使う。他人に何かを作るなんて初めてだ。今日は初めて経験することがたくさんだ。

 でもどれも嫌じゃない。




「大丈夫、一人で食べられるよ。それより一緒に食べよう」


 傷口が痛むかと思って食べさせようとしたが断られた。やはり私じゃ嫌なのかと思いかけたが一緒に食べようと誘ってくれた。嬉しい。


「色々本当にありがとう。いただきます」


 お礼とよく分からない言葉を言われてきょとんとしていると彼は優しく笑った。少し恥ずかしくなってちまちまと食事を取りはじめる。


 彼の方をチラリと覗き見ると凄い勢いで中身をかきこんでいた。

 涙を流していたから熱かったのかと思ったが、その涙に彼は気づいていないようで小さな声でうめぇと呟いていた。

 嬉しくなって彼の空いた器におかわりを注ぐとまた勢いよく食べ始めた。なんだか可愛い。


「ごちそうさまでした。すんごい美味しかったよ」


 子供のような笑みでそう言うと食器をさげようと立ち上がろうとする。

 その手から食器をサッと奪うと彼を再びベッドに寝かせ、台所へと向かう。

 彼につられるように私も久しぶりにたくさん食事を食べた気がする。





「そろそろキミの名前が知りたいな。教えてもらってばかりだけどダメかな?」


 後片付けから戻ると彼は向き合うようにベッドに腰掛けた。

 声を出して伝えようかな。でもまだ怖い。

 逃げ出すように松明の方へ走る。


「松明」


 指をさすがままに答える彼に首を横にふる。


「松明。火。あかり。トーチ」


 諦めずに彼はいくつか名前を挙げ出した。トーチの所で思わず彼に指をさす。

 馬鹿にされるかな。彼には馬鹿にされたくないな。



「トーチ、世界を照らす象徴か。良い名前だね」



 彼は私が想像していた事とは全く違う答えをくれた。そしてそれは母が私の為に考えてくれた内容に沿ったもの。

 そしてそれを告げる彼の表情は母のように優しさだけがこもった笑顔。もう駄目だ。こんなの我慢できないよ。



「ごめん、嫌なこと言っちゃったのかな?」


 泣いている私を見て不安に思ったのかこの家で最初に見た時のような困った笑みを浮かべる。

 そこにまた母を見た私は涙が止まらなくなってしまい、一生懸命に嫌じゃないんだということを伝えた。

 やっぱり私は変な子だ。でも彼に嫌われたくない。



 次の瞬間私は彼の胸の中にいた。彼の心臓が少しだけ早く高鳴っている。落ち着く音だ。

 そう思っていると頭を撫でてくれた。とても優しい手つきで。子供をなだめすかすようにゆっくりと。



 こんなの抗えない。私はきっと母と同じように一目惚れをしていたのだ。

 そう思うと胸にストンと何かが埋まったような気がした。

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