表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化け物たちに幸せな狂詩曲を  作者: 常ニ名無シ
第零番 ようこそ、私の物語へ
8/10

それからとこれから

 始まりの神は誰であったろうか。

 光を掲げる太陽の神か。

 夜を見守る月の神か。

 生命の根付く地の神か。

 世界を覆う空の神か。

 恵みもたらす水の神か。

 神に成るは人間。古き神も新しき神も元は人間であった。

 ならば、始まりの神を生み出したのは、神としたのは、一体何なのか。

                               名前無き手記より



*  *  *  *  *



 結論から言おう。


 激闘を演じた私と熊は和解した、と。


 自信をもって放った突きを牙で見事に防いだ熊の技量に感心したから。と、いうのは誰に対して言ったのかも不明な建前だ。実際には情けの面が大きい。


 あの後、熊の巨体を拠点に運ぶ最中の事。


 近くの茂みが不自然に揺れたのを見つけた私は、足元の石をその茂みに向かって蹴り飛ばした。


 すると、短い獣の悲鳴が上がって、すぐに唸り声に変わると二体の熊が茂みから現れた。


 それは今右手で足を掴んで引きずっている熊にそっくりな、けれどサイズがもっと小さい、魔境という環境下で言うなら子熊ともいえるような熊。


 目測で体長1メートルちょっと程の熊を子熊と判断した自分自身の感覚に苦笑したのを思い出す。


 そして、子熊たちは牙を剥き出しにして威嚇してくるもそれ以上の行動を取ろうとはしなかった。


 ああ、この巨大熊はお前たちの親か。


 何となくそう判断した私は、これといったアクションも起こさず拠点へと歩みを進めた。強いて言うならば、今まで引きずっていた熊を背中で背負うようにして運び始めたくらいか。

 

 子熊たちは拠点までずっと着いてきた。親が心配なのか、仇を討つ機会を伺っているのか。


 で、だ。拠点に戻った私は、鑑定スキルによって集めた薬草や木の実や根を使って熊を治療した。治療法はすり潰して喉の奥に押し込んだり、乾燥させてお香の様にしたり。基本痛み止めや自然治癒力向上の効果がある物を使った。


 暫くして目覚めた大きな方の熊と少々乱闘はあったものの、手負いの熊に負けるほど私も弱くない。それに熊が気絶している間に準備していた皮を剥いだ巨大蜥蜴の丸焼きが、良い音と匂いを放ち始めてからはそちらへ意識が向き始めてまともな戦闘にならなかった。


 その間に子熊たちには怪鳥の串焼きをプレゼントして餌付けしておいたから大人しいものだった。親熊が生きているのを確認して落ち着いた様子。


 それからの事は想像に難くなく。ボリュームたっぷりな未知なる美味を堪能した熊の家族はそれ以降、私に向かって牙を向ける事は無くなった。負けた相手にむやみやたらに逆らわないという野生の本能が働いたと思いたい。流石に、食べ物に釣られて大人しくなりました!ではチョロ過ぎて泣けてくる。それでも食物連鎖の上位者かと。


 それと、驚く事に熊の砕かれた顎は和解後一週間で完治していた。それまで小分けに切って食べさせていた私としては手間が減って嬉しい限りだが。薬と野生の力って凄い。


 とりあえず、そういう訳だ。親熊が死ねば、あんな子熊は魔境で生き続ける事などできない。諸共狩ってしまう事も勿論できたが生憎というか幸いというか、食糧の備蓄は潤沢にあった。無駄な殺生をする気分でもなかった。だから獣とはいえ家族を引き離す事への抵抗が勝った。それだけの事。


 偶に拠点にやってきては獲物と引き換えに調理を要求するになったのは、獣の忠誠かそれともただの食欲か。


 まあ、長い間一人で生きていた身としては少し有り難かったのは確かかな。




 …これから。どうしようか。


 それが問題だ。大きな、大きな問題。


 この魔境で生き、この魔境で死ぬのもいいかもしれない。煩わしい人間関係が一切ない本当に自由な世界。食糧は豊富だが危険も一杯。それでも、私ならそれなりに長く生きていけると思う。


 ―――けど、それでいいの?


 私は身体こそ人間じゃなくなった。けど「人間」ではあった。その記憶もあるし経験もある。何より私の精神とか心は人間そのものと言っても良い、はず。


 だから、少し寂しい。言葉も心も交わす事の出来ないこの現状が。


 だから、少し怖い。明日死んで、食べられてしまう可能性すらあるこの世界が。


 だから、少し虚しい。死ななかったとして、何も残せず誰にも知られないでいるこの生き方が。


 だから―――。


 「魔境ここと、少しの間さよならしなきゃね」


 生きたいように生きる。したいようにする。それでいいじゃないか。


 けど、私は獣じゃない。全てを力任せにはしないし考える事の放棄もしない。


 私は人間じゃない。脆弱でも非力でもない。信頼できる頑丈で健康な身体がある。


 「私は”化け物”だ。人間に出来ないことが出来て、獣に出来ない事も出来る」


 ―――ああ。最高じゃないか!他人と違う事が、こんなにも優越感に浸れるものだったとは知らなかった!


 だから、行こう。外の世界へ。


 今まで出来なかったことをするために。もっと楽しい事を探すために。この高ぶる気持ちを抑えるために。


 そして。もっと、もっと幸せになるために!






 で、魔境の外って何処だろう?


 海を渡る必要も出てくるかもしれないから移動手段も探さなくちゃ。

次に軽いキャラ紹介入ると思うよ。

そのあと本編に入ると思うよ。

気長に待っててくれると嬉しいよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ