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 その瑠璃色は俺だけを捉えていた。

 そしてその口から発せられた言葉は、間違いなく俺に向けてのものだろう。

 思わず立ち止まってその目を見つめ返してしまう。


 十数人が包囲する中そうした行動を取った少女に釣られ、周囲と若干違う装いの兵士がこちらへと振り返る。 


「薄汚い獣風情が、未だに自分の立場が理解出来ておらぬ。それにそこの一般人もさっさと失せろ、見世物ではない」

「あ、あぁ。そうするよ」


 食事だけだと外套を用意してなかったのは失敗だったな。

 恐らく兵士たちに容姿を覚えられただろう。

 チラっと覗いたら立ち去るつもりだったのだが、どうも少女の存在に茫然としてしまったようだ。


 兵士たちの一番後方に控えていた中年で小太りな男はどうしてもこの少女を捕まえたいのだろう。

 苛立ちが簡単に見てとれる。

 それにこの兵士たちを束ねる存在なのか、基本的にはこの男の指示に全員が従っているようだ。


「薄汚い?フフッ、欲情してボクを奴隷にしようとしていたくせに。よくそんな事が言えたものだねぇ」

「隊長っ!?」

「騙されるな! そんなものは嘘っぱちだ。こいつはただの通り魔。キースが斬り殺されていたのを忘れたか!?」

「あぁ、おデブさんと一緒にいたヒョロヒョロの人? あの人も身体検査って名目でボクにいやらしい事をしようとしてたね」


 聞いていて、さもありなんというのが感想だ。

 こんな兵士だらけの帝都で暴れようと思うのは馬鹿を越えた存在くらいだろう。

 少女が述べている理由の方が正しいであろうことは明白。

 まぁただ、それにしては少女の表情が愉悦としている事に違和感が拭えない。


「通り魔とワシのどちらを信じるかなど聞かぬとも分かっておろうな、お前ら」

「はっ! 直ちに捕縛します」

「ふぅーん、やるんだ? さっきボクの立場がどうとか言ってたけどさ、ボクの心配より自分たちの心配をした方が良いんじゃないかな?」


 僅かににじり寄る兵士たちに少女は酷薄な笑みを湛える。

 まぁ見た感じこいつらじゃ、あの少女は捕まえられないだろうな。

 それにあの殺気、少女は全員を殺す気だろう。

 兵士に顔を覚えられても得することはないし、こちらとしても消してくれるなら有難い。

 これ以上関わっても良い事はないだろうし、全員が死ぬのを見届けたら宿屋に帰るか。

 

「そんなに近寄っていいの? そこはボクの間合いだよ」

「何を言っヘァッ」

「タルガっ! チッ、獣の分際で。お前ら一旦距離を取るのだ」


 速いし鋭いな。

 俺の目でなら捉えることは可能だが、あいつらには無理だろうな。

 現にタルガと呼ばれた片手剣持ちの男が胸から血を噴き出して倒れた。

 少女にその飛沫がふりかかっていた。


 隊長である小太りの指示に全員が瞬時に反応して飛び退る。

 ほう、練度は俺が思っていたより高そうだな。

 でもあそこじゃまだ無理だな。


「そこもまだボクの間合い」

「え、ゴフッ」

「ええぃ、お前らはやる気があるのか! こんな獣相手にどれだけの被害を出せばよいのだ」


 二人目の男が斬り伏せられる。

 自分が斬られたことを信じられないのか、腹辺りをジッと眺めながら倒れていった。


 ほら、だから言ったのに。

 いや、言ってはいないか。

 それにしても小太りは後ろにいるだけで何もしねぇな。

 家柄で出世した口か。


 おっ、もう六人目か。

 随分と殺し慣れているな。

 小太りも流石に焦ったのか、だるだるの首からさげた笛を取り出して吹く。

 周囲一帯全てに聞こえそうな大きさの警笛だ。

 これは流石の少女も面倒なことになりそうだ。


 気配遮断スキルを意識しながら、両手を頭の後ろに組んで暢気に状況を眺める。

 しかし何故か少女はまだ俺を完全に知覚する事が出来るようで、再びこちらを見ると片目を瞑りウインクする。

 それによって周囲への影響も切れたのか、小太りがこちらへと振り向いた。


「お前はまだいたのか。よく見れば帯剣しているな、ならば一般人だろうが関係ない。増援が来るまで捕縛に協力しろ、これは命令だ」


 あぁ、俺が面倒なことになったな。

 生死を見届けないで帰れば良かった。

 少女には悪いが、増援が来るまでにさっさと捕えて立ち去るとするか。

 まぁ少女の自業自得でもあるしな。

 

 十人以上いた兵士たちも今や小太りを含め、立ち囲んでいる三人のみとなっていた。

 こんな人数じゃ包囲もくそもないな。


 少女は俺が参加することに嬉しそうだ。

 尻尾があるようで両横からチラチラとはみ出す。

 尻尾振ってご機嫌そうな割には隙はない。

 偉そうに高みの見物をしていたが、簡単には捕まって貰えなさそうだ。


 念のため身体強化魔法をかけて聖銀のみを抜く。

 容姿でさえ目立ってしまうのに、黒剣との双剣は目立ち過ぎてしまう。

 聖銀だけならまだ辛うじて量産型の名剣程度にしか見えないだろう。


「おい、気を付けろ。これ以上進むと斬られるぞ」

「あぁ、大丈夫だ」


 三人が囲っていた中に足を踏み入れる。

 見切りスキルが発動したのか、次の瞬間には凶刃が迫っていた。

 健脚なだけか、はたまたスキルか。

 とりあえずタイミングを合わせるように少女の剣を受け止める。


「へぇ、止めるんだ。キミ、いいねぇ」

「そいつはどうもっと」


 挨拶程度に弾き飛ばすと、少女は軽々と宙返りをしながら着地した。

 ほう、下着は情熱の赤か。


 後ろにいる三人が何か喚いている。

 どうやら俺が余裕そうに弾き飛ばした為に自分側が有利になったと思ったのだろう。

 よく聞いてみると俺へと口々に命令をしているようだ。


「話しは聞いていた。だからなんとなく経緯は理解しているつもりなんだが、その割にはお前、嬉しそうに人を斬るな。もしかして兵士たちの方が正しかったか?」

「キミが思う方が真実さ。ただね、血の赤はボクの青に栄える。キミもそう思うだろう?」


 瞳を爛々と輝かせながら自らの刀身から滴る血を舐めとる。

 少女だと思っていたが、その姿はなかなかに妖艶だった。


 増援がどれくらいに来るのか分からない。

 あまり時間をかけたくないので、肉薄する。

 少女が本気を出しているのかは分からないが、今のままなら時期にチャンスが来るだろう。


「こんなに色が濃い人の血だ、きっと綺麗で美味しいんだろうなぁ。ねぇ、ボクに頂戴よ」

「血を流す事が多くて最近は貧血気味なんだ、勘弁してくれ」


 半笑いの状態で相手をしていた。

 しかし予想の範疇にはなかった速度で迫られ、僅かに腕を斬られてしまう。

 まだ上があったか。

 気を引き締めなおして対峙する。


「あぁ、やっぱり凄く綺麗だ。ねぇ、舐めさせてよ」

「勘弁してくれって言っただろうが変態野郎」

「ざ~んねん、ボクは野郎じゃないよ」


 軽い攻防を交わしながら軽口を叩き合う。

 近接でこんなに強いのはソルディオとエミリアを除けば初めてだな。

 恐らく現状のイェンをも勝っているだろう。

 それに剣さばきに関しては俺よりも上かもしれない。


「おいっ、お前ら二人も参加してさっさとあの獣を捕えろ。男の方はついでに後ろから斬ってしまえ」


 俺の意識が完全に少女に向かっているとでも思っているのだろう。

 チラリと見やると、余裕を取り戻した兵士たちが下衆な表情を浮かべていた。

 最近マジで良いことねぇな。


 視線を戻すと少女が内に入り込もうとしているのが見えた為、空いている手で殴り飛ばそうとする。

 さがって躱すだろうと思っていたのだが、少女は俺の腕にある傷を舐めた後にふき飛ばされた。


「アハッ、お~いしっ。キミの奴隷にならなってあげてもいいから毎日ボクにその血を頂戴よ」

「悪いな、俺にそんな甲斐性はないんだよ。もう終わりか」

「うん、それなりに満足しちゃった」


 女の子座りのまま締まりがない表情でこちらを見る少女には、もうあまり敵意がないようなので一旦置いておく。


 兵士たちの増援はまだ来る気配がない。

 もしかしたら周囲に他の兵士がいなかったのだろうか。

 そうなれば話は別だ。

 顔を覚えられた挙句、殺しにかかってくるような兵士たちは始末した方が都合が良い。


「今なら簡単に捕縛出来そうだな、お前ら早くやれ。そこの一般人もよくやった。後で詰所に来い、褒美をやろう」

「それを信じて訪ねると、罪をでっち上げて俺も捕まえるんですね、分かります」


 空けていた右手で黒剣を抜きざまに兵士の首を断つ。

 それを棒立ちで眺めてしまったもう一人には聖銀を胸に突き立てた。


「おおおおおいっ、お前、自分が何をしているか分かっているのか」

「どうしたんですか? 声が震えていますよ」

「直に多くの兵が駆けつけるだろう。そっ、そうなればお前もおしまいだぞっ」 

「じゃあそうなる前にあんたを殺して立ち去ります。助言ありがとう」


 何気なく黒剣を先へと伸ばす。

 カハッと空気の抜けるような音が小太りの喉から鳴った。

 自分が殺されるとは思っていなかったのか、小太りは目をこれでもかと見開いてから死んだ。


 俺なんでこんな事してんだろ、飯買いに出ただけなのに。

 なぜ気づけば十数人の死体の前にいるのだろう。


 とりあえずこの場を離れないとな。

 そんな事を思いながらも目の前で恍惚としているケモミミ少女と、中身は冷めたであろう肉とパンの包みに関して頭を抱えるのであった。

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