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アカツキ達を救出してから十日。
俺達はダンジョンに一度も潜っていなかった。
ユニークモンスターの素材が金貨百枚を超えた。
それで暫し休養を取るかと、金貨を受け取ってから一週間ほど連休を取ったのだ。
これで俺にもそれなりの貯金が出来た。
まぁ半分はトーチに預けてあるんだけどな。
次は魔法具関連の物を購入したい。
連休というのは良いもので、中々に自堕落的な日々だった。
こちらの世界での休日もそれはそれで悪くない。
鍛錬は欠かさず行ってきた。
だが一応今日は、外での依頼を受注しようと思う。
セーヌにはしばらく俺達からの依頼はないと事前に伝えておいた。
それにしても久しぶりの仕事だな。
まだ日も出ていない早朝なので自然と欠伸がでる。
ギルドに向かう途中、少しだけ足が重かった。
「おぉっ、良い所に来てくれた!」
「あん? 確かあんたらは前に九層で会った……」
「そう、三等級冒険者のバルカスってんだ。いきなりで本当に悪いんだが、頼みがある」
ギルドの依頼掲示板に向かう。
いつもより多くの人だかりが出来ていた。
誰かが大声で何かを募集しているらしい。
その集団の中央を覗き込むと、どこかで見た顔。
向うも俺の顔を見つけたようで、叫ぶと人だかりが割れる。
俺の側に来ると四人全員が頭を下げる。
三等級のおっさんが二人に四等級の青年が一人、そして五等級の女が一人。
アカツキ達を救出する際に世話になった冒険者パーティだ。
そういえばまだ酒を奢っていないな。
「頼みってのはなんだ? あんたらには一応の借りがあるからな。出来ることならするぞ。なぁトーチ」
「ん、お世話になった」
「そいつはありがてぇ。ヒデオには俺らと一緒に外での討伐に付いて来て欲しいんだ」
なんだそういうことか。
それなら俺達としても都合が良いな。
依頼の内容が酷くないなら断る必要もない。
ただ、なぜこいつらはこんなにも焦っているのだろうか。
「まぁ俺達も今日は外の依頼を受注するつもりだったし、悪くはないな。だがそんなに焦っている理由はなんだ?」
「俺とこいつのガキがシュウオウ熱にかかっちまって。その治療薬を作るのにどうしてもマンイーターの粘液が必要なんだ」
このリーダーであろう三等級の男と五等級の女の間には子供がいるようだ。
シュウオウ熱と聞いてトーチが僅かに眉をしかめる。
あまり良い病気ではないのだろう。
「ん、症状を緩和させる薬なら今あるものでも作れる」
「嬢ちゃん薬師かい? そいつは助かる。ミネア、うちまで案内してお前はユリアンについてろ」
「でもバルカス。マンイーターなんて本当に討伐出来るのかい?」
「このヒデオは九層のユニークモンスターすら倒せるんだ。きっと大丈夫だ」
マンイーターについては昔イェンから聞いたことがある。
確か植物型であり、強い生命力と多岐にわたる攻撃方法を併せ持つ魔物だ。
イェンは単独で討伐したらしい。
粘液塗れになって気持ちが悪かったと言っていた。
聞いていた話の通りなら俺でも大丈夫そうだ。
「そういう事情なら仕方ないか。トーチもそっちを頼めるか?」
「ん、私にしか出来ないこと。ヒデオも気を付けて」
「馬を飛ばせば半日もかからない場所だ。夕方までには戻れるだろう。急かして悪いが、さっさと行こう」
ミネアと呼ばれた五等級の女がトーチを。
バルカスと呼ばれた三等級の男が俺を。
各々に手を引かれながらギルドの外へ出る。
昨日に続いて今日も人助けか。
しかも今日も子供の為に。
俺ってそんなに子供好きだったか?
まぁ断るって選択肢もないのだが。
金に糸目は付けないらしく、高価である馬を乗り継ぎながら森林地帯を目指す。
ちなみに俺はまだ乗れないので、装備だけをバルカスに預けて走っている。
バルカスは大盾を扱う前衛。
もう一人の三等級のおっさんである、イムジは槍スキル持ちの中衛。
最後に不真面目そうな四等級の青年であるカンが火魔法スキル持ちの後衛らしい。
本来ならここに、前衛である短剣使いのミネアが入る。
バランスは悪くなさそうだ。
「もうすぐだ。だがヒデオはずっと馬と並走していて疲れないのか?」
「いや、くっそ疲れてるよ。ただ、今はそんな時じゃねぇだろ。帰りは一人で乗馬の練習でもしながら帰るよ」
「そうか、すまねぇ。本当に恩に着る」
「いや、気まぐれみてぇなもんだ。そんな気にすんな」
森林地帯に入る。
馬は盗まれたら盗まれたで仕方ないと、入口付近に繋いだ。
一応申し訳程度に隠してはいるが。
しかしこの森、やけに静かだな。
動物の声一つしない。
明らかに雰囲気がおかしい。
そして森林に入った時から何か異常な気配だけを気配察知のスキルが捉え続けている。
「前来た時と空気が違うな」
「お前もそう思うか、カン」
俺だけが違和感を覚えたわけではないようだ。
カンもイムジも周囲を警戒している。
だがバルカスだけは急いでいる為に、そこまで気にするつもりはないようだ。
「皆、そろそろ生息報告のあった場所だ。準備はいいな」
「まぁここまで来ちまったなら、後はどうとでもなるか」
「そうだな、最悪すぐに逃げれば良いんだし」
三人が藪をかき分けて先に進む。
先ほどから背筋に悪寒が走るのはなんなんだ。
嫌な予感しかしない。
「ハッ、逃げれる相手なら良いなぁ」
「誰だてめぇ?」
「馬鹿っ、さがれ!」
進んだ先には灰色の髪に金の瞳を携えた男が血に濡れて立っていた。
手には身の丈以上もある金属性の棒。
周囲には高ランクであろう数多の魔物達が地に伏している。
見ればマンイーターらしき死骸もあった。
男は明らかに異質な存在感を放っている。
いきなりの喧嘩腰に詰問しようと前に出たバルカスの襟首を瞬時に掴む。
その瞬間、バルカスの喉元ギリギリを棒状のものが横切る。
「チッ、邪魔してんじゃねぇよ。勘だけは良い雑魚が」
「いや、悪い。この男はちょっと気が立っていてね。俺達はマンイーターの粘液が欲しいだけなんだ。少しで良い、購入させてくれないか?」
「あぁん? 俺様の物をなんでくれてやんなきゃいけねぇんだ?」
こいつは絶対に俺よりも強い。
脳内が警鐘を鳴らし、全身がそれを訴えかけてくる。
出来ることならば今すぐここから逃げ去りたい。
そう思わされてしまうほどに。
他の三人にはそれが分からないようで、未だに警戒する程度だ。
だから俺が下手に出てすぐさま交渉してしまいたかったのだが、それもかなり難航しそうだ。
「小さな子供がシュウオウ熱にかかっているんだ。このままでは死に至る可能性の方が高い。頼む、ほんの少しだけでいいんだ」
「それが俺様にどう関係あんだ?」
「そこの地面に落ちている分だけでいいんだ。どうせ拾わないだろ? このとおりだ」
「質問に答えろよカス。俺様の時間が勿体ねぇだろ。それに頭さげるなら地面に擦りながらしろ」
「はぁ、ソルディオ。貴方という人はどうしてそんなにも慈悲がないのですか」
頭をさげつつ懇願するも、あまり意味をなさなかった。
腹立たしいが敵対するなと本能が告げる。
残り三人の頭も無理やり押さえつけていると、上の方から声が聞こえた。
他にもいたのか。
全く気付けなかった。
声のした方を見上げる。
この距離では目の色は窺えないが、桜色の髪をした女が木の上で頭に手を当てている。
「うるせぇぞエミリア。俺様に文句をたれんじゃねぇ」
「見なさい。貴方の異質さに気づいて、怯えている青年もいるじゃありませんか。可哀想です」
「ははぁん? この雑魚見てくれだけは良いからな。惚れたか?」
「いいえ、弱者に興味は全くありません」
交わされる失礼な会話に文句を言いたいが、声が出ない。
木の上から女が降りてくる。
そこで女の方は冒険者証を着けていることに気付いた。
二等級ッ!?
何度瞬きをしても、女性の胸元についている冒険者証は変わらない。
バルカス達も自分が何に相対してしまったのかに気づいたのか、青ざめながらも大人しくなる。
「なら俺様に指図をするな。お前も殺すぞ」
「私は教皇様の指示に従っているだけです。それに放浪する条件の中に他国に迷惑をかけないことって含まれていたでしょう」
「ハッ、こいつらは冒険者。ここは生活圏外。そして俺様は祭に間に合わなくて超絶不機嫌。理由はこれだけで充分だろ」
女の方も説得を諦めたのか、やれやれと肩をすくめて頭を横に振っている。
そもそもあまり止める気がなかったのかもしれない。
やばい、来る。
そう思った瞬間には身体が動いていた。
イムジ目がけて投げられたモンスターの爪だったものをなんとか弾く。
「へぇ。三等級から狩ろうと思ったけど、お前雑魚の割に面白そうじゃん」
「ちっ、バルカス、受け取れ。そんですぐに逃げろ」
「ひ、ヒデオはどうすんだよ?」
「全滅するよりはマシだ。お前らだけでも逃がす。トーチにすまないって伝えてくれ。行けっ!」
にやにやと笑いだした男を尻目に前へと飛び込む。
地面の粘液を小瓶で素早く掬うとバルカスへと投げた。
この男からは絶対に逃げられないし、逃がさないだろう。
何故かそう理解出来た。




