スキルと魔法
人が天より授かり力。その名をスキルと呼ぶ。
神よりもたらされる加護とは別種の大きな能力。
あるスキルはあらゆる傷と病を癒す。あるスキルは万物を手元に呼び出す。
選ばれし者と必死の努力をする者に与えられる力。だが決して溺れるなかれ。
使い手次第で力薬となり、毒と化す。
帝都発行スキル学説書
* * * * *
「さて、どうしたものか…」
自分が何者なのか。その疑問はどうやっても消すことはできない。割り切ったつもりだったけど、人間そうさっぱり割り切れるなら苦労しない。あれ、てことは私はまだ人間なのかな?
よし。保留!
考えても分からない答えをずっと悩んでたら時間を無駄にする。テストだったらそれで大きな損をするしね。判明しているものから順番に解決していこう。
まずは鑑定からいってみよう。マントを手に取って鑑定と念じてみる。
【迷彩マント】
と頭に文字列が浮かび上がる。よし成功。
って、そのまんまかーい!
おかしい。私だって異世界転生や転移系の小説やラノベくらい読んだことある。鑑定がどれだけ有用な能力かもおかげで知っている。けどここまで情報量が少ないとは。
いや、名称が分かるだけでも十分使える能力か。自分の知識に無い物を知ることが可能なんだから。キノコと毒キノコの判断くらいはこれで可能だろう。
それに多すぎる情報は整理が付けられない
その後、武器や防具、金貨や宝石に至るまで鑑定しまくった。その結果。
【天龍の迷彩マント】
【素材:天龍の抜け殻】
【効果:熱気遮断、冷気遮断、空気抵抗軽減】
すっごく有用性上がりました。
鑑定石で調べてみたら鑑定Ⅲになっていた。レベル?が一つ上がるごとに情報が一項目ずつ増えるのかな。
というか龍って。まあ居るよね龍くらい。
けどこれってかなりのお宝なんじゃ?肌触りなんて龍とは思えないくらい滑らかだし効果がすごい。早く走れたのは空気抵抗軽減のおかげかな。おかげで落下速度も速かった気がするけど。
ちなみに熱気遮断や冷気遮断って効果があるけど、あくまでマントで覆っている部分にしか効果がないみたい。フードだけ脱いだ状態だと顔は熱さも冷たさも感じた。おそらく足元も守り切れてない。だから全身を守る場合はフードを被って体をかがめる必要がある。アニメでよく見るマントガードも出来そうだけど、戦闘中に視界を遮らないように注意が必要そうだ。
どうせだから今現在私が装備しているものを鑑定してみよう。
【天狐の迷彩服】
【素材:天狐の毛】
【効果:温度調整、伸縮自在、臭気除去】
超高性能で思わず笑った。道理で快適だった訳だ。素材は要するに狐の毛を編んで作ったってことかな。狐の体毛すごい。ちなみにこの服は上下合わせて一つの道具扱いらしい。
【天馬のブーツ】
【素材:天馬の皮】
【効果:吸着、伸縮自在】
【天馬のグローブ】
【素材:天馬の皮】
【効果:吸着、伸縮自在】
おや、同じ素材だ。天馬シリーズ、今度は馬か、地球で言うペガサス的なアレかな?これも伸縮自在が付いてる。体の成長を考慮した設計、というより元からそういう特性があったってことなんだろうね。
しかし吸着か…武器を手放さないようになるとか?捕まえた相手を離さないように?んー、それだと場合と状況次第で悪い方に転びそう。…ああそうか、転ばないようにか。
もはや私の新住居と化した龍の巣改め”始まりの洞窟”(最近名付けた。始まりの町的な意味で)の壁に右足を付ける。
「…っふ」
いける。そう思い左足を一気に振り上げて壁に付ける。お、おお!立ってる!立てるぞ!
結果、吸着は壁や壁面に張り付くことを可能とする能力だった。ただ、これは使い手の力が試される気がする。
まず、重力はしっかりと地面方向に存在している。よって地面を背にして壁に立つと上半身が下に、この場合後ろに持っていかれそうになる。だが私はこれを人間離れした身体能力によってカバーしている。要するにめっちゃ腹筋を使ってるのだ。これはいいトレーニングになるなぁと思いつつそのままの体勢でいたけど多分一時間も持たなかった。
壁を歩くのも天井を歩くのも同じように筋肉を使う。両手両足を使えば一般人でもなんとかなるかな?って思うけど、呑気にズルズル壁とか天井を這っていられるような状況に常にいられるかは疑問だ。今いる洞窟のような屋内での緊急時における立体的戦闘。これを可能にするだけでも生存率は上がる。別に無理に戦う必要はないんだ。逃げるのにだって役立てられる。
要するに、どんな便利な道具でも基礎的な体力と筋力が必要だって事。
ちなみに吸着面が離れたり着いたりするには魔力が必要な事が分かった。ブーツに流す魔力量によって吸い付く強さが変わる。能動的な効果と受動的な効果には魔力消費の違いが存在するのか。
残りで目立ったものはこれかな。
【ミスリルナイフ】
【素材:ミスリル】
【効果:高魔力伝導率】
【空間収納袋】
【素材:魔獣の皮】
【付与魔法:空間魔法/空間収納】
RPGゲーム定番の鉱石、その名もミスリル。しっかり存在するんだね。効果は高魔力伝導率。まあそのままの意味だね。
ものは試しという事で魔力をミスリルナイフに流す。もう魔力の移動は慣れたものだ。それで流すとどうなるのか。答えは刃が丈夫に、それでいて鋭くなる。
魔力を流さない状態と流した状態では切れ味が全く違う。普段は斬る際に抵抗を感じる物も、魔力を流すとまるでバターでも切っているかのように滑らかに斬ることが出来る。原理を考えるのは面倒だから止めておくけど、恐らく耐久性も上がっている。
これを普通、と言っていいのか分からないけど鋼鉄製の剣でやってみると上手くいかない。なんていうか魔力が剣に染み込まない?感じがする。
一つ気になる事があるとしたら、魔力が見える事か。白く透き通って居るようにすら見えるミスリルの刃。しかし私が魔力を流すと、それは真っ黒に染まっていくのだ。しかも刀身からユラユラと湧き出るように黒いのが発生する始末。想像だけど、鑑定石で表示された”純黒”が関係してるんだろうね、色以上の効果までは知らないけど。ただ見た目は呪いの武器にしか見えない…。
まあ、その後頑張ってうんうん念じてみたら色は見えなくすることに成功したけどね。正直黒いオーラとかカッコイイ!って思ったけど。生憎、私は中二病なぞ患っておりません。はた目からしたら恐ろしい事この上ないでしょう。ただ、不気味さを利用して威圧には使えるかもね。
そしてまさかの空間収納袋、いわゆるアイテムボックス的な役割の道具を私は手にしていた。見た目に反して物が良く入るなとは思ってたけど…。
これは腰に付けるタイプの小型鞄だ。容量以上の物を無理に入れようとしたことが無かったから気付かなかった。いや普通どう見ても入ら無さそうな物を入れようなんて思わないし、気付かなくてもしょうがないよね?
言い訳はこの辺にして実際にどこまで入るのか早々試しましたとも。結果?現状況では不明と言っておこう。
まず空間収納袋の入れ口より幅が大きい物は入らなかった。それでも入れ口は私の手が余裕で出し入れできるだけの幅がある。光石(鑑定でも光石だった)なんかは余裕で入るね。それに長い物でも幅さえクリアしていれば入れることが出来た。やってて手品師の気分だったよ。
それで入れられる大きさの物はありったけ入れてみたけど、結局満杯になる様子が無かった。取り出しは簡単で、手を空間収納袋に入れて取り出したいものをイメージする。この時イメージするのは形でもいいし名前でも構わない、これは立証済み。すると手イメージしたものが触れる。後はそれを掴んで取り出すだけ。
しかも何が入っているか忘れ時は、空間収納袋に魔力を通すと鑑定スキルを使ったとき同様頭に色々浮かび上がってくる。便利だけど余り沢山入れすぎると情報量多すぎて頭が混乱しそうだ。同じ名前の道具は一括にして個数だけ数字で浮かび上がってこないかなーと思ったら出来たよ。魔法万歳だね。少々都合が良い気もするけど元々そういう機能は使用者が設定できる仕様なのかもしれない。
あとは見た目通りの道具だったり、珍しそうだけど今の私では扱え無さそうな物ばかりだった。正直物が多すぎて目と頭が重いし疲れた。
けど今日はもう一つだけ試したいものがある。そう、魔法だ。
何度も言うけどファンタジーで魔法使わないとかありえない!しかも私の魔力は高い。そして今までの実験や検証で魔力自体の操作は慣れた。
この世界に火や水といった属性魔法?が存在するかどうかは分からない。火や水といったものを想像するのは簡単だけど、それに至る過程も分からない。分からないことだらけだ。
しかーし!柄にもなく魔法というものにテンションが上がっている私は考えた!属性や過程が分からないなら無視すればいいじゃないかと!
とりあえず、いつもの練習用の木に向かう。木から5メートル程離れた地点で右の掌を前に突き出し、いかにも魔法を放つかのようなポーズを決める。
魔と破壊の神様であるミカヅキ様は言っていた。”血を集め、凝縮し、形を整え、撃ちだす。これだけで一つの魔法が出来上あがる”と。ならばそれに倣ってみようではないか。
魔力を集める場所は突き出した掌の前方。集めるのは身体を血のように巡る魔力。魔力の周囲から圧力をかけるように圧縮。形は球体で大きさは手のひらに収まるくらい。
すると以外にも簡単に事は進んだ。掌から真っ黒な何か、まあ魔力なんだけど。その魔力が湧き出てきてウゾウゾと前方に集まっていく。我ながら不気味すぎる。そして球体を形どりながら凝縮されていく。魔力の量はとりあえず出来上がるであろう球体の三倍ほどの大きさ?をイメージ。そして完成。
撃ちだし方は銃を参考。といっても私には弾丸が回転しながら飛んでいる、くらいの知識しか無いけど。まあ問題は無いはず。ここで一度深呼吸を入れる。そして。
「…魔力弾!」
そう言い放って私は魔力を撃ちだすイメージをぶつけた。
ヴォンッ!!バッキャァ!
一瞬だった。一瞬で魔力弾は目標の木へ命中し、叩き折った。
幸いにも放った魔力弾は木を貫通した後にすぐ霧散した。あの魔力量でこの破壊力、下手したらどこまでも飛んで行って森林を破壊したかもしれない。イメージが強すぎたか?それとも他の要因が?
あまりの威力に呆然としながらも原因を考える余裕がある。だいぶこの世界に染まってきたようだ。
新たな発見と課題。まだまだやるべきことは多いと実感させられた一日だった。