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しばらくステータスと睨めっこをしていると、スキルや称号は注視すると説明文が表示されることに気が付いた。
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・詐術―人を騙す際に補正。スキルレベル依存。
・筋力上昇(小)―筋力に25%分の補正。小数点以下切り捨て。
・敏捷上昇(小)―敏捷に25%分の補正。小数点以下切り捨て。
・頑丈上昇(小)―頑丈に25%分の補正。小数点以下切り捨て。
・体術―格闘術を使用の際に補正。スキルレベル依存。
・ステータス表示―魔力1を消費し、自己のステータスを確認できる。
・脱兎―逃げる際に補正。スキルレベル依存。
・投擲―武器を投げる際に補正。スキルレベル依存。
・狂化―全ステータスが向上するが錯乱する。スキルレベル依存。
・精神耐性―精神異常に対し補正。スキルレベル依存。
・器用貧乏―取得可能スキルの数に大きな補正。器用に50%の補正。
レベルアップ時、基礎6項目の上昇値が全て1になる。
・大器晩成―レベルアップへの必要経験値が3倍になる。
レベル50到達時に効果が変化。
・一を聞いて十を知る―新規のスキル獲得に際し大きな補正。
・女たらし―数多の女性を弄んだ者への称号。
女性の好感度上昇に補正。
・時空の狭間を通り抜けた異世界人―生きて異世界へ辿り着いた者への称号。
異世界での共通言語能力付与。
・奇跡の体現者―レベル1で20レベル以上格上の単独討伐成功者への称号。
戦闘での獲得経験値に大きな補正。
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整理するか。まぁ不名誉だが詐術と女たらしには心当たりがある。というか恐らくはステータス表示より上のスキルはこの世界に来る前から所持していたものなのだろう。それら以外はこっちに来てからということで合っているよな?
狂化の錯乱というのは不安要素だな。精神異常耐性でどうにかなるものなのかも分からないし、意識的に使うのは控えた方が良さそうだな。
ユニークスキルに関してはまだ判断がつかないが、大器晩成はしばらくの間は重荷になりそうだし奇跡の体現者の獲得経験値に大きな補正というのもどのくらいなのか分からない。
ただ、レベル一の段階で二十レベルより上の相手を倒しても七しか上がらなかった所も踏まえるとこれからはなかなかレベルが上がらなさそうだ。必要経験値が三倍ってのは上がれば上がるほどに辛そうだ。
「まぁ悪いものばかりじゃなさそうだし、これ以上考えてても仕方ないか」
今までの感じからしてスキルを取得するだけなら意外と簡単そうだし昔のように色々チャレンジしてみるのも良いかもしれない。そうしているうちに浪漫である、魔法の使用にも近づけるかもしれない。
とにかく、共通言語能力付与のおかげで会話の出来る種がいる可能性が高いことも分かったし、崖を登りなおして川沿いを進んでみよう。
「あぁ、風呂に入りたい。着替えたい。飯食いたい。寝たい。」
剣以外をポケットに入れ、土まみれになりながら崖を登った。レベルが上がった為か疲労の分を除けば身体は凄く軽いように思えた。
それにしても現状が酷い。スポーツウェアは藪を突っ切ったり崖から落ちたせいで所々破けてしまっているし、中鬼の血でいたるところが緑色に変色し悪臭を放っている。元々着ていたお洒落着を取りに戻りたいが双頭のライオンはレベルアップした今も恐怖の対象であるし、そもそも我武者羅に進んだせいで荷物を無くした場所すら分からない。
食欲も睡眠欲もそろそろ限界だ。でも二足歩行の人型種である中鬼を食べるほどにはまだ落ちきれない。
水場も近く、これだけ深い森だというのに果実もキノコも一向に見当たらない。今は少し錆びているとは言え剣があるし、中鬼たちも蛇を捕まえていた。川沿いだし水を飲みにくる小動物もいるのではないかと期待し目を光らせる。
「ふふふふふふ、見ぃーつけたぁ」
思わずいやらしい笑みがこぼれる。川のある崖下に視線を集中させていたのだが、ふと森の方へ目を移すと草を食んでいる野兎らしき小動物を見つけた。何をしてでも仕留める。
野兎ごときに負けるほど足は遅くないはずなので剣で一気に片づけるべきか、投擲スキルと器用を信じて石で仕留めるべきか。
暫し思考に暮れるもこうしているうちに逃げられてはたまらない。ここは上がった力と器用、そしてスキルを信じて投石で仕留めることにした。
「頼む、当たってくれよ?肉、頼むぞ肉」
握り込む石に懇願する。お前はあの肉にしか当たることが許されない魔法の石なのだ、自覚しなさい。
食欲が抑えきれないようで普段なら可愛くも思える野兎が食肉にしか見えなくなっている。
音をたてないように細心の注意を払う。しっかりと狙いを定めると、野球のオーバースローで全力投球する。
全力で投げた為、狙いを外す可能性も高かったが距離が近めだったのとスキル等の影響により、石は綺麗に野兎の頭に当たる。勢いよくその小さな体を倒すと痙攣する。
「ありがとう、お肉の神様」
俺は肉の神への感謝を忘れない。そして魔法の石、君のこともだ。ありがとう。
素人知識で野兎の首を切り、血抜きをする。血に誘われてモンスターが来ないか少し怯えていたのだが大まかな血が抜け落ちる方が先だったので急いでその場を後にする。
枯れ木を抱え、降りれそうな崖から再び川沿いに降りた俺は、ライターとスプレーの簡易火炎放射器にて手早く火をおこす。一瞬、武器に出来るのではとも考えたがモンスター達を思い返して無駄だろうと結論付ける。
おおよそ向かないであろう、ショートソードと呼ばれる部類の剣での慣れない皮剥ぎにより、ボロボロになった野兎を木で串刺しにし、火で炙る。
「臭いし調味料もないから味も薄いのに美味い。うめぇよぉ」
中まで火が通ったか確認することもなく、滴る油に我慢しきれずかぶりつく。
血なまぐささと獣臭さ、更には肉の僅かな甘味だけの食事。それでも今の俺には十二分だった。
痛み等で流すことはなかった涙だったが、ここに来て堰を切ったかのように溢れ出す。
一度流れ出した涙はしばらく止まることはなかった。
「二十五にもなって号泣するとか恥ずかしいぞ俺」
自分を叱咤し、顔を洗うついでにもう一度川の水を飲む。
飲料水としていけるようで、そこそこ時間が経った今も腹痛をおこす気配はない。排泄にも不便さを感じていた為、助かった。
くべていた枯れ木を崩して火を消し、再度崖を登ると、川下の方へと進む。
黙々と歩き続けると日が再び沈み始めた。当初は巨木が立ち並ぶ大森林といった場所で、熊や双頭のライオンといった危険なモンスターばかりだったが、中鬼たちと出会って以降は次第に小動物も増えていき、木々も最初に乱立していた巨木達に比べ小さくなっている印象を受ける。
「出口も近いのかな?それにしてもとにかく眠い」
ぼやきながらも安全そうな本日の寝床を探すと、昨日休んだ木と似たような根の方に空洞のあいている木を発見した。
こんな臭いじゃ動物やモンスターも近寄りたがらないだろう。それほどまでに今の俺は異臭がしているはずだ。
安全になってきたとは言え危険な森で寝るのは自殺行為だろうが、もうかなりの時間眠っていないため、心身共に限界が近い。
動かなくなってきた体に鞭を打ち、昨日同様に落ち葉や木々で穴を塞ぐ。
もう動きたくない。明日自分がどうなっていようとも構わない。おやすみなさい。