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 うん、英雄と書いてヒデオ。間違いなく俺の名前だ。

 俺は爺ちゃんがつけてくれたこの名前を気に入っている。

 立派な英雄みたくなれるようにって、まぁ実際はこんな感じに育ってしまったが。爺ちゃん、ごめんな。


 種別も良しとして職業の無も今は無しって意味だろ?永久的に無職だとしたら悲し過ぎる。


 レベルの概念があるとかますますファンタジーだな。本当にゲームの世界なんじゃないだろうな?

 問題は状態の脱水という項目とゲームで言うHPであろう生命力だ。これらは明らかにこのままじゃ不味いことを示している。ステータスについて考えながらも足は動かした方がよさそうだ。


 魔力があるということは魔法が使えるんだよな?いや、一減っているってことはステータス表示自体が魔法の一種なのか?昨晩は無駄ったが再度試してみるべきか。


「水よ!……違う。ウォーター!……違う。アクア!……やっぱり無理か」


 恥ずかしげもなく声を出すも願いは届かず、昨晩と同じで何も起きない。やはりスキルか何かを覚えないとダメなのか。


 他のパラメータについても基準は知らないが幸運が低めなこと以外は問題なさそうだ。この明らかにハードモードな始まりはこいつのせいなのだろうか。


「ギェッギェッ」

 

 先ほどの願いの声量のせいか、はたまた幸運が低いせいか、汚らしい声を奏でながら子鬼と呼ぶには大きく、大鬼と呼ぶには小さな、百八十近くある俺と同程度な大きさの鬼のような生き物が三体あらわれた。


 一匹の手にはこん棒に似た雑な作りの大きな木の棒が握られており、一目で力は強いことが分かる。もう一匹の両手には仕留めた獲物であろう二メートル程の蛇がのっている。

 問題はその二匹の後ろにいる中くらいの鬼である。若干錆てはいるが剣が握られている。


「ギャッギャ」

「ギャギェッ」


 話し合いのような素振りを見せる前の二匹。武器を使えるのならもしかしたら知性があるのかもしれない。さらに言えば現地人の可能性すらある。


「やぁ、俺はヒデオ。ヒ・デ・オ。分かるか?ヒ・デ・うぉっと」


 自己紹介を数度試みるも理解を得ることは出来ず、頭部目がけ振り下ろされる木の棒を咄嗟に避ける。ズドンと音を鳴らし地面を叩いたあたり、当たればひとたまりもなさそうだ。そして三匹とも俺を見て涎を垂らしている。どう見ても友好的には見えない。


「三十六計逃げるに如かずってね」

「ギャッ!?」


 ライオンの時と同じ、お決まりのように手に持ったスプレーを吹きかけると振り向きざまに走り始める。先ほどまでは動きたくないと主張していた重い身体も命の天秤には勝てないようでなかなかの速度で走れている。


 後方をチラリと確認してみると三匹とも必死に追いかけてきている。だが身軽な俺に比べて武器や獲物を持つ奴らは思いのほか遅く、早々に振り切れそうであった。







「しつこい男は嫌われるぞこの野郎」


 木の棒と蛇を持った奴らは振り切ったが剣を握る中鬼だけはしぶとく追いかけてきているようでかなり後方に未だ確認できる。そんなに俺が食いたいのか。

 他の二匹もヤバそうだったが特にこの剣を持った奴だけは戦うなと脳内で警鐘が鳴る。


 闇雲に走り続けていたが前方に見えた藪を突っ切った途端に視界が広がる。それと同時に浮遊感。どうやら藪の先は小さな崖になっていたらしく、前のめりで転がり落ちた。


「つぅー痛ってぇー」


 すぐさま起き上がる。いたる所を打撲や擦り傷で負傷しているが、足を挫いたりはしていないようで運が良いのか悪いのか分からない。

 そして前方には念願の水。川がある。水、水だ。もしかしたら俺はツいてるのかもしれない。


「ギェーーッギェーーッ」


 一転、やっぱりツいていないのだろう。小さな崖の上には肩で息をしながらこちらを見下ろす中鬼。そして俺の前方には流れが急な川。両サイドには登れなさそうな自然の壁。


「運がツいてるツいてないって言うか俺の命運が尽きてるっていうね」


 まぁ諦めるつもりはないんですけどね。

 一応は川沿いということで石が多く落ちている。安全に崖を滑り下りようとしている中鬼に向け大き目の石を全力投球しまくると、他のパラメータよりも高かった器用が仕事をしてくれたのか石の一つが顔面に命中し、中鬼は剣を落としながら落下した。



 そこからは完全に無我夢中だった。死にたくない一心ですぐさま中鬼に飛びかかり、またがると側に落ちていた石を拾い上げひたすらに腕を上下し続けた。



 どれだけ時間が経ったのだろうか、意識がクリアに戻ったそこには、頭部がグシャグシャで原型を留めていない中鬼だったものと、その傍らに落ちている少し錆びた剣、身体中に緑色の液体を滴らせた俺が立っていた。


 若干の興奮状態と荒い息遣いは戻らないものの、とりあえずはと真っ先に川の方へと向かうと顔を突っ込み、水をあおった。この川の水が飲料として向いているか否か、お腹を壊すのではないか等の不安点については一切考えずにただただ渇いた喉を潤していく。


 

 渇きが潤い、振り向くと凄惨な現場。自分のやったことではあるがやらなきゃやられていたせいか罪悪感等は全くなかった。それどころか近くに落ちていた剣を拾い上げ、不思議な達成感すらも生じていた。剣に憧れを抱いたことのない男なんていないだろう。これは俺の剣だ。

 ここを抜け出るには武器も殺しも必要不可欠だろうしな。



 抜け出るのに必要不可欠と言えばやはりステータスの確認をし直さなければ。

 先ほどは脱水や中鬼たちのせいで落ち着いて確認が出来なかった。それにレベルがあるなら今の戦闘で少しは上がっているんじゃなかろうか。


「ステータス」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前 :ヒデオ・サヤマ

 種別 :人間:男

 職業 :無

 レベル:8

 状態 :通常


 生命力:45/121

 魔力 :99/121


 筋力 :33

 敏捷 :33

 頑丈 :33

 器用 :40

 知力 :27

 幸運 :17


 スキル

 ・詐術3

 ・筋力上昇(小)

 ・敏捷上昇(小)

 ・頑丈上昇(小)

 ・体術1

 ・ステータス表示

 ・脱兎1

 ・投擲1

 ・狂化1

 ・精神耐性1


 ユニーク

 ・器用貧乏

 ・大器晩成

 ・一を聞いて十を知る

 称号

 ・女たらし

 ・時空の狭間を通り抜けた異世界人

 ・奇跡の体現者

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 レベルだけだと思っていたが、他にも幾つか増えているものが見受けられる。目まぐるしい環境の変化に辟易しながらもこれらの文字列と向き合うことにした。

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