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 明晰夢って言葉がある。

 ただ俺の場合は夢を自在にコントロールすることは出来ない。

 これは夢だなって理解出来ているだけだ。


 俺は週に数回、夢でオルトロスと戦う。

 そして毎度殺されて目が覚めるのだ。

 繰り広げられる戦闘はその時その時によって内容が異なる。

 しかしどれだけ違おうと結果だけはいつも変わらない。


 もしかしたら万に一つをあの時に引き当てたのかもしれない。

 そう思ってしまうほどに。



「ガアアアアッ」

「吠えるな猿公。ビビっちまうだろ」


 魔力は道中で三分の一程消費していた。

 だがオルトロスと対峙した時よりも数値的には多く残っている。


 聖銀と黒剣を抜いて構える。

 強敵に喜んでいるのか、早く使えと催促しているかのように握りがすぐにピッタリと合う。


 そう、あの頃とは違う。

 こいつらもいるし、しばらく凌げば応急処置を終えたトーチの援護もある。

 ステータスだって倍近くになっているんだ。


 痺れを切らしたのか、大猿が動き出す。

 こちらに飛び跳ねながらも怒りのままに腕を振りかぶっている。

 アカツキとじゃれていた時とは違う、あの巨躯による力任せの一撃。

 これは掠めるだけでも命取りになる。

 余裕を持って回避行動を取ることにした。


 しっかりと距離取った為その拳が当たることはなく、逃げた俺に対して怒りの感情を隠せずに地団太を踏んでいる。


 なんでてめぇが怒ってんだよ。

 怒ってんのは俺の方だぞ馬鹿野郎。


 振りぬかれた大木のような太さの腕を黒剣で斬り落としにかかる。

 気合一閃で振りぬいた。

 その肌は抵抗なく裂けたのだが、完全に俺の技量不足だ。

 斬り落とすどころか半ばにすら到達していない。

 それでも傷口からは大きく血飛沫が舞う。


 大猿は体を反らしながら痛がっている。

 そして苛立ち紛れに横の木を殴り倒した。

 生木大木がへし折れるってどんなパンチ力だよ。


 またもや大振りの一撃を放とうとしているようで、大猿の振りかぶりを視認する。

 先ほどのことを学習していないのか猿公め。

 こんなの見切りがなくても避けれるだろ。

 次こそ腕を斬り落としてやるぞと思ったその瞬間、奴の尻尾が動く。

 殴り倒した木を尻尾に巻き付けると、こちらへと投げ飛ばした。


 そんなのありかよ。

 体を屈ませることによって木を躱し、体勢を整えようとする。

 そこでようやく大猿の拳が既に放たれていることに気付いた。

 猿の学習能力を侮った俺のミスだ。

 これ死んだわ。


「グアァァアッ」

「助かったぜ、トーチ」


 大猿の左目に矢が刺さっている。

 奴は手を顔の方にやり、身体をばたつかせながら痛がりだす。

 またトーチに命を救われた。

 感謝の言葉を紡ぎながら接敵する。


 この邪魔な尻尾を先に斬ってしまおう。

 視界を失っている大猿の左側へと回り、俺の顔の位置程にあるそれを黒剣によって断つ。

 奴の腕よりも細いため、根本近くからバッサリと斬り落とすことが出来た。


 追撃しようとするも、痛みに大暴れしだしたので一旦距離を取る。

 大猿の周囲は既に酷い惨状で、荒野のように荒れ果てている。


 これは思ったよりも楽に討伐出来そうだ。

 そう思う間もなく、禍々しいオーラが大猿の身体全体を包み込む。

 痛がり暴れていたのが嘘のように大人しくなった。



 動きを止めた大猿の様子に訝しがりながらも、攻め時と判断して足を動かそうとする。


 なんだ、動かない。

 足元を見ると黒い手のようなものが俺の足を掴んでいた。

 ヤバい。そう思い大猿の方へと視線を移す。


 何故か大猿の姿はなく、俺の目には周囲の景色が流れるように映し出される。

 そして肉体に突如、意識を失いそうになるほどの激痛が走る。

 体が地面に叩きつけられた衝撃で、身体強化魔法が解ける。

 そこでようやく自分が殴り飛ばされたことに気づいた。

 

「ひでおおおおおおおおお」

 

 トーチの絶叫がここまで聞こえる。

 あんな大きな声も出せるんだな。

 心配しないでもちゃんと起き上がるさ。


 立ち上がる際に左手から聖銀が零れ落ちる。

 拾おうとするも左腕に感覚がない。


 あぁ、完璧に折れてるな。

 殴られる際、無意識に左腕で庇ったようで、変な方向へと曲がっている。

 それを認識すると、忘れていたように痛みが襲い掛かる。

 痛い痛い痛い痛い痛い。


 追い打つように近づいてくる大猿の左腕に矢が突き立つ。

 大猿の視線がトーチたちのいる場所へと注がれた。

 駄目だ。トーチの攻撃力ではまだこいつには届かない。


「トーチッ、アカツキたち連れて逃げろっ!早くっ」

「嫌だっ!」

「俺は今から本気を出す。そこにいられちゃ邪魔なんだよっ!俺を殺したくねぇならさっさと上に行けぇっ」

 

 逡巡しているようだったが、ハッキリと拒絶の意志を見せると力なく項垂れた。

 そして何度もこちらを振り返りながらも皆を連れて、ゆっくりと下がっていく。

 これでどうなろうと安心だな。


「黙って見逃してくれたけど、猿にも情けってのがあんのか?」 


 そういうわけではなかったようで、よく見ると尻尾と左目が治っていた。

 あの黒いオーラは魔法のようなものなのだろう。


「なんだ回復まで出来んのかよ。ずりぃなぁ」


 ある程度時間を稼いだら脱兎のスキルで逃げちゃおうかなとも思っていたが、無理そうだ。

 まぁどっちかが死ぬまで終えるつもりもなかったしな。




 何故か少し緊張して深呼吸をする。

 身体強化は魔法だから別物として、自分の意志で発動出来るスキルって今の所これだけなんだよな。

 久しぶりに活躍してもらうとするか。


「狂化」


 発動した瞬間に全身の痛みが消えた。

 そして意識がふわりと薄れかける。


 自分の意志とは関係なく、身体が勝手に動き出す。


 自分自身での戦いであり、命運がかかっている。

 だと言うのに、この他人任せのような感覚。

 全財産をはたいて馬券を購入した時のようだ。





 腕が折れたことによって発動しているであろう不屈スキル。

 双剣術に統合されている剣術のスキルに加えて体術スキル。


 狂化にこれらを上乗せしてもまだ黒いオーラに包まれた大猿には刃が届かない。

 手足や尻尾による攻撃を全て見切り、躱しつづける。

 しかし攻撃後に隙がなく、俺の肉体は反撃することが出来ていない。

 勝手に捨身の一撃を放たない辺り、狂化のスキルにも生きる意志はあるようだ。


 狂化発動時から俺の肉体は身体強化魔法をかけたがっていた。

 だが黒いオーラにも発動限界があるのではと考えた俺は、強く意識を持って使用を禁じていた。


 けれどこのままでは俺の方が先に潰れそうだ。

 もう魔力の節約なんてしていられない。

 身体強化魔法を極限にまでかけさせる。


 なんだこの相乗効果は。

 自分の身体がこんなにも力強く、速く動けるとは。

 黒剣の刃が少しずつ大猿の肉体に傷をつけていく。


 だが黒いオーラがそれらを回復していき、このままではキリがない。

 俺の魔力にももう余裕はなく、ステータスには赤く表示がされている。


 自分の意志で身体が動くようになってきた。

 狂化ももうじき切れるのであろう。

 どうする。どうすればいい。



「ガァアアッ」


 突如大猿の足が僅かに地面へ埋まり、一瞬だけ固定された。

 次の瞬間には再び左目から矢が生える。

 その時にはもう俺の身体は大猿の膝を足場にして駆け上がっていた。


 肩までたどり着くと、大猿の腕と同じぐらい太い首に黒剣を添える。

 今度はちゃんと斬れそうだ。

 何故かは分からないが、そう確信して黒剣を振りぬく。


 俺の体と大猿の頭が仲良く地面へと落ちていく。

 禍々しい黒いオーラも霧散していくのが分かった。

 そして、頭を無くした胴体も糸が切れたように崩れ落ちる。


 狂化が完全に解けて、身体強化魔法も解く。

 全身に凄まじい痛みが戻ってくるが、それが生きていることを痛感させてくれた。

 あー、楽に殺さねぇって決めてたのに最後は一瞬で決着つけちまったな。

 しまらねぇ。


「ヒデオっ!」

「ヒデオさんっ!」


 トーチが駆けよってくるのが見えた。

 その後ろにはハイドの姿も見える。

 やっぱりあいつらの仕業か。


「おう、お蔭様で生きてるぞー」

「嫌われてもいい。ヒデオに殺されるならそれでもいい」

「だから戻ってきちまったのか。もう三回も命を救われちまったな。愛してるぞ」


 泣きそうな表情を浮かべていたのに、一瞬で顔が茹で上がったかのように赤く染まる。

 こんなに赤くなるところは初めてみた。


「ハイドもありがとな」

「もとは僕が巻き込んだことですから。それに回復した魔力で出来たのもあの程度でしたし。本当にすみませんでした」

「それも勝因の一つだよ。あっ、悪いけど聖銀と大猿の売れそうな部分を回収しといてくれないか?」

「もちろんです」


 アカツキとシークを強制的に晶石で帰還させると、二人はすぐに踵を返したらしい。

 その行動が俺の明暗を分けたな。


 流石にユニークモンスターの素材は惜しいと可能な部分だけ剥いで貰う。


 ハイドがうろちょろと動き回っているのを眺めながらトーチに薬を塗られる。

 これがまた強烈に沁みるのだ。

 しかし比較できないほどの効能だから文句も言えない。


 折れた左腕の応急処置をしていると、全てを終えたハイドが戻ってきた。

 大猿がいなくなったことで魔物が集まって来るかもしれない。


「さっさとずらかりますか」


 ハイドの肩を借りながら魔法陣へと向かうことにした。



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